第65話 サラスティーナさんとの再会、歴史について
「今日はどうなさるんですか?」
カレンは朝食を食べながら俺に聞いてくる。
昨日はオリヴィアがいないことも分かったし、今日はサラスティーナさんに会いに行く予定だ。
しかしサラスティーナさんのお店は夕方から深夜までの営業だから、こんな朝から行くべきではないだろう。
「まずは本屋に行くよ。ちょっと本を買おうかと思って」
魔術の本――特に時空魔術についての本、それと聖杖の勇者についての本を買おうと思っている。
知識に関して気になることは他にもあるけど、一番気になるのはこの2つだな
「本はどれくらい買うのですか」
「わからないけど3冊前後くらいかな」
「じゃあ後でお金渡しておきますね」
「あぁ……ありがとう」
そうだった、忘れてた。
俺はこっちに来てから無一文だったな。
「……というか、お金は今までどうしていたんだ?」
俺はふと疑問に思った。
ずっと俺がバイトして頑張って来たから、
その俺がいなくなったら困ったんじゃないだろうか?
「特別援助金をいただいてます」
「特別、援助金?」
「学院の成績優秀者のみが貰える褒賞みたいなものですよ」
「まじか」
元々、学院の学費自体は国が受け持ってくれるから、そういうシステムがあってもおかしくない。
まぁ友達も少なく、最下位だったからか、俺はまったく知らなかったけど……。
「それは何位くらいの人まで貰えるの?」
アマネは首席だから確実にもらえているんだろうが、結構、気にはなるな。
「10位から貰えますよ」
「その……いくらぐらい?」
「順位によって変わりますが、10位でも働かなくていいくらいには」
「……そうだったのか」
「だから……お兄様は働かなくてもいいんですよ」
「そういう訳にはいかないよ」
家事はカレンがやってくれているんだから、流石に自分の食い扶持くらいは稼がないとな。
それでも……
「でも……しばらくは、頼むね」
「はい」
カレンは何故か嬉しそうだった。
◇◇◇
本屋へ俺は2種類の本を探しに来た。
「うーん。ないなー」
魔術についての本が置いてある場所を探す。
しかし時空魔術の本なんてそうそうない。
それどころかやっぱり初歩的な本ばかりだな。
「すいません」
俺は本屋の店員さんに話しかける。
「あ、はい。何かお探しですか?」
「時空魔術についての本とかありますか」
「んー、流石にない……ですね。すいません」
「そうですか。ありがとうございます」
やっぱり時空魔術なんて普通の本屋にはないか。
これに関して言えば、ダンジョン5階層のあの部屋にもう一度行くしかないな。
しかし、俺が探していたもう一つの本、聖杖の勇者に関しての本は大量にあった。
子供向けの絵本からよくわからない歴史家の本まで。
「これとこれにしとこうかな」
俺は簡単な本と、詳しく書いてそうな本の2冊を買うことにした。
◇◇◇
「すいません」
カラン、カランと俺は扉を開く。
ここはサラスティーナさんの経営するバー兼小料理屋。
時間は昼過ぎで、まだ店自体は開いていないがいるとは思う。
まぁだから扉に鍵がかかっていないのだろうが。
「あらぁ~誰かしら?」
そう答える声と共に、一人の女性が奥の厨房から出てくる。
その女性は綺麗なウェーブがかった金髪を揺らし、目鼻立ちの整った顔を俺に見せる。
間違いなくサラスティーナさんだ。
その服は足や胸の露出が多く、昔の俺はよく目のやり場に困ったものだ。
しかし今は再会の喜びの方が大きい。
「俺です、アベルです」
「えっ、アベル君。久し振りねぇ」
サラスティーナさんはカウンターからこちらに向かって来て、
「今までどこ行ってたのぉ」
そのまま抱き着かれた。
それによって鼻につんと香る妖艶な匂いが頭を刺激し、豊満なサラスティーナさんの身体が密着にして来て、俺の頭の思考を奪っていく。
「っちょ、っちょっと」
それにサラスティーナさんの背が俺よりも高いから、胸が顔の近くにあり、塞がれているわけでもないのに呼吸しずらい。
「あっ、ごめんねぇ。でも嬉しくて、つい」
ようやく離れてくれた。
このまま話すのは俺には大変だ。
「いやいいんですよ。俺も会えて嬉しいですから」
「うふふ。で、野暮かもしれないけど、何をしに来たの?」
何となく俺がなんで来たか察してくれているな。
「もう一度働かせてほしいなって思って」
「もちろんいいわよ」
サラスティーナさんはすぐに答えてくれた。
「ありがとうございます!」
俺は頭を下げた。
「じゃあ明日からまたお願いできる?」
「はい」
◇◇◇
「ふぅ……そうか」
俺は本をリビングにある机の上に置く。
2冊ともをようやく読み終えた。
サラスティーナさんに会いに行った後、本屋で買った本を家でずっと読んでいた。
内容は濃く、けっこうな時間がかかったけど、何とか今日中に読み終える事が出来た。
そして読んだ2冊の本。
まず始めの簡単な方だ。
これは聖杖の勇者の人生を要約したものだ。
聖杖の勇者が魔族に襲われる人類を救うため突如現れ、仲間と共に魔族を滅ぼして人類を救ったが、最終的には最後の魔族と刺し違えた、という内容だ。
しかしアマネの存在が消されていたり、宮廷魔術師達が人格者としてかかれていたり、嘘もかなり入って入るけど。
次にもう一冊の詳しい方だ。
これはよく分からない名前の歴史家が書いた本だ。
最初はあまり期待してなかったけど、もう一人の仲間の存在や、魔族が実は悪くなかったんじゃないのか、などの内容を調べた論文のような本で、これはかなり的を射ていた。
「まぁ、こんなものか」
本には良い内容も悪い内容も書いているけど、
あんまり不満はない。
歴史なんて初めからそんなものだろう。
生き残った強い者が、自分の都合の良いように伝えていくものなのだから。
そんな事を考えていたら、イスに深く腰掛ける俺の視界に、いつもとは違い艶やかな黒髪を纏めているカレンが映った。
「お兄様、こちらをどうぞ」
カレンは机の上に紅茶を置いてくれる。
俺の疲れた顔を見て気をつかってくれたのだろう。
「うん。ありがと」
俺はそのティーカップをゆっくりと手に取り、口へと流し込んだ。
香り高さの中に優し気な甘味が感じられる。
この紅茶の茶葉までは分からないが、疲労回復にはとてもよさそうだ。
「今から晩ご飯を作りますね」
「重ね重ね悪いね」
「いえいえ。そういえば、明日はどうなさるんですか?」
「明日は……どうしよっか?」
サラスティーナさんには会ったし、オリヴィアやグルミニアはいないし、
後は会わなければいけないのはアマネくらいだ。
……でも、まだだな。
そうなると、昼間は暇だな。
本当に明日は何をしようか?
「制服とかはいつ買いますか?」
確かに制服とかは早いうちに買っておかないとな。
元々着ていた制服は過去に置いてきてしまったし、学院が始まれば必須になる。
「まぁ出来れば早めに買いたいな」
「明日近くに寄りますし、買っておきましょうか?」
「いや一緒に買いに行こうよ」
「はいっ」




