第27話 少女との旅立ち
チュン。チュン。
鳥の囀りだ。
「ふぁ……」
窓から入る朝日が眩しい。
いつもなら鬱陶しいくらいだ。
でも、身体が溶けるかと思うくらいふかふかのベッドに寝ていたおかげか、今朝はこの朝日さえ心地いい。
はぁ……これが元の世界ならなぁ~。
「……よいしょっと」
俺はあの後、これからの旅路についてを魔術師たちと話し合っていた。
結論から言ってしまえば、新魔王の暗殺は少数で行うので、俺は優秀な人材を集めなければならないそうだ。
その為にまず、俺が向かわなければならないのが、城塞都市アイルトン――
魔族領に隣する巨大な要塞都市……らしい。
アイルトンについては全く分からないけど、取り合えずそこの剣士長は魔族との戦闘経験も豊富で、新魔王討伐に関してはこれ以上ない適任者……らしい。
そして話し合いも終わり、俺の旅路がある程度決まった……いや、元々あったプランを叩きこまれた所で俺は一人の少女と共に、この宮廷?の一室へと向かった。
俺は疲れもあってか、部屋についたらすぐに寝てしまった。
ハルデンベルクさんにそっくりなこの少女と一緒に……。
あ、別に変な意味ではないよ。
「……すぅ……ぅ……」
しかし……隣で寝ている彼女はなんとも美しい。
透き通るような白い肌にそれを映えさせる金の髪。
はだけた身体はまだまだ育っていないとはいえ、その幼さゆえの可憐さが残る。
その姿には身体のアザでさえ美を際立てる道具かのように思えてくる。
まぁこんなエロいことを考えるけど、一切手は出していないし、結局あれから心を許してくれることは無かった。
まぁ本人の前であんな事を言った手前だ。
当然と言えば当然なのかもしれないけど。
「……起きて。朝だよ」
彼女の肩を軽く揺さぶる。
「……んっ? ……ッ!」
俺に触られたのが気にくわなかったのか、少女はベッドの奥へと飛び退いた。
「起きて。ほら、服は受け取ってあるから支度してね」
俺はそう言うと、一応気を使って隣の部屋で着替えることにした。
◇◇◇
「まずはアイルトンに向かって下さい」
「わかった」
「その後は、ここの森にいる神童と呼ばれるドルイドが良いでしょう」
魔術師の一人は地図を指差し、何度も俺に説明する。
「わかった」
「基本的にはその状況に応じて、適宜あなたが判断してください。無いとは思いますが……もしアイルトンが落ちていたら、グリーンフォレストの森を優先にする、とか」
「わかったよ!」
俺は半ば無理矢理に地図を奪い取り、リュックの中に詰める。
少し乱暴にしてしまった感はあるが、急に異世界に飛ばされて軽いホームシックになっているというのに、同じ話を何度も繰り返されたら流石に頭にくる。
「そんな、私はあなたの為に……」
「まぁまぁいいではないですかトーマス。ではアベル様、どうか気を付けて」
横にいたロッキンジーは爽やかな笑顔を向けてくる。
……世界を救ったらまずこいつを殴る。
これは個人的な目標だ。
「あぁ」
そうして俺と少女は馬車に乗り込み、宮殿を後にした。
アイルトンまでは馬車で5日程。
かなり長い旅になる。
食料や金貨は大量にもらっておいた。
金貨に関してはこれがどれ程の量か分からないが……一生遊んで暮らせる量らしい。
……もし元の世界に戻るって理由がなければ、一生遊んで暮らしただろう、ははは。
装備も新しく新調してもらった。
黒い上等な魔術衣装に杖。
特に杖に関しては本当にすごいものだ。
まぁ、俺が使いこなせなきゃ意味ないけど……。
そして金や装備を手に入れ、向かうアイルトンへの道中――
「その黒い魔術衣装、結構似合ってるね」
「……」
俺は何度も少女に話しかけた。
これから長い旅を一緒に過ごす事になるから、俺も仲良くしたい。
でも……
「……アイルトンまで遠いなぁ」
「……」
無視。
それに延々と馬車の床を見つめてる。
この子はずっとこの調子だ。
確かに、人を信用しなくなるには十分すぎる程ひどい目に合ってきたのだろう。
それに手は出してないけど、俺は彼女の事を愛玩用と言ってしまった……。
しょうがないと思ってるけど、確実に誤解はされてるだろう。
「……そうだな、あんちゃん」
「はは……ですね」
そして最終的には、俺と馬車を動かす御者さんの二人で話す事になる。
……でもこの子も俺と同じく、今は一人なんだ。
いつか仲良く出来るといいけど……心の傷ってのはなかなか癒えないものだ。
俺も両親が亡くなった時、何故か全ての物事に無気力になってしまった。
でも、俺の時はカレンが献身的に助けてくれたから、立ち直ることが出来た。
これに関してはこれからの俺の行動と……偉大な時間先輩に解決してもらうしかないな。




