表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/116

第39話 ペレッキ港

「ふぅ……ようやくだな」


 巨大な城壁が見えてくる。

 それは俺達が目指していたペレッキの港だ。

 ここから一気に海からヒノモトへと向かう。


 グリーンフォレストの森の旅路から一月と少し――

 徐々に暑くなっていく日差しの中、俺達はようやく最初の目的地へたどり着いていた。


「しかしどうやって忍び込むかだな……」


 キザイアさんが悩む。


 その目の前にそびえ立つ壁は高く、入り口にはフル装備の門番がかなり立っている。

 流石に俺達が正面から行くのは大変だろうな……。

 だからこそキザイアさんも忍び込む前提で話し始めたんだろう。


「わしの魔術で木でも生やして壁を超えるか?」

「それいいね」


 作戦は一瞬で決まった。


「しかし……夜まで待った方がいいだろうな」


 そう考えて俺達は城壁から少し離れた森に、夜まで留まることにした。


「それにしても馬車はどうするんですか?」

「ここに置いていこうかと思う」

「まぁしょうがですね……」


 ペレッキ港からは船で行くし、普通に考えれば馬車は連れていけない。

 分かっているんだが……。

 城壁都市アイルトンからここまで一緒に旅してきた仲間だからな……流石にこの別れはかなり悲しい。


「そう落ち込むでない、この馬はここで放すしそちらの方が幸せだろう」


 そう言ってグルミニアは馬と馬車を引き離す。


「ではな、森と仲良くするんじゃぞ」

「……ばいばい」


 アマネは小さな手を振る。

 馬は森の奥の方に走っていった。


 ……こんな風に突然、俺はカレンやオリヴィアと別れてしまったんだな。

 はぁ……新魔王を倒せば本当に帰れるんだよな……。


 俺がこんな事を考えている間も、皆はどうしているだろうか?

 サラスティーナさんのお店は人手足りているだろうか?

 向こうのハイトウッド先生は何をしているんだろうか?

 オリヴィアとの約束も結局流れてしまったし、カレンは悲しんでいるだろうな……。


 ……俺は必ず帰らないといけない。


 ◇◇◇


「アマネ、これを」

「……うん」


 俺は外套をアマネに渡す。

 アマネは旧魔王の一族だ。

 バレるのはまずいだろうから、こういうフードのついたものを着させた方がいいだろう。


 既にあれからしばらく経って、空は夜だ。

 俺達は暗闇の中、すぐに森を出て城壁に向かった。


 そして城壁のたもと、木の後ろから様子を窺う。

 既に暗いため人気は少ないが、城壁の入り口だけではなく、その上にも衛兵はしっかりと警護している。


「あいつらはどうする?」


 キザイアさんは真剣な表情で衛兵を睥睨する。


「そもそも魔族なんですかね?」

「いや魔族は数が少ないし、人間も駆り出しているだろう」

「……なら出来れば傷つけたくないですね」


 俺はアマネの方を見る。

 ……アマネの前であんまりこういうことを言うのは、良くないのかもしれないな。


「……」


 しかしアマネは特に何も気にしていない様子だ。

 本当に何も感じていないのだろうか?

 ……今聞くのはやめておこう。


「安心せい、この眠りの粉を使う」


 グルミニアは杖と、どこからともかく粉の入った瓶を取り出す。

 そしてそのふたを開け、


「『昇風(エアロウィンド)』」


 瓶の中の粉を上方へと舞い上げる。


 そしてしばらくすると城壁の上にいた衛兵たちはその場で眠ってしまった。


「やりましたね」

「これくらい余裕じゃよ」


 俺達は城壁の目の前まで近づく。


「『成長(グローアップ)』」


 グルミニアが杖を振ると、城壁に蔦が伸び、それは天然のはしごになった。


「では、のぼるかの」


 俺達はそのはしごを登る。

 体力の無い俺達を思ってか、荷物の大半はキザイアさんが背負ってくれた。

 そして城壁を登り終えた瞬間――


「……ッ!」


 目の前に広がるのは美しい夜景だった。


 暗い海に浮かぶ無数の船が、夜だというのに灯りをともしている。

 街は既に暗いが、それ故に港の明るさが際立つ。

 そのほの暗い灯りはまるで空に輝く星たちに語り掛けているかのようだった――


「プライベートで来たかったな、ここ」

「……うん」


 フード越しからでも覗くアマネの蒼い瞳は輝き、黄金色の髪は薄暗さの中で静かな光沢を帯びていた。


「きれい……」


 俺は呟きを漏らしていた。

 その瞳は街では無くアマネに向けられたまま。


「……ありがとう」


 アマネは俺を見据えて目を細める。

 はにかむアマネの笑顔は

 もう一月前の彼女とは全く異なる面持ちだ。


 昼間はあれだけカレンやオリヴィアの事を考えていたのに、

 今ではアマネに俺の心は奪われてしまっている。

 ……しかもそれが心地良い。


 これからも旅はしなければならない。

 それが俺の願いであり、使命でもある。

 でもこの瞬間は永遠に続いてほしかった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ