第66話 アメリア、グルミニアとの再会
そして時は流れた。
1週間と少し、学院の入学式までの間、俺は昼に様々な用事をこなして夜は働いた。
だから時間が過ぎるのはあっという間で、すぐに入学式のその日はやって来た。
……結局、アマネには会いに行けていないが。
「お兄様、とても似合っていますよ」
「そうかな、はは」
久し振りに制服の青い魔術服を着たけど、自分でも少し似合っていると思う。
実は俺の身長が少し伸びていて、前よりかっこよく着こなせていると思う。
「カレンも似合ってるよ」
一応俺も褒めて返す。
まぁカレンは何着ても似合っているけど。
「そうですか、ふふ」
「じゃあ、向かおうか」
「はい」
玄関を開け、学院に向かう。
1年前まで歩き慣れた学院への道、何度も見た美しい街の景色に、そこを何人かの生徒が歩いているのも見える。
なんだか、これだけで感動してくるな。
「……お兄様、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だよ! ちょっと目にゴミが入っただけだよ! そ、それよりも入学式が終わるのって何時ごろだっけ?」
「えーっと、確かお昼前ですね」
「じゃあ入学式が終わったら、どこかに食べに行こうよ」
「はいっ」
そんななんてことない話をしながら俺達二人は登校する。
そして校門を少し過ぎたところで、
「あれ、もしかしてアベル先輩ですか?」
後ろから声を掛けられた。
そこにいるのは青い短髪に青い瞳をした、いかにも活発そうな少女。
カレンの同級生のアメリアだ。
「久し振りだね」
「はい、久し振りですね。……で、どうだったんですか?」
アメリアは何気無い質問を俺に問いかけてくる。
「どうだった、って何が?」
「え? カレンちゃんからは旅に出たって聞いたんですけど」
旅? 何の事だ?
「ん? え、あぁ! そうだった、そうだったよ」
そうか。
カレンが俺の事を黙っておいてくれたのか。
「旅なら、すごく楽しかったよ」
「えー、聞きたいな! 今度色々聞かせてくださいね先輩」
「あぁもちろん構わないよ」
まぁ過去とは言え、旅をしていたのは事実だしな。
「やったー! じゃ、2年はこっちなんで、また今度お願いしますよ」
「ではお兄様」
そう言って二人は2年生の校舎の方へと向かった。
俺も3年生の校舎の方へと向かうかー、と……そう思った時、
「アベル、久しいのう」
再度横から声を掛けられた。
その聞きなじみのある声に喋り方。
彼女だろう。
「久し振りだな──」
声のした方を振り向くと、そこにいたのは白衣を着た背の低い少女だ。
その緑の髪に翡翠の瞳。
……俺が彼女を忘れているはずが無い。
「──グルミニア」
「そうじゃな。しかしここでは人目に付く。こちらへ来い」
そう言われ、白衣を着た緑髪の少女に俺は付いていく。
そして校舎を過ぎ行きつく先は当然、植物園。
俺とグルミニアの再会にはうってつけの場所だ。
「ふぅ……しかし無事で良かった」
俺とグルミニアはベンチに腰掛ける。
「確かに1年……いや200年会っていなかったからな」
「1年で良い。過去に行く前のお主もわしにとってはアベルじゃ」
「ありがとう。……というかこんなくだけた話し方でいいのか?」
200年前なら同じくらいの年かも知れないが、今は圧倒的にグルミニアの方が年上だ。
「よい、今更ハイトウッド先生などと呼ばれても気持ち悪いだけじゃ」
「ははは、確かにな。でも最初はどう思ってたんだ?」
学院の一年生として俺が入学したての頃だ。
あの頃の俺は当然グルミニアの事を知らなかったが、グルミニアは俺の事を知っていただろう。
「そりゃ最初は『ぬおぉっ!? アベルッ!?』ってなったのじゃ。本当に目が飛び出るかと思ったぞ」
「はは、しかもまだグルミニアを知らないし敬語だもんな」
「そうじゃぞ。過去に行く前のお主って事くらいは簡単に察しはついたが、それでも驚いた事には変わりないからの」
「はは、悪い悪い」
「それにカレンを連れて来た時なんかは、心臓が破裂するかと思ったのじゃ」
胸の前で腕を交差し、謎のジェスチャーをするグルミニア。
しかしすぐにジャスチャーを止め、背もたれに身を預けると同時に、こちらに顔を向けた。
「……それにしても、本当に無事で良かったのじゃ」
「あぁ、ありがとう」
「わしとお主の仲じゃし、気にするな。それに、言葉で感謝するくらいなら酒を持ってこい!」
笑顔を見せるグルミニア。
だがその後、グルミニアの顔付きはすぐに真剣なものへと変わる。
「とまぁ前置きはこの程度にしておこう」
「そうだな」
「アベル、聞きたいことがあるのではないか?」
「……あぁ」
「答えるから言ってみるのじゃ」
そう言われ、俺は疑問を口に出した。
「……なぜ生きているんだ?」
グルミニアと共に新魔王を倒したのは200年前。
普通なら生きているわけがない。
「お主はドルイドがどれほど生きるか知っておるか?」
「いや知らないな」
「ドルイドは死なないのじゃよ」
「……ッ!」
「正確に言えば寿命がない、というだけじゃ」
「そんな事がどうやって?」
「昔、モンスターが世界からエネルギーを貰っていると話したじゃろ」
「あぁ」
覚えている。
魔王城に向かう際の森の中で聞いたことだ。
「モンスターがそうなのかはわからんが、ドルイドと呼ばれる魔術師は世界のエネルギーで生きてるんじゃよ」
「そうか……それでモンスターもそうだと考えたのか」
「そういうことじゃ」
「でも、グルミニアの師匠は死んだんじゃないのか?」
「師匠は……自殺したんじゃよ。ドルイドの寿命に耐えられなくてな」
グルミニアの表情が暗くなる。
「……すまないな」
「いやいいのじゃ。それより、入学式があるのではないか?」
「あっ、そうだった」
「なら早めに行ってくるのじゃ。わしにはまた会えるじゃろ」
グルミニアは笑顔で俺を見送ろうとしてくれる。
最初は入学式前に教室に行っておく予定だった。
だがその笑顔を見て、俺の予定は変わった。
「……いや、しばらくここにいさせてもらうよ」
「どうしてじゃ?」
「入学式より、仲間との再会の方が大事だろ」
「……そうか。アベルは昔からそういう所だけは気が利くの!」
「そういう所だけってなんだよ」
「ははは、ちょいと待っておれ。今飲み物を持ってくる」
「ありがとう。長居することになるだろうからな」




