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第61話 カレンとの再会

「お、お兄様!?」

「……あぁ、俺だ」


 俺が口を開くと同時に、カレンは俺の目と鼻の先まで近づいて来る。

 そして絶対に離すまいと、強く俺の服を握り締めた。


「今までどこに行っていたんですか! 心配したんですよ!」


 涙が潤むカレンの黒い瞳。

 俺の背が伸びたせいか、その瞳は上目づかいで向けられる。


「お兄様がいなくなってから、私がどれだけ悲しんだとお思いですか!」


 更に、怒りを露わにするカレン。

 安堵と喜びと心配と怒りで、綺麗な顔がぐしゃぐしゃになっていく。

 おそらく俺以上に心の整理がつかず、ただただ感情が押し寄せて来ているのだろう。


 カレンは慌てたりするものの、基本的には強く、冷静だ。

 だからマイナスな感情、特に怒りや悲しみを見せる事はほとんどない。

 なのにこの現状……それだけ"俺を想ってくれていた"という事だろう。

 そしてそんなカレンに俺が何かを言えるはずも無い。


「……ごめん」

「もう、ごめんじゃありませんよ。……ぅ、ぐす」


 カレンは泣き顔を見せない為か、俺の胸元に顔をうずめる。

 するとカレンの涙が俺の服を濡らし、冷たさが胸に広がっていく。


「……うぅ……ぅ……」

「……」


 顔を合わせただけで泣いてくれるなんて……。

 ……俺はいい妹を持ったな。


 それから、俺はカレンが泣きやむまで、ただただ優しく見守った。

 しばらくすればカレンも落ち着き、俺達はリビングのテーブルで軽く話し合うことにした。

 ……ちなみに、俺が上を向きながら涙をこらえてたのは、もちろん秘密だ。


「もう落ち着いた?」

「はい。……先程は取り乱してしまってすみません」

「そんな事ないよ」

「いえ、再会する時は笑顔でって決めていたので……。……でもお兄様が無事でよかったです」


 カレンはようやく笑顔を見せてくれる。

 だから俺も笑み返した。


「俺もカレンに会えてよかったよ」

「ふふっ。そう言って頂けるのが何よりの幸せです」

「そうなの? 俺はカレンに会えた事が何よりの幸せなんだけどなぁ」

「私だってそうですよっ!」

「はは、ごめんごめん」

「んもう、以前に比べて少し意地悪になったんじゃないですか、お兄様」


 流れる甘い空気。

 このままこの空気にずっと浸っていたい。


 ……だが、俺には目的がある。

 そして聞かなければならない事がある。


「ごめんカレン、一つ聞いてもいい?」

「はい。もちろんですよ」

「俺がいなくなってからどれだけ経った?」


 おそらく時間は、俺がダンジョンに落ちたすぐあとではない。

 でもカレンが心配してくれているということは、落ちる前ではないだろう。

 ならば──


「一年です」

「……そうか」


 一年、そうか一年か。

 『時空転移』は最上位魔術さえ越えた魔術だ。

 それを考えれば一年程度は、誤差といえば誤差だ。

 しかし一年という年月は、物事が変化するには十分過ぎる。


「今日は何日なんだ」


 俺は日付を聞く。


「3月28日です」

「そう……じゃあ俺は学院でどうなっているの?」


 これだけ日にちが経っているんだ。

 進級に必要な出席日数が足りていないだろうな。


「退学……ですね」

「……だろうな」


 俺の本来の目的は魔術学院を首席で卒業することだ。

 過去に飛ばされてしまったからには、現代に帰ることが最優先だったが、俺の元々の目的は魔術学院にある。

 それを退学か……。

 一から入りなおさなければならないのだろうか?


「でもお兄様ならまだ途中編入が可能だと思いますよ」

「本当なのか!? それはいつまでなんだ?」

「いえ、途中編入でしたらいつでも問題ないと思いますよ」


 そうか、いつでもいいのか。


「なら今からでも申請しに行くよ」

「い、今ですか? もう少しゆっくりされては?」


 はっきりと言ってはいないが、「もう少し一緒にいて欲しい」という意味だろう。

 それくらは俺にも分かる。


 確かに、俺もカレンともう少しゆっくりしていたい。

 ……でもやらなくちゃいけなんだ。


「ごめんね」

「い、いえ、お兄様がそう言うのでしたら従うだけです……」


 目に見えてしゅんとするカレン。


「でも一緒に行こうよ。それなら、ゆっくりとは言えないけど一緒にいれるし」

「はいっ! もちろんです! ……でも後でちゃんと構ってくださいね」

「うん、いいよ」


 俺達はそうして席を立った。


 ◇◇◇


「すみません。途中編入の手続きに来たんですけど」


 俺はバルザール魔術学院の中央本館にある事務室へと入る。

 すると受付の人が、カウンターにぱたぱたと走ってやってきた。


「ではこちらに記入してください」


 カウンターに着くなり、受付の人はその上に紙とペンを置く。

 手続き用の用紙だろう。


「わかりました」


 俺は渡された用紙に記入していく。

 するとその最中に、


「もしかしてカレン・マミヤさんのお知り合いの方でしょうか?」


 受付の人は俺の後ろにいるカレンを見て、そんな事を言ってきた。


「ん? え?」


 急に変な事を聞かれて俺は戸惑う。

 だが、カレンは淡々と受付の人に返した。


「兄です」

「あっ、そうだったんですか! ならすぐにでも上にかけ合ってみますね」


 受付の人はすごく驚いた様子で事務室の奥の方へと向かっていく。


 カレンの兄と聞いただけでこの変わりよう。

 急にどうしたのだろうか?


「……もしかしてカレンって今、物凄い人物だったりする?」

「いえそんな事はありませんよ」


 カレンは落ち着いた様子で答える。

 まるで、何事も無かったかのようだ。

 しかし並大抵の事で、こうはならないだろう。


「……いま席次は何位なんだ?」

「2年次の首席です」


 さも当然かのように答えるカレン。

 俺よりも魔術の才能はあったが、まさか首席とは……我が妹ながら誇らしい限りだな。


 そしてこれで、受付の人が慌てていた理由が分かった。

 そりゃ主席の兄ともなれば大騒ぎだ。


「カレンの恩恵にあやかれて俺もありがたいよ」


 嫌味ではなく、俺の本音だ。

 実際これで簡単に手続きが終わるなら楽で助かる。


「お褒めに預かり光栄ですわ、お兄様」


 カレンは端正な顔をこちらに向け、微笑む。

 そして、そうこう話している内に、ばたばたと受付の人がカウンターに走って来た。


「すいません、お待たせいたしました」

「いえいえ構いませんよ」

「ありがとうございます。それで試験はいつ頃がよろしいでしょうか?」

「日時の指定なんてしてもいいんですか?」

「はい。上司から許可がおりましたので」


 すごいなカレンの影響力は。

 それに日時の指定なんて、少し悪いような気がしてくる。

 でも俺の魔術学院への途中編入がかかっているんだ。

 お言葉に甘えるとしよう。


「じゃあ──」

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