第73話 主席になる為に
コンコン、と扉がノックされる。
「お兄様、朝ですよ」
「ん~。わかったー」
光がカーテンの隙間から部屋に入ってきている。
もうこんな時間か。
まだ眠いな……。
しかし今日も学院はある。
俺は制服の魔術服に着替え、ぼさぼさの頭のままリビングへと向かった。
「お兄様今日はいつもより遅いですね」
「昨日、少し疲れてて……」
そう会話を挟みつつも、俺達はテーブルに着き、朝食を食べ始めた。
「残ってしていた用事ですか?」
そうだった。
昨日学院に残っていたのは"用事があったから"という事にしていたんだった。
「うん、そうだよ」
隠し事をするのは少し心が苦しい。
けど、実際に用事で残っていたのは事実だからな。
「身体には気を付けてくださいね」
「わかってるよ。そういえば魔術戦はどうするの?」
今日は水曜日だ。
木曜日を挟んで金曜日には魔術戦だ。
俺も相手を探さないといけない。
それにしてもカレンはかなり魔術戦を申し込まれたはずだ。
どうするんだろうか?
「抽選らしいのですが、明日教えて頂けるらしいですね」
「相手とかは選べないの?」
「10位以内の方でしたら可能ですね」
「じゃあ、それ以外はダメなんだ」
「そうですね」
今、ちょっと嫌そうな顔したな。
首席という立場。
こうして特別報奨金がもらえたり反面、嫌な面も当然あるんだろうな。
「お兄様は、魔術戦はどうなさるんですか? その……」
カレンは少し言いにくそうにしている。
「前よりも強くなっているからだろ」
「はい」
「やろうと思っているよ」
「良かったですっ。これでお兄様の実力が理解してもらえますね」
カレンは嬉しそうだ。
でも、別に実力を示したい訳では無いし、俺はただ目的のためにも純粋に首席になりたいだけだ。
俺の過去の事も考えれば、本当は出来るだけ目立ちたくない。
しかし、カレンなりに今の俺の扱いに思う所があるのだろう。
妹ながらそれを慮ってくれるのは俺も嬉しい。
「う、うん」
なら黙っておこうか。
◇◇◇
「うーん」
俺はもらった魔術戦の申し込み用紙を見ながら悩む。
カレンも応援してくれたし、俺も魔術戦自体はしたいのだが……
「どうしたの? 浮かない顔してるけど」
隣の席のオリヴィアに声をかけられた。
「魔術戦をしようと思ったんだけど、誰とすれば良いかわからなくて」
登校してから、休みの時間に誰と対戦しようかを考えていた。
しかし交友関係の浅い俺にとって、相手を見つけるというのは至難の業だ。
「してあげたいのは山々なんだけど……」
オリヴィアは少し気恥ずかしそうに悩む。
気の良いオリヴィアなら喜んで魔術戦をしてくれると思う。
しかし、その様子からも分かるように、彼女にはそう易々と試合が出来ない理由があるのだろう。
何となく俺にもその理由は分かる。
カレンと同じく、成績上の理由だ。
「俺がオリヴィアと戦うなんてまだまだ早いよ」
「その、ごめんね」
オリヴィアは申し訳なさそうに俺に微笑んだ。
正直……可愛い。
「代わりと言っては何だけど、闘技場に行ってみたら? まだ相手の決まっていない人がいるんじゃない?」
「確かに!」
闘技場で練習している人たちはみんな、魔術戦にやる気のある人達だろう。
ほとんどの人たちが無理だとは思うけど、もしかしたらその中に、今週の対戦相手が決まってない人がいるかもしれない。
「ま、見つからなくても、最悪来週まで待てば始まるでしょ」
「ん? 始まるって何が?」
「ランダムの魔術戦よ」
「あぁー。あったなー」
今、思い出した。
そういえば「申し込んだ人同士をランダムにマッチングさせる」なんてのを生徒会がやってたな。
それなら最悪対戦自体は来週からでもいいな……。
ま、気楽に探すとするか。




