第74話 相手探し
「『火球』!」
魔術服を着た学院の生徒は、火の玉を形成してそれを的へと飛ばす。
「よし」
それは無事的に命中し、的を火で燃え上がらせる。
その様子を俺が見てみたところ、威力は申し分ないが、あのスピードでは避けられてしまうかもしれない。
実際俺なら避ける事は簡単だろう。
「あの人を誘ってみようかな?」
現在は既に放課後。
俺は闘技場で魔術戦の相手をしてくれる人を探していた。
カレンやオリヴィアは一緒に来る、と言っていたがそれは俺が断った。
当たり前だ。
彼女たちのような成績優秀者が隣にいたら、まとまる話もまとまらないだろう。
「すいません」
俺は練習に励んでいた男子生徒に話しかけた。
「はい、何ですか?」
彼は脇に置いていたタオルで汗を拭きながらこちらを向いた。
「魔術戦の相手とか決まってますか?」
「いや、今週は決まってないですね」
「良かった。実は対戦相手を探してて」
「そうなんですか。全然いいですよ」
やった!
でも……
「その……何年生ですか?」
「2年ですね」
「あっ」
俺は3年次の途中編入生だ。
練習の試合とかならともかく、もちろん公式の試合は出来ない。
だから俺はこの後彼に謝って、他の生徒を探しに行った。
その後、俺はたくさんの生徒に話しかけた。
このバルザール魔術学院は広く、闘技場の数自体も多い。
だから闘技場で練習する生徒自体はたくさんいたんだが、年齢ややる気、そして予定が空いていない、といった理由で俺は対戦相手がなかなか見つからない。
そして、いつの間にか断られた人数は10人を越えた。
「ごめん。何年生かな?」
俺はロン毛の男性へと話しかける。
「3年だ。それがどうした?」
結構偉そうだな、こいつ。
「魔術戦の予定とか空いてるかな? 俺、明後日の相手探してて」
「開いてはいるが……」
ロン毛の男は俺の様子をじろじろ見てくる。
「お前弱そうだな」
「え?」
突然言われたから頭が追い付かなかった。
「弱そうだと言っているんだ」
「……本当に弱いか、確かめてみるか?」
こいつの実力がどれ程かはわからない。
しかし、俺はあれだけの修羅場を抜けて来たんだ。
ここでただただ馬鹿にされては俺の気が収まらない。
「いいだろう。結果は目に見えているがな」
俺はこの闘技場の端に向かう。
ロン毛の男はその場から動かず偉そうにふんぞりかえっていた。
「始めるぞ、いいのか?」
俺は杖を抜く。
「いつでもいいぞ」
ロン毛の男は杖をくるくると回している。
完全になめられているな。
なら、
「『石散弾』」
俺は数えきれないほどの石のつぶてを飛ばす。
かなり手加減してやっているとはいえ、そのつぶては範囲もさることながら密度も高く、スピードを落としてはあるが、かわすのは不可能だろう。
「『水壁』っ!」
ロン毛は慌てて水の壁を作る。
それによって石のつぶての動きは止められ、そのほとんどが水の中に埋もれていく。
「よしっ、間に合った! どうだ! おま……え!?」
ロン毛はぎりぎり間に合ってどや顔をするが、その顔はすぐに引きつったものとなる。
……当たり前だ。
俺はお前の視界にはいないのだから。
「動くな」
俺はロン毛の後頭部に杖を突き付ける。
そう、俺は既にロン毛の背後にいたのだ。
あの石のつぶてはただの目くらましだ。
だから、あえてスピードを落としてまで、つぶてで目の前を見えづらくしたのだ。
「ままま待て! わかった俺の負けだ!」
ロン毛は両手を上にあげ、降参を示す
「……とっとと失せな」
「ひいい!」
ロン毛はそのまま走り去っていった。
その後も少しは対戦相手を探してみたが、結局誰一人として見つからなかった。




