表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/116

第66話 アメリア、グルミニアとの再会

 そして時は流れた。


 1週間と少し、学院の入学式までの間、俺は昼に様々な用事をこなして夜は働いた。

 だから時間が過ぎるのはあっという間で、すぐに入学式のその日はやって来た。

 ……結局、アマネには会いに行けていないが。


「お兄様、とても似合っていますよ」

「そうかな、はは」


 久し振りに制服の青い魔術服を着たけど、自分でも少し似合っていると思う。

 実は俺の身長が少し伸びていて、前よりかっこよく着こなせていると思う。


「カレンも似合ってるよ」


 一応俺も褒めて返す。

 まぁカレンは何着ても似合っているけど。


「そうですか、ふふ」

「じゃあ、向かおうか」

「はい」


 玄関を開け、学院に向かう。


 1年前まで歩き慣れた学院への道、何度も見た美しい街の景色に、そこを何人かの生徒が歩いているのも見える。

 なんだか、これだけで感動してくるな。


「……お兄様、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だよ! ちょっと目にゴミが入っただけだよ! そ、それよりも入学式が終わるのって何時ごろだっけ?」

「えーっと、確かお昼前ですね」

「じゃあ入学式が終わったら、どこかに食べに行こうよ」

「はいっ」


 そんななんてことない話をしながら俺達二人は登校する。

 そして校門を少し過ぎたところで、


「あれ、もしかしてアベル先輩ですか?」


 後ろから声を掛けられた。


 そこにいるのは青い短髪に青い瞳をした、いかにも活発そうな少女。

 カレンの同級生のアメリアだ。


「久し振りだね」

「はい、久し振りですね。……で、どうだったんですか?」


 アメリアは何気無い質問を俺に問いかけてくる。


「どうだった、って何が?」

「え? カレンちゃんからは旅に出たって聞いたんですけど」

 旅? 何の事だ?

「ん? え、あぁ! そうだった、そうだったよ」


 そうか。

 カレンが俺の事を黙っておいてくれたのか。


「旅なら、すごく楽しかったよ」

「えー、聞きたいな! 今度色々聞かせてくださいね先輩」

「あぁもちろん構わないよ」


 まぁ過去とは言え、旅をしていたのは事実だしな。


「やったー! じゃ、2年はこっちなんで、また今度お願いしますよ」

「ではお兄様」


 そう言って二人は2年生の校舎の方へと向かった。

 俺も3年生の校舎の方へと向かうかー、と……そう思った時、


「アベル、久しいのう」


 再度横から声を掛けられた。


 その聞きなじみのある声に喋り方。

 彼女だろう。


「久し振りだな──」


 声のした方を振り向くと、そこにいたのは白衣を着た背の低い少女だ。

 その緑の髪に翡翠の瞳。

 ……俺が彼女を忘れているはずが無い。


「──グルミニア」


「そうじゃな。しかしここでは人目に付く。こちらへ来い」


 そう言われ、白衣を着た緑髪の少女に俺は付いていく。

 そして校舎を過ぎ行きつく先は当然、植物園。

 俺とグルミニアの再会にはうってつけの場所だ。


「ふぅ……しかし無事で良かった」


 俺とグルミニアはベンチに腰掛ける。


「確かに1年……いや200年会っていなかったからな」

「1年で良い。過去に行く前のお主もわしにとってはアベルじゃ」

「ありがとう。……というかこんなくだけた話し方でいいのか?」


 200年前なら同じくらいの年かも知れないが、今は圧倒的にグルミニアの方が年上だ。


「よい、今更ハイトウッド先生などと呼ばれても気持ち悪いだけじゃ」

「ははは、確かにな。でも最初はどう思ってたんだ?」


 学院の一年生として俺が入学したての頃だ。

 あの頃の俺は当然グルミニアの事を知らなかったが、グルミニアは俺の事を知っていただろう。


「そりゃ最初は『ぬおぉっ!? アベルッ!?』ってなったのじゃ。本当に目が飛び出るかと思ったぞ」

「はは、しかもまだグルミニアを知らないし敬語だもんな」

「そうじゃぞ。過去に行く前のお主って事くらいは簡単に察しはついたが、それでも驚いた事には変わりないからの」

「はは、悪い悪い」

「それにカレンを連れて来た時なんかは、心臓が破裂するかと思ったのじゃ」


 胸の前で腕を交差し、謎のジェスチャーをするグルミニア。

 しかしすぐにジャスチャーを止め、背もたれに身を預けると同時に、こちらに顔を向けた。


「……それにしても、本当に無事で良かったのじゃ」

「あぁ、ありがとう」

「わしとお主の仲じゃし、気にするな。それに、言葉で感謝するくらいなら酒を持ってこい!」


 笑顔を見せるグルミニア。

 だがその後、グルミニアの顔付きはすぐに真剣なものへと変わる。


「とまぁ前置きはこの程度にしておこう」

「そうだな」

「アベル、聞きたいことがあるのではないか?」

「……あぁ」

「答えるから言ってみるのじゃ」


 そう言われ、俺は疑問を口に出した。


「……なぜ生きているんだ?」


 グルミニアと共に新魔王を倒したのは200年前。

 普通なら生きているわけがない。


「お主はドルイドがどれほど生きるか知っておるか?」

「いや知らないな」

「ドルイドは死なないのじゃよ」

「……ッ!」

「正確に言えば寿命がない、というだけじゃ」

「そんな事がどうやって?」

「昔、モンスターが世界からエネルギーを貰っていると話したじゃろ」

「あぁ」


 覚えている。

 魔王城に向かう際の森の中で聞いたことだ。


「モンスターがそうなのかはわからんが、ドルイドと呼ばれる魔術師は世界のエネルギーで生きてるんじゃよ」

「そうか……それでモンスターもそうだと考えたのか」

「そういうことじゃ」

「でも、グルミニアの師匠は死んだんじゃないのか?」

「師匠は……自殺したんじゃよ。ドルイドの寿命に耐えられなくてな」


 グルミニアの表情が暗くなる。


「……すまないな」

「いやいいのじゃ。それより、入学式があるのではないか?」

「あっ、そうだった」

「なら早めに行ってくるのじゃ。わしにはまた会えるじゃろ」


 グルミニアは笑顔で俺を見送ろうとしてくれる。

 最初は入学式前に教室に行っておく予定だった。

 だがその笑顔を見て、俺の予定は変わった。


「……いや、しばらくここにいさせてもらうよ」

「どうしてじゃ?」

「入学式より、仲間との再会の方が大事だろ」

「……そうか。アベルは昔からそういう所だけは気が利くの!」

「そういう所だけってなんだよ」

「ははは、ちょいと待っておれ。今飲み物を持ってくる」

「ありがとう。長居することになるだろうからな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ