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第32話 仲間達

「では行くかの」


 俺達は翌日の朝には馬車に乗り込み、南部にあるというペレッキ港を目指し始めた。

 そして、そこからは船でヒノモトという新魔王のいる土地まで向かう手筈だ。


「師匠、必ず戻ります」


 ハイトウッド先生は森の出口に差し掛かった際。

 手を合わせて森に祈っていた。

 先生にとってもこの旅に何か思うところはあるのだろう。


「そういえばハイトウッド先生って呼び方はなんなのじゃ?」


 祈り終えたのか、先生は揺られる馬車の中、そう俺に話しかけてくる。


「え、えっと……」

「それに何故お主はわしのことを知っていたんじゃ?」


 先生は畳みかけてくる。

 ……ま、正直に答えるしかないよな。


「召喚前の世界に、全く同じ外見で同じ名前の先生がいたんですよ」

「ほーん。そうか」

「おそらく、並行世界だと思うんですけど……」

「多分そうじゃろうな。わしはまだ若いし、森から出た事もそれ程ない。お主が知っておるとは思わなぬな」


 森から出たことない。

 のくだりの時、妙に誇らしそうだった。


「じゃあ、なんて呼んだらいいでしょうか?」

「グルミニアで良い、下の名じゃ」


 グルミニア――

 元の世界のハイトウッド先生も同じ名前だった。


「いいんですか?」

「よい、それに敬語もよせ。おそらくお前と年齢はそう変わらん」


 この世界のハイトウッド先生は、俺と同じくらいの年齢なのか?

 なら敬語を使うのは違和感があるし、下の名前で呼ぶのもそれ程おかしい事じゃないだろう。


「な、なら……よろしくね、グルミニア」


 なんか妙に恥ずかしいな……。

 いっつも先生って呼んでたのを急に下の名前で呼んだのだから、それもそうだろうけど。


「あぁ、よろしくなアベル」


 グルミニアは満面の笑みを俺に向ける。

 それに俺は少しドキッとしてしまった。


 ……こうみると先生って結構可愛いよな。

 あ! もう先生じゃない。

 そうだ……グルミニアだった。


「……っ!」


 アニがアマネによって投げられた。


「うわっ!」


 それによって、俺は馬車の床に押し倒された。


「いてて……どうしたんだよアマネ」


 アニはスライムであって、間違っても投擲武器じゃないぞ。


「……ん!」


 アマネはそっぽを向いてしまった。

 どうしてだ……。


「ふふふ、わからんのか? そいつはわしに嫉妬しとるんじゃよ」

「……っ!!」


 グルミニアの言葉にアマネの顔が赤く染まる。

 そしてアマネは、グルミニアの身体をパンチし始めた。

 しかしその力は弱く、ぽこぽこという音さえ聞こえてきそうだ。


「……アニも大変だね」


 俺はそれを見つつ、アニを撫でる。


 ずっとこんなのが続けばいいのにな……。

 それを守る為にも新魔王を倒さないと!

 俺はまた一つ、その思いを強くした。


 ◇◇◇


「おぉ!」

「……っ!」

「ふふ、すごいじゃろ」


 俺とアマネはグルミニアの魔術に驚いていた。

 とは言っても、アマネはあれ以降ずっと俺の袖を掴み、グルミニアに敵対的な視線を送っている。


「もう一回。……ほれ」


 グルミニアは杖を軽く振る。

 すると種が一瞬で育った野菜へと変化する。


 ドルイド術に関しては植物園で何度も見せてもらったことがある。

 でも、いつ見てもすごいな。


「お、そっちも用意は終わったようだな」


 キザイアさんが帰って来た。

 ……鳥を片手に。


「……それどうやって取ったんですか?」

「え? まぁ、こう飛んで。それでバスっとな」


 正直何を言っているか分からない。

 どうやったら剣で鳥が取れるんだ?


 こうして触れ合ってみれば改めて感じる。

 俺は本当に、とんでもない人たちと仲間になったんだな。


「……夕飯。……食べよ」

「そうだな」


 キザイアさんは鍋の用意を始め、鳥を捌き出す。


「わしは動物を食べれぬから別々にしてくれぬか」

「わかった」

「……お肉、多め」

「任せろ」


 ドルイドだからグルミニアは動物を食べれないのか。

 これからも一緒に食事をする事になるだろうし覚えておこう。

 アマネはお肉が好きなのか。

 よそう時に多めに入れてあげるか。


「次の村まではどれくらいの距離なんですか?」


 俺は野菜の調理をしつつも、キザイアさんに質問する。


「あれから丸一日経ったから、あと二日というとこか」

「クッションとか売ってるといいですね」


 ずっと馬車に乗っていたからお尻が痛い。

 キザイアさんは慣れているだろうし、アマネはアニを下敷きにしていたりするから気にならないだろうけど……俺はすごく痛い。

 グルミニアも遠くない内にこのお尻の痛みを感じるだろう。

 出来れば次の村でクッションが売っていればいいな、と思う。


「甘いぞ、それでは強くなれん」


 キザイアさんはそう強く言う。

 でも俺があまり強くないのは汲み取ってくれているのか、おそらく本気で諫める気はないだろう。


「しかしアベル、身体だけが強さじゃないぞ」


 横から調理を一切手伝ってくれないグルミニアが会話に割り込む。

 それに反応するかのように、アマネが俺の後ろにくっ付く。


「というと?」

「魔術を教えてやろうか?」

「いいのか!?」


 それは願ってもみない。

 俺みたいな半端ものに教えてくれるなんて!


「もちろんじゃ」


 喜ぶ俺に対し、アマネが俺の裾を引く。

 ……あぁわかってるよ。


「……じゃあ、アマネと俺に教えてくれ!」


 アマネは目を点にしている。

 しかしキザイアさんとグルミニアは分かっていたようで、その様子を笑顔で見ていた。


 ◇◇◇


 次の日の夜――


「はっ! ……とっ!」


 俺は片手剣を上下左右に振る。


「もっと腰を落とせ、重心を低く保つんだ」


 そんな俺にキザイアさんから指導が飛んでくる。


「はっ! ……たあぁっ!」


「そうだ! いいぞアベル

「はぁはぁ……ありがとうございます」

「疲れも見えるようだし、今日はこの辺にしておこう」


 俺とキザイアさんは剣の稽古を終え、馬車近くの焚き火へと戻った。


「……でな『回復(ヒール)』は特殊魔術なのじゃ、聖魔術ではない。そこを勘違いしておると魔力変換が上手く出来ずに発動せんのじゃ」

「……分かった」


 すると、グルミニアがアマネに魔術を教えていた。


「ん? おぉ二人共帰ったか! では飯にするかの、アマネ」

「……うん」


 そうして俺達は焚き火を囲うように座り、ご飯を一緒に食べ始めた。


「ふぅ……明日、村に着くね」


 俺はご飯を口に入れながら皆に話しかけた。


「そうじゃの」

「その……その前に一応みんなの特性とかを聞いておきたいんだけど」


「いい提案だな。味方を知れば連携の幅が広がる」

「わしも構わんぞ。知られようと困る事はないしの」

「……気にしない」


 良かった。

 ひとまずは信用してくれているのだろう。


「じゃあ、いいだしっぺの俺から言っていった方が言うよ」


 俺は自分の得意不得意をよく考えて、頭からひねりだす。


「え、えっと……魔術が他の人より出来て、その他は普通くらいです」


 まぁ魔術に関しては当然だ。

 魔術学院の生徒なんだからな。


 あと、運動は苦手だったけど、魔石を食べてから強くなった気がする。

 まだ得意と言えるようなレベルじゃないけど……。


「どんな魔術が出来るか詳しく教えてくれ」


 グルミニアからの質問。

 俺はそれに出来るだけ答えようとする。


「学院で習ったから、下位魔術までなら全部出来るよ。ただ基礎七属性しか知らないし、特殊魔術は知識だけかな」

「ほう、すごいじゃないか!」


 キザイアさんは褒めてくれた。


「ありがとうございます。それでスキルは……『絶対真眼』。魔術を崩壊させることが出来ます」


遅緩時間(スローモーション)』については言わなくてもいいだろうと俺は判断した。

 特に言ってどうこうなるものではないしな。


「……アベルが召喚者という意味が理解できてきたのじゃ」

「これで終わり……かな?」

「あいわかったのじゃ。なら、次はわしの番かの!」


 グルミニアはそう言うとおもむろに立ち上がった。


「知っての通りわしはドルイドじゃ! 得意なのは当然ドルイド術、あと基礎魔術も出来る。苦手なのはその他全てじゃ!」


 いや、最後のは胸を張るところじゃないだろ……。


「魔術に関しては"神童"と呼ばれる水準じゃと自負しておるが、スキルは全く使えん、気にしないでくれ」

「はは……」

「では、次は私だな。……得意なのは剣と体術、苦手なのものは無い。スキルは戦闘に使えるが……一度きりしか使えん、基本気にしないでくれ。以上だ」


 うおっ。

 キザイアさん、短いな。


「……生命力、操れる。……以上」


 しかしアマネはもっと短かったようだ。


「はは……」


 こうして俺達は互いを知り、その日は眠りについた。


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