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第59話 数か月の月日

「よし、こんなものかな」

「……準備、完璧」

「宿の店主にも別れは言ったし、あとは受付の人くらいか」

「……うん」

「よし、じゃあいこうか」


 俺達はこれから学院のダンジョンにこもる。

 ……俺が元の世界に戻るまで。


 ついにシェルブール宮殿の宮廷魔術師に俺の位置がばれたんだ。

 だからこれが最善の判断だろう。


 そして、その為に必要な大量の物資を買い込んだ。

 一番大切なのは穀物の大量の種だが、他にも様々な生活用品を、魔石で得たお金で買った。


「すいません」


 全ての準備を終え、学院に着いた俺は受付の人に話しかける。


「アベルさんですか。今日もダンジョンですね」

「そうなんですが。おそらく戻らないので」

「え!? 何でですか?!」


 受付の人が驚くのも当然だろうな。


「別に死ぬわけではないから安心してください」

「それは安心してもいいんでしょうか……?」

「それより今までお世話になりました」

「……お疲れ」


 俺達は一応頭を下げる。

 あまり親交は無いけど、最低限の礼儀だ。


「あっ、はい。こちらこそ」


 それが俺のアマネ以外との、この世界で最後の会話だった。


 ◇◇◇


 その後は簡単だ。

 まずはダンジョンの入り口付近に魔術でトラップを作った。


 一つは大気にある魔力で自動で矢を作る装置だ。

 これは壁の中に埋めこんだ。

 そして魔力センサーをすぐ近くに置き、近くに生き物が来たら勝手に矢が飛び出す装置にした。

 いずれはこれをもっとたくさん作り、そしてもっと強力にしたい。


 次に5階層の研究室の隣にスペースを作った。

 これはアマネが動かすあのゴーレムが活躍した。

 そしてそのスペースを少し掘り下げて、地面に土を敷き天井に明かりをつけた。

 そこに種を植えて自給自足できるようにした。


「ふぅ……今日はこんなものかな」

「……疲れた」


 実際これだけの作業を今日中に終わらせたのだ。

 身体の疲れもすさまじい。


 その日俺は魔石を、アマネは『成長』で育てた食べ物を口にし、

 疲れからかすぐに寝てしまった。


 ◇◇◇


 その日以降、俺達は決まったローテーションを送ることになる。


 俺はまず朝一にダンジョンの入り口付近に行き、侵入者、またはその死体がないかを確認する。

 そして俺が食べる用の魔石を取りに、モンスターの狩りをする。

 それが終われば本を読み、実験器具を用いてひたすら研究する。


 アマネは午前中の間は錬金術と、その一分野であるゴーレム術に関する本を読み、それを活かして午後はゴーレムを作り動かす。


 しかし、既に外の季節は冬だというのにダンジョンの気温は常に変わらない。

 ありがたくもあるんだが、すこし寂しいな。


 一月が経った頃。

 侵入者の死体が入り口の近くで見つかった。

 それは宮廷魔術師のものだった。

 これで全員分かは分からない。

 だからこそ更に複雑なトラップを大量に置いた。


 この頃、既に時空の成り立ちは理解できた。

 あとしばらくすれば簡単な空間転移くらいは出来るだろう。


 更に一月後。

 アマネの作ったゴーレムが大量に増えた。

 そのおかげか、掃除や洗濯、畑仕事も全部ゴーレムがやってくれるようになり、俺が少し狩りをするぐらいで、時間のほとんどを研究に割けるようになった。


 そして更に一月程度。

 ようやく空間転移の魔術が完成した。

 後はこれを時間軸に置き換えるだけだ。


 実はこの時アマネはたまたまミスリルの生成に成功し、ミスリルを使った巨大なゴーレムの作成に集中していた。


 そして最後の一か月後。

 俺はついに未来へ戻る魔術の式を練り上げた。

 アマネはミスリルを用いた最上級のゴーレムを完成させ、もうこのダンジョンに思い残すことは無い。

 後は帰るだけだ――

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