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第75話 2年次首席

 チュンチュン、と鳥の鳴き声が聞こえる。

 もう朝か。


「ふぁ~」


 今日は金曜日、魔術戦の日だ。

 でも結局俺の相手は見つから無かった。

 やっぱりマッチングで探すしかないな。


 そんな事を考えながら、俺は制服に着替えリビングへと向かった。 


「おはようカレン」

「おはようございますお兄様」


 もう既にカレンは朝食の用意を終わらせていた。


「こんな日までしなくてもいいのに」


 今日は魔術戦がある日だ。

 俺が無いとはいえ、カレンはもちろんあるはずだ。

 しかも今日はカレンにとっては2年次初の試合だろうに。


「いえ、こういう日だからこそいつも通りに振る舞うんですよ」


 カレンは笑みを向けてくれる。

 白い肌に仄かな朝日の光が射し込み、カレンの儚げな美しさが際だつ。

 俺はその美しさを息をのんで見つめていた。


「だから楽しみにしていてくださいねお兄様」

「あっ、うん」


 ◇◇◇


「リドリーさん、前へ」


 審判の先生の掛け声によって、

 背の高い気の強そうな女性が闘技場の左奥から現れる。


「「「うおおおおお!!」」」


 それによって、大きな歓声が観客席に巻き上がる。


「うお、すごいな」

「彼女も結構な実力者だからね」


 隣の席のオリヴィアは冷静に教えてくれる。


 オリヴィアは先程まで魔術戦をしていた。

 俺とカレンもそれを見に行っていたのだが、文字通り瞬殺で終わった。

 だからそのすぐ後、俺はオリヴィアと二人でカレンの魔術戦を見に来ていた。


「マミヤさん、前へ」


 そして審判によって黒髪の優美な女性が右奥から出てくる。

 俺の妹、カレンだ。


「「「うおおおおおおお!!!」」」


 そして先程よりも大きな歓声が沸き立つ。


「すごい人気ね、カレンちゃん」

「実力もあってあれだけ可愛いからな」


 カレンの見た目は身内のひいき目に見ても整っている。

 実際すごくモテるだろうし、そこに首席という立場があったらどうなるか?

 それは今の歓声の大きさに現れていた。


「ふ~ん」


 オリヴィアは少し不機嫌そうに、俺から顔を逸らし闘技場に目を向けた。

 しかしそんな俺達を尻目に、


「では開始!」


 審判は手を振り下ろし、戦いの火ぶたが切って落とされた。


「『雷矢サンダーアロー』!」


 先に動いたのはリドリーだ。

 彼女は雷の矢を超高速で放った。


 その速さはすさまじいものだ。

 それを見るだけでも、彼女がかなりの実力者だと分かる。

 しかし、


「『氷壁(アイスウォール)』」


 カレンはその速度に追いつき、氷の壁で雷を防いだ。


「来ると思っていたぞ! 『岩槍(ロックランス)』!」


 リドリーは徐々に右手に巨大な岩の槍を形成していく。

 これは……うまい。

 おそらくカレンが氷で防御すると考えていたのだろう。


 氷の裏からなら大した攻撃は出来ない。

 そして自身はゆっくりと巨大な岩の槍を作り、それで氷ごと倒すつもりなのだろう。

 作戦は良いな……でも、


「『氷槍(アイススピア)』」


 カレンは氷の壁の内側に手を触れる。

 すると壁の外側に槍が形成される。


「何ッ!?」


 リドリーが驚くのも無理はない。

 壁に魔力を通してその向こうで魔術を編む、なんて常人の出来るテクニックじゃない。

 これはカレンのスキルを用いた、繊細な魔力操作の賜物だ。


 そして、すぐに形成を終えた氷の槍。

 それは壁から放たれ、リドリーの元へと飛んでいく。


「くそっ!」


 リドリーも咄嗟に岩の槍を放つが、まだその形は綺麗に尖ってはいない。

 だからこそ――


「ぐわぁああ!!」


 リドリーの身体は氷の槍によって大きく後方へと飛ばされる。

 そしてカレンは、ひび一つない氷の壁の後ろから、その様子を優雅に眺めていた。


「勝負あり! 勝者、カレン・マミヤ!」

「「「うおおおおおおおおぉぉぉおお!!!」」」


 割れんばかりの歓声が会場を包み、その日のカレンの勝利は決定的なものとなった。

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