第52話 密会
「ふぅー疲れたなー」
俺はどさっとソファに腰掛ける。
あれから宮殿を抜け俺とアマネは街をぶらついた。
景色を見たりお菓子を食べたり、かなり楽しかったし俺達は疲れ切っていた。
やっぱり豪華なパーティーよりもこっちの方が俺には合っているな。
「……私も」
俺の横でアマネは眠そうにぼーっと立っている。
俺達は元々別々の部屋を用意されたのだが、アマネに何かあったら嫌だし同じ部屋に泊まることにした。
本来ならグルミニアの部屋に泊まってもらうんだが、まだ部屋には帰っていなかったようだ。
「大丈夫?」
もう既にアマネの眼はほとんど開いていない。
「……寝る」
アマネはベッドへととぼとぼと歩き、そのまま静かにダイブした。
「おやすみ」
「……うん」
簡単な返事だけ返して、すぐにアマネは眠りについてしまった。
俺も少しゆっくりしたら眠ろうかな。
「ふあ~」
俺は伸びをする。
コーヒーを飲んでいたせいかあまり眠くは無いけど、身体は疲れているな。
そんな俺がソファにだらしなく腰掛けていると、
コンコン。
と扉が叩かれる。
「はい」
俺は鍵を外し扉を開ける。
すると目の前に立っているのは白いドレスで着飾った、緑の髪に翡翠の瞳をした少女――グルミニアだった。
「入るぞアベル」
グルミニアは静かに部屋に入り扉を閉める。
「どうしたんだ?」
「重要な話じゃ。出来るだけ静かに聞いてくれ」
グルミニアの顔は真剣そのものだ。
「わかった」
「まずはお主がロッキンジーとやらに元の世界に帰ると言っていたな」
「あぁ、その為に新魔王を倒しに行ったんだ」
「率直に言う。帰る方法は今のところない」
「……ッ!?」
俺はとてつもない衝撃を受ける。
しかしグルミニアに言われた通り出来るだけ静かにしている。
もし静かにしてくれと言われなかったら、今頃俺は大声を出していただろう。
「呼び出す魔術はあれども、帰す魔術は未だに完成していないようだ」
「……じゃあ俺はまだまだ帰れないんだな」
それでわざわざロッキンジーは焦らしたのか。
「そうじゃ。しかもそれを隠すためにどうこうと言っておるようじゃ」
「例えば?」
「一番有力なのはお主に魔族の残党を戦わせる、というものじゃ」
「それがなんで俺に隠すことと繋がるんだ?」
「おそらくお主を旅立たせて、戦死を装い殺すんじゃろうな」
「最悪だな」
「わしも同感じゃ」
利用するだけ利用して捨てる。
俺もそんな捨て駒の一つ、という事か……。
あの野郎……どこまでも最低だな。
「ならどうするか、だな」
「本題はそれじゃ。わしはお主にそれを伝えに来たんじゃ」
グルミニアはどこからともなく地図を取り出す。
しかもそれは2種類。
一つは世界地図、もう一つは街の地図だ。
「アベル、よく聞くのじゃ。ここから西に行ったグヴィデン王国の王都にダンジョンがある……」
……っ!?
「ちょっと待ってくれ! 今グヴィデン王国と言ったか!?」
「あぁそうじゃ。知っておるのか?」
「知っているも何も俺はそこの出身なんだよ!」
異世界とは言え、そこまで似るものなのか?
「……召喚者であるお主の事情はわしにはよく分からん。じゃが、とりあえず地図の場所に向かうのじゃ」
「何でなんだ?」
「ここにはダンジョンがあるのじゃが、その地下には時空を越す魔道具があるらしい」
「つまりここに逃げて、自力で帰れということだな」
「そういう事じゃ」
「アマネはどうするんだ?」
アマネはベッドに寝ている。
「アマネも連れて行くのじゃ。アマネがどういう身分なのかは、わしも何となく察しておるわ」
「グルミニアは?」
「わしは説明の為にも残る。命の危険はないしの」
「……ありがとう」
「気にするな」
グルミニアはどこか誇らしげだ。
「アマネ」
俺はアマネを揺り起こす。
「……ん? ……どうしたの?」
「支度してくれないか。俺達は出ていかなきゃいけなくなった」
暗く深い夜の中。
俺達は宮殿を出ていかなくちゃいけくなった。




