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第70話 アマネとの再会

 俺は植物園の扉を開く。

 時間は既に夕方、放課後だ。

 アマネがどこにいるかを知るためにも、俺はグルミニアに聞きに、植物園に来た。


 もちろんグルミニアには一人で聞きに来ており、カレンやオリヴィアには用事と言って先に帰らせた。

 アマネとの再会自体に関しては、出来ればカレンやオリヴィアにはバレたくない。

 そこで俺がハーフだという事や、聖杖の勇者だという事がバレてしまうかもしれないし、何よりアマネが魔族だとバレるのは一番まずい。

 カレンやオリヴィアに紹介するとしても、口裏を合わせておいた方がいいだろう。


「グルミニアーいるかー?」


 俺は大声でグルミニアを呼ぶ。


「アベルか。いるぞ」


 すると入り口付近の木々の後ろから声が聞こえてくる。

 姿は見えないが、どうやらいるようだ。


「アマネがどこにいるかを聞きに来たんだが……」


 俺はその木々を周り、グルミニアの声のする方に向かうが、


「ん? アマネか? アマネなら──」


 俺の紅い眼には2人の少女が映っていた。

 一人は白衣を着た緑髪の少女。

 グルミニアだ。


 もう一人は透き通るような黄金のツインテールと、常夏の海の様に澄んだ蒼い瞳を持つ少女。

 そのよく整った顔立ちは何も知らなければ、熟練の職人が作り上げた人形と見間違えてしまうかも知れない程整っている。


 そしてそんな美しい少女は、俺と出会った驚きからか、瑞々しい唇を半開きにしてぽかんとしている。


「──今ここにいるぞ」


 グルミニアのその言葉と共に、俺の身体は完全に硬直してしまった。

 ……完全に予想外だった。

 こんな所で偶然出会うなんて。


「……あ、アマネ」

「……アベル」

「……そ、その……久し振りだな」

「……うん」


 突然の再会に、二人して上手く言葉が紡げない。


「何をそんなに恥ずかしがっておるのだ。久し振りなんじゃろ」


 そんな俺達を見かねたのか、グルミニアが俺達の間に入る。


「ほら、アベルはアマネに言いたい事は無いのか?」

「あ、あるっ」

「"ある"じゃなくて、その内容を言わねば通じんぞ」

「う、うぅ……」

「はぁ……アマネは?」

「……嬉しい」

「他には?」

「……」

「はぁ……」


 グルミニアは大きくため息をつく。

 まぁこうも話が弾まなければ仕方ない事だろう。

 そして、


「……まぁ積もる話もあるじゃろ。しばらく二人で話すといい」


 最終的にグルミニアは俺達を二人きりにするのが良いと判断したようで、そのまま研究室の方へと歩いて行った。


「……行ってしまったな」

「……気を、使わせた?」

「かもな。とりあえず座ろう」


 俺は手で植物園のベンチを促す。

 そして、俺達はベンチに腰掛けて話し合うことにした。


「……ねぇ、アベル」

「どうした?」

「……会えたね」

「あぁ、会えたな。なんたって俺は聖杖の勇者だしな」

「……でも。……時間、間違えた」


 ……。

 そうだ、俺は一年遅れて帰って来たんだ。

 その年月は「ごめん待った?」ではすまされるようなものじゃない。

 だけど、今の俺には謝るしかない。


「ごめん」

「……いいよ。……私も、一年、早かった」


 確かにアマネは学院に1年次からいたし、アマネも時間を間違えていたのだろう。

 それに、


「そういえば1年前に会ったな」


 俺はアマネと、学院ダンジョンに落ちる前に2回程会った。

 一回はオリヴィアと植物園に向かう途中。

 もう一回はカレンと倉庫で捕まっていた時だ。


「……うん。……会った」

「あの頃俺はアマネの事を遥か雲の上の人だと考えてたよ」


 だからアマネに話かかけられた時も俺は戸惑った。

 アマネは約束した日にちの前後だから話しかけたのかもしれないが、結局俺が帰ってこれたのはその一年後だ。


「……そうなの?」


 アマネは小首を傾げる。

 それによって結ばれたツインテールの髪が揺れる。


「あぁ。だって俺は最下位でアマネは首席だからな」

「……関係ない」

「まぁ今はそう思ってるよ。だって、アマネは俺の仲間だからな」


 俺はアマネの眼を見てそう言い放つ。


 これまで俺はアマネと信じられないような体験をして来た。

 グルミニアやキザイアさんと共に新魔王を倒し、学院ダンジョンを攻略。

 そして、現代への『時空転移』。


 もし俺達のどちららかが欠けていれば、両方とも今この場にはいない。

 そうして培われた俺達の関係は、もはやただの仲間なんてレベルじゃない。


「……仲間、なの?」

「あぁ仲間だよ、グルミニアやキザイアさんもね」

「……愛玩用、じゃなくて?」

「ぶっ!!」


 俺は吹き出してしまった。


「確かに、最初は助けたくてそう言ったけど! 誤解があるよ!」


 俺は完全に忘れていたが、アマネは覚えていたか。


「……冗談」


 俺を茶化すアマネの表情は満面の笑みだ。

 それを見て俺の顔からも笑みがこぼれてしまう。


「もー。昔の事よしてくれよー!」

「……ふふ」


 初めて会った時のアマネは、家族を殺され地位を奪われ、それに止まらず人間の暴力にまみれ……おそらく世界を恨んでいた。

 でも今はこんな素敵な笑顔で笑えている。

 ……この世界も捨てたもんじゃないな。

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