表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/116

第79話 生徒会室前

 あれから特に何かが起こったりはせず、俺は平凡な日常の中、魔術の研鑽をしつつ水曜日を迎えた。

 結局、火曜もシモンは来ず、俺はどうすることも出来なかった。


「そういえば今週の魔術戦はどうするんですか?」


 学院への登校中。

 カレンが俺に問いかける。


「多分相手はいないだろうし、生徒会のマッチングに頼るよ」


 生徒会のマッチングの期限は水曜までだ。

 木曜に相手が教えられ、金曜に試合となる。

 だから本人達で相手を探さない限り、木曜も学院に行かなければならない事を、めんどくさいと思っている人は大勢いるらしい。


「良い相手だといいですね」

「うん。まぁ勝てるか分からないけど……」


 前日まで相手がわからないんだ。

 その不安はある。

 だけどそんな不安を吹き飛ばすように、


「どんな相手が来ようともお兄様なら楽勝ですよ」


 カレンはその美しい笑みを俺に向けた。


 ◇◇◇


「これかな?」


 目の前の机、その上に置かれた用紙を一枚取る。


 休み時間だから生徒会室に来てみたけど、そこには誰もいなかった。

 まぁただの休み時間にいるとは俺も思っていなかったが。

 しかし、代わりとして生徒会室の前には紙が積まれていて、そこには『魔術戦自動組合せ申し込み』と書かれていた。


「これだな」


 俺はその用紙に必要事項を書きこみ、隣にある回収用の箱を見る。


 一瞬こんなに適当でいいのか、とも思ったが、しばらくすれば、うっすらと魔術回路の雰囲気が感じ取れた。

 それからよく見てみれば、全然適当じゃ無かった。


 用紙の端に書かれた小さな謎の印。

 これはおそらく物質の耐久性を高めるものだ。

 専門外だからあまり詳しくはわからないけど、単純な衝撃から耐火や耐水までをも防ぐ優れモノだろう。


 これをここにある用紙全部に刻んでいると考えると、製作者は魔術印に精通していて、なおかつ手際が良いのだろう。

 魔術印なんてあまり戦闘中に使えるものでは無いが、この人ならそれも可能だな。


 更に、箱にも複雑な魔術印が何重にもかけられて、今の俺のようにかなり高度な魔術師でなければ、見破る事さえ出来ないだろう。

 確かに魔術師にとってこういった契約的な物は大切だけど……ここまでする必要ある?


 そんな事を考えていた時。

 ちらっと見えた生徒会室の目の前の窓、そこから映る景色によって俺の心臓は一瞬止まった。


 男なのに肩を越す長い髪。

 口にうっすら浮かべる嫌味な笑み。


「……シモン」


 連れていかれたはずのシモンが一人の男子学生の前に立っていた。


「……ッ!」


 俺は何故か嫌な予感がし、一度窓の下の壁へと身体を隠した。

 そしてバレないように、目から上だけを出して見守ることにした。


「こんな所に呼び出してどうしたんだよシモン」


 角刈りで立派な体格をした、シモンの前に立つ男子生徒はそう言う。


「ガルファ、俺は強くなった。今までの俺とは違う」

「そうか」


 ガルファと呼ばれた男性はシモンの"強くなった"という事にあまり関心は無い。


「俺の活躍を見ていろ! きっとお前に追いつくからな!」

「別に俺はそんな事、気にして……」

「俺は気にしているんだ! お前に置いて行かれた事を」

「俺は置いて行ってなど……」

「どっちでもいい。お前はただ俺の活躍を見ていればいいんだ」


 そう言うとシモンはその場から去って行ってしまう。


「……シモン」


 ガルファはその姿を悲しそうな瞳で見つめていた。


 そして会話に集中するあまり、俺は用紙を入れ忘れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ