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第84話 死なせはしない

 路地の入り口。

 そこから俺とシモンの元へと歩いてくる人物、それは俺の妹……カレンだった。


「カレン、どこまで見ていたんだ?」

「初めから今まで、その全てです。それより……」


 カレンはシモンの方に視線を向ける。

 どうかしたのだろうか?

 気になってシモンの方を見てみると、彼の身体には漆黒の槍が一本刺さっていた。


「シモン! 大丈夫か!?」

「アベル……」

「喋るな! 『回復(ヒール)』! 『回復(ヒール)』!」


 俺は何度も回復魔術を唱える。

 それによって傷は塞がるが、シモンは一向に良くならない……!

 これが俺の回復魔術の限界か……っ!


「アベル……もう、やめておけ」


 既にシモンの声はか細い。

 それ程までに弱っているんだ。


「いや、まだだ……ッ! 『回復(ヒール)』!」

「……意味が無いのは……俺が一番わかっている……」

「諦めるなシモン!」

「もう……ダメだ」


 シモンはその言葉を最後にまぶたを閉じた。

 俺の心にも諦めが見え始めるが……まだだ。

 まだ何か助かる手がかりがあるはずだ!


 『回復(ヒール)』は傷を癒す魔術。

 既に血を流し過ぎ、生きる力を失った者にかけても意味は無い。

 じゃあ……どうすればいいんだ?

 傷? 

 癒す? 

 生きる力?

 生きる、力……?


 ……思いついた。

 シモンを助ける方法。

 そしてその"あて"が。


「シモン。少し待っておけ」


 俺はぐったりとしたシモンを抱える。


「……お兄様、どちらへ?」

「古い知り合いの所だ。……話は後でするよ、カレン」

「……わかりました」


 俺は真剣なカレンの眼差しを背に、路地を駆けだした。

 アマネ・ハルデンベルクの元へと──


 ◇◇◇


 アマネの家については再会した時にどことなく聞いていた。

 現在は学院からさほど遠くない所に住んでいる。


 俺の家からは歩いて30分ほど。

 この路地からなら20分はかかる。

 しかし魔石を食べ強化された今の俺の速度は、普通の魔族なんかよりもよっぽど速い。

 単純なスピード勝負で負けるのは、新魔王とキザイアさん、そしてスーツのあの魔族くらいだろう。

 だから、アマネの家にはすぐに着くことが出来た。


「アマネ! いるか!」


 俺はシモンを抱えながら、アマネの家の玄関を叩く。

 近所迷惑かも知れないが、今はそんな事も言っていられない。

 そして俺の願いが通じたのか、アマネはすぐに出てきてくれた。


「……アベル?」


 アマネは当然パジャマ姿。

 それに、いつもより眠たそうだ。


「……どうしたの?」

「アマネ、こいつを助けてくれないか」

「……いいよ、待って」


 アマネはそう言うとパジャマの袖をまくった。

 俺もそれに合わせて、剣を一度玄関先に置き、シモンをしっかりと抱えた。

 そしてアマネは、その小さな手をシモンにかざし、


「……『生命力操作(ライフコントロール)』」


 シモンの生命力を増幅させていく。

 それによってシモンの細い呼吸は徐々に大きくなり、ついには──


「……アベル?」


 再度目を覚ました。


「あぁ俺だ」

「お前が助けてくれたのか……?」

「いや助けたのは彼女だ」


 シモンはその顔をアマネの方へと向ける。


「ありがと……え!? アマネ・ハルデンベルク!?」

「……正解」

「なぜだ!? なぜここに!?」


 シモンは俺の腕の中で暴れ出す。


「だからお前を助けてくれたって言っただろ」

「……助けた」

「……え?」


 ぽかんとするシモン。

 思考が追い付なかったのか、しばらく口をぽかんと開けたまま動かなかった。

 そして1分くらい経った後に、


「そろそろ大丈夫か、シモン」

「……ん? あぁ!」


 ようやくシモンは口を動かした。


「……思考、停止」

「そう! アベル、なんでハルデンベルクさんと知り合いなんだ!?」


 シモンは何故か俺に突っかかって来た。

 いつも偉ぶっているシモンもアマネには敬称をつけるんだな。

 それほど「アマネがすごい」という事なんだろうが……。


「色々あってアマネとは……」

「アマネ!? 名前で呼んでいるのか!?」

「ま、まぁ一応……」


 やべ……。

 結構めんどくさい事になりそうだな。


「どんな関係なんだ!?」

「えっと……」


 なんて言うべきか……。


「……抱き合った」

「アマネ!?」


 確かに学院ダンジョンの地下で別れ際に抱き合ったけど!

 話がややこしくなるし、その言い方は色々とマズい……!


「何だって!? お、お前達!?」

「違う、違うんだシモン!?」

「なら……冗談なのか?」

「……本当」

「どっちなんだよおぉ!!」


 シモンの叫びが暗闇の中こだまする。

 もう完全に近所迷惑だろ!


「静かにしろシモン、もう夜中だぞ!」


 俺はシモンの口をふさいだ。


「ふが、ふが……」

「シモン、落ち着くんだ。いいな、いいな」


 俺はシモンの眼を見てそう言い聞かせる。


「……そういう、趣味?」

「……アマネも落ち着くんだ、わかったね」

「……仕方、ない」


 俺は一度周りを静かにさせた。

 このまま続けたら俺の方が倒れてしまいそうだ。


「ふぅ……疲れたな」


 俺は重いため息をついたが、その時には既に、太陽が上がり始めていた。


「もう、こんな時間か」

「……朝。……眠り、足りない」


 アマネは眠たげにまぶたをこする。

 背も小さく童顔のアマネのそんな動きを見ていると、本当に眠たそうで、罪悪感が強くなってくる。


「悪いな、こんな時間に起こしに来て」

「……別に、良い。……会えたし」

「そうか、今日はありがとな」


 俺はアマネの頭をなでた。


「シモン、俺達はこの辺で帰ろうか」

「わかった、俺も眠たいしな」

「じゃあ、俺達は帰るよ、ばいばいアマネ」

「ありがとうございました」

「……おやすみ」


 そのままアマネはほぼ閉じかけた目のまま、家の扉を閉じた。

 俺達はその姿を見送ってから、シモンの家へと向かい始めた。


「シモン、アマネとかの事は黙っておいてくれないか」

「別にいいが、どうしてなんだ?」

「お前もそういう反応したけど、俺とアマネが知り合いだと驚かれるだろ」

「確かに、ものすごくビビったな」

「それと……シモン、もう道を踏み外さないよな」

「あぁ、アベルのおかげさまでな」

「なら……また会おうな」


 俺はシモンに拳を突き出した。


「もちろんだ」


 シモンも拳を突き出す。

 それによって俺とシモンの拳はぶつかり、小さな音を立てた。


「アベル、俺の家ここだから」

「じゃあな、気を付けろよ。詰所の衛兵とかに保護して貰えよ」

「あぁ、また来週」


 そうして俺とシモンは朝日を浴びながら別れる事になった。

 一応シモンが家に入っていくのを確認し、誰かにつけられてないかも確認し、俺も家に帰る事にした。



「ただいまー」

 小走りで家に帰り、玄関を開くなり声をかけるが、返答はなかった。


「カレン……もう寝たのか?」


 実際外はもう朝だ。

 寝ていてもおかしくない。


 喉が渇いていたのもあって、俺はそっとリビングの方へと向かったが、そこで俺はカレンの姿を見つけた。

 カレンはテーブルに突っ伏した状態で寝ており、その目元は赤く染まっていた。


「……いつも心配かけてばかりだな」


 俺はカレンの隣の席に腰かけた。

 もう喉の渇きなんて感じていない。


「本当、ごめんね」


 カレンの頭をなでながらそう呟くが、カレンの耳には届いていないだろう。

 起きたら……言わなきゃいけない事がたくさんあるな。

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