第80話 シモンとガルファ
キーンコーン、と終業の鐘が鳴る。
俺はそれを聞いて、おもむろに席を立ち上がった。
「さよならオリヴィア、また明日」
「さよならアベル。何か急いでるの?」
「まぁちょっとね」
俺は急いで教室を出る。
そして廊下を進み、3年2組──シモンのクラスの前までやって来た。
しかし、
「うーん……いないな」
外から中の様子を覗き見てみるけど、既にシモンの姿はない。
そこで、
「あの、ごめん」
教室から出てきた生徒に話しかけた。
「あれ、最下位のバカベル君じゃん。なに? 何の用?」
その女生徒は開口一番俺に突っかかって来た。
でも、ここは我慢だ。
「シモンがどこに行ったかわかる?」
「シモンなら闘技場にでも行ったんじゃない?」
「ありがと」
俺は軽くお礼を言って足早に教室前を立ち去る。
「ちょっと!」
後ろから女生徒の声が聞こえてくる。
確かにいきなり話しかけて、いきなり去って行ったら怒るかも知れない。
それが最下位の俺ならなおさらだ。
でも今の俺にそれを気にする余裕はない。
そしてその後。
俺は学院中の闘技場で、生徒達を見て回った。
その中には先週話しかけたり、見覚えがあったりする人もいたが、目的の人物は見つからなかった。
「……いないな」
走り回ったおかげで、かなり疲れた。
なので闘技場外のベンチに腰かける。
「はぁ……」
にしても本当に見つからない。
本当に闘技場にいるんだろうか?
あの女生徒も「じゃない?」って疑問形だったし……もう帰ったんじゃないのか?
「まじかぁ……」
と俺は深くうなだれていると、
「……っく、ここにもいないか」
俺の近くに、角刈りの大男、ガルファがやって来た。
ガルファのいる場所は俺の座るベンチと木を挟んでいて、お互いの姿自体は見えない。
おそらくガルファは、俺の存在に気付いてさえいないだろう。
しかし俺はガルファの存在に気が付いている。
そしてガルファが息を切らしているのにも気が付いている。
「はぁ……どこいっちまったんだよ……」
ガルファは悲しそうに独り言を呟く。
「急に強くなったとか言い出して、もう練習もやめちまったのか……」
「……」
「くそっ……シモン……」
……。
ガルファ……お前良い奴だな。
それにシモン、お前は良い友人を持っているじゃないか……。
「……どうかしたのか?」
俺の口から出る言葉。
気が付けば俺はベンチを立ち、ガルファに話しかけていた。
「ん? 誰だ君は」
「……アベルだ」
「んー……あぁ」
ガルファは一瞬考え込んだが、どうやら思い出したようだ。
俺が最下位のバカベルだと。
「アベル君か……」
「あぁ。悩みがあるなら聞くぜ」
「いや、他人においそれと話すような事じゃないんだ。すまないな」
他人か……ま、そう思うよな。
実際、首を突っこまなければ俺は他人なのだろう。
"首を突っこまなければ"の話だがな。
「悩みなら分かってる。最近のシモンの事で悩んでるんだろ」
「……っ! どうしてそれを」
「俺もシモンの事を心配してるからだよ」
「そ、そうなのか!? ……あいつも捨てたもんじゃないな」
ガルファは嬉しそうな表情を見せる。
「あぁ、捨てたもんじゃないさ。だから君とシモンの間に何があったのか教えてくれないか?」
「いや、大した事じゃないんぞ」
「何でもいいんだ、話してくれ」
俺は真剣な瞳でガルファを見る。
そしてその思いは伝わったのか、
「……そうか、なら──」
ガルファはシモンについてを話し始めてくれた。
それからのガルファの話は単純だった。
まず、調子が出ずにシモンの成績がどんどん落ちていった。
シモンは元々貴族の家の者だから、プライドも高く受け入れれなかったそうだ。
そして唯一とも言っていい親友のガルファは、それを慰めたが完全に逆効果だったらしい。
その当時、シモンとは反対にガルファの成績は少しずつ上がり、今では50位内にいるそうだ。
おそらくシモンとしてはそれが悔しかったのだろう。
親友は上がっていくのに自分は下がっていく、その悔しさが分からない訳では無い。
そしてシモンのその悔しさのせいで、結果的に二人は望まぬ仲たがいになってしまい、関係の修復が出来ないまま今に至り、シモンが急に強くなったと言い始めた、という訳だ。
「……そういう事だったのか」
「あぁ、これは俺にも責任のある事なんだ」
「……」
俺は何と言うべきか分からず、言葉に詰まってしまった。
話を聞く限りではシモンが悪い。
でもガルファはその一端が自分にあるとも言っている。
それを無下にするべきじゃないだろうし、結局俺は何も言えなかった。
「話聞いてくれてありがとうな。少しすっきりしたよ、じゃあな」
「あぁ、じゃあな」
……俺はシモンを助けてやりたい。
ガルファの為にも。
そして確かめなければならない。
"急に強くなった"という言葉の真実を。




