第67話 動き出す歯車
「ほう、おもしろい理論じゃな」
「そうだろ。もっと詳しく説明したいけど、本がないからな」
「というか、時間は良いのか?」
「おおっと、そうだった」
グルミニアと談笑していたら結構時間が経ってしまっていた。
もう既に入学式は始まっているだろう。
始まっている、ですめばいいが。
「今何時くらいだ?」
俺は一応時間を聞くことにした。
「ちょっと待っておれ」
グルミニアはそう言って植物園の奥にある自身の研究所へと向かう。
そして帰ってくる時のグルミニアは小走りだった。
「……アベル、もう終わっておるぞ」
「え!?」
「5分前に入学式は終わったんじゃ」
「やっちまったな……。まぁ気にしないさ」
俺は笑顔をグルミニアに返した。
確かに初っ端から大事な行事をサボったのはよくないが、グルミニアとの談笑はそれ以上の価値があるだろう。
「いいのか?」
「過ぎてしまったものはしょうがないよ」
「そうか」
「それより、グルミニアこそよかったのか?」
グルミニアは一応これでも教師のはずだ。
一緒にサボっているが、入学式に出なきゃいけないはずだろう。
「わしはいいのじゃ。元から出る気はなかったからの、ははは!」
「ははは、グルミニアらしいな」
「そうであろう。しかし、式には出ないとはいえカレンは待っておるのではないか?」
「それも……そうだな」
入学式の後にどこかで食べて帰る予定だったしな。
「わしはいい。久し振りに会ったのじゃろ、カレンと仲良くせい」
「すまないな。じゃあ行ってくる」
俺はグルミニアに背を向けた。
が、そこで言っておかなくちゃいけない事を思い出した。
「あっ、そうだグルミニア」
「なんじゃ?」
「カレンとオリヴィアの事、ありがとな」
そう言い残し、俺は足早に校門へと向かった。
そして帰路につく学生たちを見ながら、俺はすぐに校門に着いた。
すると入学式の後はすぐ解散だったのか、既に校門前には、俺を待つカレンがいた。
「ごめん、待った?」
「いえ待っていませんよ」
「良かった。じゃあ行こうか」
「はい」
◇◇◇
「ふぅー食べたな」
「美味しかったですね」
「美味しかったな。今度はみんなで来ようか」
「そうですね」
家への帰りの道、俺達は満たされたお腹と共に楽しく歩いていたが、
「ん? なんでこんな所に人が集まっているんだ?」
何故か道の脇、路地の前で人が集まっていた。
「何かあったのでしょうか?」
「ちょっと見てみるよ」
俺は人だかりの後ろから路地の方を見ようとする。
しかし人が邪魔で見えない。
「すいません」
だから事情を前の人に聞くことにした。
「どうした?」
「これ、何があったんですか?」
「また行方不明者が出たんだよ。それで調査中だとさ」
「最近、続いているんですか?」
「1年くらい前からちょくちょくな」
1年前から?
俺の瞳が紅くなった時も確か女の人がいなくなった気がするな。
「なんでも、まったく痕跡を残さないから大変だそうだ」
あの時も確かそうだったはずだ。
おそらくあのスーツの男がやったのだろう。
少し嫌な予感はするが……。
……ま、でも偶然か。
「無事だといいですね」
「それがな、まれに行方不明者が帰ってくることがあるんだよ」
「え!? どういうことですか?」
「それがわからないんだよ。帰ってきた途端まるで別の人物になったかのようになるらしくてな。行方不明の間何があったか、なんて絶対言わないらしい」
「……何か裏がありそうですね」
「そうだな。お兄さん達も気をつけてな」
「はい。わかりました」
俺達は軽く会釈してその場を離れた。
まるで別の人物になったかのよう。
そう事について俺は一つだけ覚えがある。
カインの事だ。
あいつは後天的に、急に魔族になった。
そして高度な魔術を駆使し、俺と死闘を繰り広げた。
その裏にはカインを魔族に変えた何かがあるはずだ。
……この事件と無関係だといいが。




