第53.5話 褥を共に
俺達がこれからしばらく泊まることになった宿屋の部屋は、どこにでもある普通の宿屋だった。
簡素なソファやテーブル、それに物置き。
文句があるとしたら……それはベッドが一つしかないことだ。
当然俺も他の部屋がないか聞いたが、どうやら祭りがあった影響か、部屋はほとんど埋まっているらしい。
だから二人で一部屋だ。
「俺はソファで寝るよ」
俺は風呂上がりでパジャマだ。
疲れもあるし正直眠い。
「……一緒」
アマネはゆったりとしたパジャマを着ていて、ベッドの上で本を読んでいる。
……こう見るとやっぱり見た目は子供だな。
「でも狭いからいいよ」
「……ダメ、寒い」
既に季節は秋。
今までに比べて肌寒い夜が続いている。
だから俺の体調を心配してくれているんだろう。
「確かにな。……じゃあ失礼して」
俺はアマネの横にもぐり込む。
眠いせいか、頭はあまり動いていなかった。
「……寝よ」
アマネは本をベッドの横に置き、寝る準備か毛布を目の下まで引っ張る。
「何の本を読んでたの?」
俺は部屋のランプを消しながらアマネに聞く。
「……魔力、について。……力、なりたい」
「そうか、ありがとうね」
「……」
灯りは既に消した。
だからアマネの表情は分からない。
でも右腕には人肌の温かさが伝わっていた。
昔はカレンとこうしてよく寝たな。
カレンは寒いのが苦手だったな。
なのに氷魔術が得意っていう……。
「寒くない?」
カレンの事を思い出してか、俺はアマネに一応聞いてみた。
「……温かい」
アマネも十分に温かい。
感覚からして俺の右手に抱き着いているのだろうか。
……これだけ温かいとすぐに寝てしまうな。
「明日も頑張ろうね。……おやすみアマネ」
「……おやすみ、アベル」
暗い部屋の中、アマネが微笑んでいる気がした。




