第71話 望んでいない再会
「じゃあその事はくれぐれも内密にね」
200年前。
俺が聖杖の勇者だった頃の話だ。
「……わかった」
「もちろんじゃ」
「じゃあね、二人共」
「……ばいばい」
「またな」
時間の限度もあるし、今日はこの辺りで帰らないといけない。
俺は二人に手を振って帰り道に着いた。
結構長話になっちゃったし、カレンの夕飯に少し遅れてしまうかもしれないな。
俺が早歩きで家へと向かう道。
既に日は落ちかけ、人はいない。
そして、それは突然に訪れた。
「久しいのう、聖杖の勇者」
一陣の風と共に現れた少女。
その病的に白い肌に、高く盛られた白い髪。
服装は小さな背丈にとても似合う黒を基調としたゴスロリ。
何故か灰色であったはずの瞳が紅く染まっているが、容姿はなんら変わりない。
俺がこいつと出会うのは3度目――
「あぁ、そうだな。新魔王」
俺を学院の地下へと堕とし、そして200年前に俺が討伐した少女だ。
「何故お前が生きている?」
こいつはキザイアさんが深淵へと連れ去ったはずだ。
なぜそれがここにいるのだろうか?
その理由は俺には分からない。
しかし、今俺の眼の前にいる。
それは事実だ。
「簡単だ。深淵より這い出て来たのだよ」
「……ッ! そんな簡単な話じゃないはずだ!」
深淵は地獄よりも深い場所。
それを簡単に出て来れるはずが無い!
「どうやらわしのスキルが無いのは神の手違いだったようでな。それを手に入れた途端、これよ」
……ッ!!
何だと!
新魔王もスキルを持っていなかったのか!?
それで、あの強さ。
……敵ながら努力してきたのだろな。
しかし……
「キザイアさんはどうした?」
「あやつなら死んだぞ。自身の呼び出した深淵に呑まれてな」
新魔王は不敵な笑みを俺に浮かべる。
そうか……。
生きているかもしれない、という俺の淡い期待は、泡のように割れてしまったんだな。
「……『魔剣』」
俺は右手に漆黒の剣を作り出す。
確かに、新魔王なりにも理由はあったのかもしれない。
キザイアさんにも死ぬ覚悟はあった。
でも、俺の怒りは理性では抑えきれなかった。
「死ね!」
瞬時――
剣を持った俺の身体が矢のように飛んでいく。
そして高速の一撃を放つ。
音の早ささえも超えた一撃。
常人では目で追う事さえも出来ないはずだ。
「……くそ」
しかし、俺が切っていたのは、新魔王の形をした霧だった。
「甘いわ、今の小童ではわらわは倒せん」
空中から声が響く。
俺には新魔王がどこにいるか見当もつかない。
「それに、わらわはお前と戦いに来たのではない」
「じゃあ何が目的なんだ」
「人工的な魔族に気をつけろ、と忠告しに来たのだ」
人工的、後天的な魔族。
カインもその内の一人だった。
それに注意するのはわかる。
しかし、
「それを何故お前が俺に言ってくるんだ?」
新魔王も魔族の一人のはずだ。
「わらわの目的はあんなちんけな者共とは違うからじゃよ」
「お前は何が……」
再度、一陣の風がその場に吹く。
「くっ!」
俺は咄嗟に顔を覆う。
そして次に顔を上げた時には、風と共に新魔王の気配はその場から消え、声もそれ以降、返ってくることは無かった。




