第62話 編入試験
「さ、始めるとするか」
念のために俺はストレッチを終わらす。
魔術を使う直前のストレッチに意味があるかわからないけど。
「準備出来ました」
「はい。でもまさか当日に行うなんて……」
「すみません。でもこういうのは早めに片づけた方がいいかなって」
受付の人は苦笑いだ。
確かに「時間は指定してもいい」って言ったけど、当日に試験をする人なんていないだろうしな。
にしてもこの屋外闘技場を借りれたのは意外だった。
てっきり魔術に励む生徒が使っていると思ったが……「上からの許可」とやらのおかげなのだろうか?
……ま、いいか。
始めよう。
「最初は何をすればいいですか?」
「初位魔術をお願いしてもよろしいでしょうか」
初位魔術、またの名を初等魔術。
魔術の基礎中の基礎だ。
当然それくらいなら、朝飯前だ。
「わかりました。『火』」
俺は杖の先から巨大な火を起こす。
メラメラと燃えるその火は俺の上半身程も大きさがあり、自分でも意外なほど大きい。
「……っ!。すごいですね……」
受付の人は手に持った用紙へと何かを書き込んでいく。
おそらく評価用紙だろう。
良い評価を貰えるといいが。
「大丈夫かな、これで」
「大丈夫ですよ。お兄様は強いのですから」
カレンに褒められた。
「うーん、そうかな?」
「そうですよ。自信を持ってください」
まぁ自信を持つ事は大事だしな。
よし、次も頑張ろう!
「次の試験をお願いしても良いですか」
「は、はい。では好きな魔術をどれか一つ見せてもらっても良いですか」
「そうだなぁ……。『土壁』」
俺はそびえたつ土の壁を目の前に出現させる。
その大きさは近くの校舎並み、厚さもかなり分厚い。
久しぶりに使ったけど、結構上手く出来たな。
「……え、あ……」
受付の人は放心している。
これ、そんなに驚くことか?
まだまだこれからなのに。
「じゃあ、いきますよ」
俺は全力を出すために一度落ち着く。
「え!? こんなにすごいのに、まだ終わりじゃないんですか?」
「当たり前ですよ。……『岩砲』!」
俺の身体並みに巨大な岩を吹き飛ばす。
放った衝撃で俺の身体は3歩分、後ろに飛ばされるが、その岩はしっかりと前方に高速で飛んだ――そう、巨大な土の壁へと。
──バアアアァァァンッッ!!!
大音量で土の壁は弾け飛び、その土の壁のつぶて、いや岩が周囲に飛び散る。
「きゃあああ!!」
「『氷壁』」
その圧倒的な光景に受付の人は悲鳴を上げる。
カレンは破片を受け止める為にも、俺達3人の前に氷の障壁を作る。
「ふぅ……こんなものですかね」
いい感じには俺の力を見せれたが、結構疲れたな。
「ああああの、これ、なんなんですか!?」
受付の人は慌てふためいている。
「え? 『土壁』と『岩砲』ですよ。『岩砲』は上位魔術だからかなり評価も高いんじゃないですか?」
上位魔術を使える魔術師はそうそういないぞ。
「それもすごいですが、それよりこの規格外の規模ですよ!」
「そこまで規格外ですか?」
「すごすぎますよ!」
自分でもいい感じに決まったとは思うけど……そんなにすごい事か?
結構長い間ダンジョンにこもっていたからな。
少し感覚がずれているのかもしれない。
うーん、どうなんだろう?
確かに今まで比較対象がずっとアマネだけだったしな。
確かによく考えればアマネはミスリルを作り、そのミスリルでゴーレムを製作するほどの最上級の魔術師だ。
俺がずれているのだろうな。
「他にも試験はありますか?」
「え、あ! 一応ありますが……もう、確実に合格ですよ」
「それは良かった」
安心して途中編入が出来そうだな。
「お兄様、これなら魔術戦で10位以内にも入れますよ」
カレンは微笑む。
「だと嬉しいな」
「……間違いないと思いますよ」
受付の人の顔は少しひきつっている。
「……では合格通知を後で送らせていただきますね」
受付の人は無理に笑おうとするが、あまり上手く笑えてはいない。
「ありがとうございます。あと……そういえばグルミニア・ハイトウッド先生って今いますか?」
「い、いえ。ハイトウッド先生なら確か……研究のためにドルイドの森に行っているはずです」
ドルイドの森?
グリーンフォレストの事だろうか?
まぁ会えない事に変わりは無いか。
「そうですか……ありがとうございます。じゃあ、これで失礼しますね」
何はともあれ、簡単に試験が終わって良かった。
さて、再び首席卒業を目指して頑張るとするか。
「お兄様、今日はこれからどうなさいますか?」
「会いに行きたい人が何人かいるけど……もう遅いし、迷惑になっちゃうかもね」
空は夕暮れ。
時間はもう遅い。
それに『時空転移』行使後に上位魔術を放ったのだ。
疲れがかなりある。
今、倒れたりしたら多大な迷惑をかけてしまうだろう。
だから俺とカレンは大人しく家に帰った。




