第40話 船大工
「さて船を買いにでも行くかの」
グルミニアは伸びながらそう言う。
あれから宿を探すのは簡単だった。
元々港町であるこのペレッキでは人の流入が激しく、魔族と人間の戦争中であるにも関わらず、俺達のような流れの人間も簡単に泊まることが出来た。
「にしてもすごいのう、この港は」
外はまだ朝早い。
しかし町は活気にあふれている。
道路には商店が並び、声が途絶えることは無い。
「すまんが、小型船を売る店がどこにあるか知らんか?」
グルミニアはそんな街の中で、道行く人に尋ねた。
「それなら、ここから真っ直ぐ港の方にいってすぐの角を曲がればあるよ」
「感謝するのじゃ」
そうして俺達は教えてもらった通りの道を歩いた。
そして港のすぐ近くにある小型船を売る商会へと、辿り着くまでそう距離は無かった。
「ここか……」
辿り着いた商会の建物はかなりボロい建物だが、大きさは相当なものだった。
まぁ船を売っているから大きくて当然なんだろうが。
中からはカンカンと音が響いてくる。
俺達はその音を聞きながら、あばら家の入り口を開いた。
「いらっしゃい!」
髭の生えた体格のいいおじさんが船を造りつつこちらを振り向く。
おじさんは片手で釘を船へと打ち付けている。
その手際はかなり慣れたものだ。
「何を買いに来たんだ?」
「船を買いに来ました」
「おう、奥にあるから見ていきな」
奥には何隻もの船が並んでいる。
俺達はそれを吟味していった。
大きなもの、小さなもの、頑丈そうなものや速そうなもの。
様々な種類の船がそこにはあったが……
「ここには魔石エンジンの船は無いんですか?」
「魔石エンジン? なんだそれは?」
おじさんは眉をひそめる。
「魔石を燃料に使った船ですよ」
「一度も聞いたことないな……」
魔石エンジンを積んだ船は、俺の世界ではずいぶん昔からあるものだ。
現代では最も一般的な船の動力だし、逆に帆船なんてあんまり見たことないぞ。
「うーん……もし可能なら、そのアイデア貰ってもいいか?」
おじさんは髭をさすりつつ、なんだか思案しながらそう言ってくる。
「もちろんいいですよ」
俺は二つ返事で答えた。
まぁ別に俺のアイデアじゃないしな。
それよりもこの状況だ。
……俺は帆船の良し悪しなんて分からないぞ。
「……何がいいかわからない」
「私もだな、剣ならわかるんだが……」
「わしも知らんな」
俺達の知識は偏っていた。
まぁパラレルワールドから来たであろう魔術師。
森からあまり出ないドルイド。
陸地で戦ってきた戦士。
元々やんごとなき身分の少女。
青いスライム。
こんな4人と一匹がいい帆船を見極められるわけがない。
「……すいません。どれがいいとかありますか?」
結局おじさんに聞くことにした。
「どれくらい使う予定なんだ?」
最低限はヒノモトに辿り着くまでだ。
でも帰りの手段も多いに越したことないし、出来れば帰りも使えるようにしておきたい。
「そんなにたくさん使う訳ではないですね」
「乗るのは……お前ら4人と1匹だよな」
「はい」
「なら、この辺はどうだ?」
おじさんは一隻の船の所を指差す。
それはそこそこの大きさをした木造の船だった。
ふむふむ。
……よくわからないっ!
「これで……いいのかな?」
「まぁ信じるしかないの」
「おう、信じてくれ!」
おじさんは腕を組み自信満々だ。
「ではこれをください!」
俺達はおじさんを信じることにした。
それからすぐに、俺達は船を買った。
そしておじさんはすぐに若い衆を集め、その船を港の方まで持って行ってくれた。
「今からこれに乗るんだな……」
帆を立てたこの船にこれから乗って、ヒノモトへと向かうのかと考えると感慨深いものがあるな……。
「名前はどうするんじゃ?」
「何でもいいよ」
「私も気にしない」
俺とキザイアさんは船の名前なんて、あまり気にしていなかった。
このまま名無しで……
「……ラッコ」
アマネがそう呟いた。
「ラッコ!?」
……ラッコ!?
頭で考えるより先に口から出ていた。
「よいではないか。可愛いぞ」
「……やった」
フードの中からでも分かるくらいアマネはニヤニヤしている。
……これはラッコで決定だな。
「よろしくな、ラッコ号」
こうして俺達4人と1匹はラッコ号へと乗り込んだ。




