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第46話 スニーキングミッション

 俺達は角から魔族がいないかを確認する。


「いませんね」

「あぁ」


 深夜だからなのか人気は無い。

 実に好都合だ。


「よし、行くぞ」


 俺達は足早に城壁へと向かった。

 見つからないように、こそこそと向かったおかげか、誰にもバレる事無く、魔王城城壁の西門まで問題なく辿り着くことは出来た。


「下水道への入り口はどこなんだ、アマネ」

「……あの辺り」


 アマネが指差す地面には、取っ手のついた扉のようなものが存在している。

 ……あれが入り口だろうな。


 一応周りを確認してみるが、確かに城壁の上や入り口には衛兵が立っているが、下水道への入り口には誰も存在していいない。

 これなら忍び込めるな!


「では入るぞ」


 キザイアさんはおもむろに下水道への入り口を開ける。

 するとそこには、地下に続く階段の手前に、重厚な鉄格子がはめられたいた。


「むむ、困ったな」

「俺に任せてください」


 俺は皆の前に進み出て鉄格子を睨む。


「『魔剣(ダーインスレイヴ)』」


 そして右手に漆黒の剣を出現させる。


「なんだと!? アベル、お主!?」

「きゅ、急にどうかしたの!?」


 うおぉっ!

 今まで静かにしてたのに、急に大きな声を出されたら驚くよ……。


「お主、それが何なのかを知らんのか?」

「え? まぁ……」


 まぁ確かにこの技はグルミニアには見せて無いけど、そんなに驚くような技なのか?


「知らぬとは恐ろしいことだのう」


 グルミニアは訝し気にこちらを見る。

 この魔術がそれ程珍しいのだろうか?


 ……まぁいいや。

 今はやるべきことをやろう。


「はぁ!」


 俺は漆黒の剣を振り、鉄格子を綺麗に切る。

 すると、鉄格子は重たげな音を立てながら地面にバラバラと落ちた。

 いかに重厚な鉄格子も、この剣の前では無力だったようだ。


「さ、みんな。入ろうよ」


 俺は先に下水道の中へと入り、みんなを促した。

 そして全員が下水道に入ったのを確認して、俺達は進み始めた。


「『光玉ライト』」


 下水道は当然暗い。

 だからグルミニアは魔術で光をともす。


「意外と綺麗じゃな」

「……確かに」


 もっと下水道の中は汚いと思った。

 実際はそこそこ綺麗にされていて驚いた。


「……それなら、清掃……」


 そうアマネが言おうとした瞬間――

 奥から一体の巨体が姿を現す。


 3mはある石で出来た身体に、赤く光る瞳。

 俺は一度、それを見たことがあった。

 ――そうゴーレムだ。


「何!?」


 俺達は杖や剣を引き抜く。

 そして戦おうとした、が――


「……待って」


 アマネに止められる。


「どうしたんだ?」

「……アレは、悪くない」


 そうアマネに制され、様子を見るが……確かに一向に襲ってくる気配はない。


「……清掃、ゴーレム」


 清掃ゴーレム!?

 そんなものがいたのか。

 だからここはきれいだし、あのゴーレムも襲ってこないのだろう。


 そうと分かれば安全だ。

 俺達はゴーレムに注意しつつ、その横を通り抜ける。


 だが、安全とわかっていても怖い。

 だから俺はゴーレム通り過ぎた後、何度も後ろを振り返った。

 しかし、アマネの言う通り清掃用のゴーレムようで、追ってはこなかった。


「で、どの辺りだ?」


 キザイアさんは魔王城への入り口をアマネに聞く。


「……あと、角二つ」

「わかった。本当にわかりづらいな……」


 キザイアさんがそういうのも無理ない。

 同じような光景ばかり続くし暗い。

 本当に関係者しか道は知らないだろう。


 だから俺達はアマネの指示に従って、足音と声を小さくして歩いた。

 そしてしばらく歩くと、アマネはとあるはしごの元で歩みを止めた。


「……ここ」


 上に向かうそのはしご長さはそう長くない。

 おそらく地下室に繋がっているのだろう。


 それに清潔に保たれている。

 ……清掃ゴーレムさん、ありがとう。


「皆準備はいいか?」


 その言葉に3人と1匹は首を縦に振る。


 そしてキザイアさんを先頭にして、

 ――カンカンカン。

 と高い音を鳴らしながら、皆は上に登っていく。


 そして、


「大丈夫だ。誰もいない」

「ふぅ……良かったですね」


 無事、敵に出会わずに魔王城に侵入する事が出来た。


「にしても、ここはどこなのかな」


 部屋は暗いが、グルミニアが灯りを作ってくれており、真っ暗闇ではない。

 だからなんとなく部屋の様子は分かる。


 ぱっと見て、感じた印象は地下倉庫。

 だが、大きな長方形の箱が10数個丁寧に並べられているだけで、他には何もない。


「ん? この箱だけふたがないな」


 俺はその箱達の中の一つ、開け放たれた空の箱をじろじろと見る。


 何故かその箱にはふたがされておらず、中には何も無い。

 だが、ただ一言だけ箱の底に、誰かの名前であろう文字が刻まれていた。

 その名は、


 ――ルテニア・ホーエンドルフ。


「これは誰の名前だろうか?」


 しかし、俺に悩む時間は与えられなかった。


「おい、アベル。ここは敵地だ、集中しろ」


 キザイアさんに怒られた。


「す、すみませんっ!」

「まったく……で、アマネ。ここからはどうすればいい?」

「……中央の塔。……そこから、グルミニア。……魔術で、行ける」

「ならまずはその中央の塔だな」

「よし、では行くかの」


 一応明かりを消し、俺達は倉庫から出て周りを見る。

 深夜なのもあり地下は暗く、更にこの辺りに衛兵はいない。


 だからすぐに廊下を通り、中央の塔の下にある階段へと向かう。


「……だよな。なぁ……」

「あぁ。……そうだな……」


 だが、行く手を阻むかのように階段の近くで声が聞こえてきた。

 おそらくは衛兵だ。


 物陰に隠れながら、目を凝らしてよく見てみれば、階段の前で2人の男がイスに座っている。


「どうする?」


 俺は小さな声で皆を見る。


「流石に服装でバレるだろうしな」

「倒すしかないの」


 グルミニアは杖を抜く。


「出来れば殺したくないけど……」


 魔族とはいえ彼らに罪は無い。

 だから無駄な殺しはしたくない。


「わかっておる。『草拘束グラスバインド』」

「……うわっ!」


 グルミニアが杖を振ると、衛兵たちのイスから草が伸び、二人の身体と口を塞いでいく。

 そして間もなく、不意を突かれた衛兵たちはなすすべなく、完全に動きと声を封じられてしまった。


 俺達はその様子を確認し、階段の方へと向かった。


「これ大丈夫なのか?」


 階段のすぐ側まで来ると、イスに縛り付けられた衛兵たちはじたばたしていた。

 彼等は身動きが取れない状況だが、まだ意識はある。

 交代の衛兵に報告でもされたら大変だ。


「一応用心しておくかの」


 グルミニアは剣を奪いその辺りに放る。

 そして腰から取り出した黄色い粉をふりかけ、衛兵たちを眠らせた。


「これなら安心そうだな」


 俺達は安心し階段を上がる。


 中央塔の階段はらせん状で物凄く長い。

 しかし船を動かし森を越えた俺にはこれくらい問題ない。


「ここか?」


 おそらく最上階の部屋の前にある扉に来た。

 聞き耳を立てるが音は聞こえてこない。

 だからゆっくりと扉を開ける。


 すると、その最上階の部屋の大きな窓からは、巨大な城や街の様子が一望できた。

 この塔は最も高い場所のようで、近くに城の天守閣のような場所がある。

 ここから渡れるな。


「アベル、固いハンガーを4つ作ってくれ」

「ハンガーでいいのか?」

「あぁ」

「『聖形成ホーリーシェイプ』」


 俺はハンガーを作り始める。

 その間グルミニアは窓を開き、袋から種を取り出し窓枠の上にそれを置く。


「『成長(グローアップ)』」


 そのまま杖を振ると、その種はツタとなり、天守閣の方へまっすぐ伸びていく。

 そしてロープとなり、天守閣の屋上につながった。


「ハンガーは作り終えたかの?」

「出来たよ」


 この長いツルと4つのハンガー。

 何となく使い方は分かる。

 ……ふぅ。


「先に行かせてもらうぞ」


 キザイアさんはツルにハンガーをくっつけ、強度を確かめる。

 そして――

 そのまま天守閣の方にハンガーで滑っていく。


 ……怖えええ!!


「っと」


 グルミニアはそれに続くように滑っていく。


「……」


 アマネもアニを取っ手に纏わせて補助してもらいながら、恐怖無く滑っていく。


 ……次は俺の番だ。

 足が震えていないだけ成長したんだろうな。

 ハンガーは今までにないくらいの力で握られる。

 そして俺は叫び声を押し殺しながら、ひきつった顔で滑って行った。

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