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第17話 怪しい男、その2

 そして翌日――


「よし、じゃあ行こうか」

「はい」


 朝食を食べ終えた俺とカレンは玄関の扉を開き、今日も学院へと向かい始めた。


「お兄様、その……大丈夫ですか?」

「昨日の授業のおかげで筋肉痛が酷いんだよね、はは」


 俺の歩き方はいつもよりぎこちない。

 昨日の剣術の授業でしごかれたから、筋肉が痛んで動きが固い。


「明日の学院ダンジョンはどうしますか?」

「もちろん行くよ! だから頑張って治さないと」


 カレンとオリヴィアは気にしないだろうけど、俺の事情で予定を変えるのは二人に悪い。


「……それなら、マッサージでもしましょうか?」

「うーん。じゃあ帰ったらお願いしようかな?」

「ふふ、楽しみにしていてくださいね」


 カレンは優雅に微笑む。


 嬉しそうなその笑みは――本当に可愛らしい。

 風に梳かれる黒い髪や、陶器の様な白い肌、制服の上からでもわかる豊満な身体、その全てが艶めかしい。

 可愛らしさと妖艶さが同時に存在するカレンの美しさ――

 俺は実の妹に心を奪われていた。


「どうかしましたかお兄様?」


 カレンが前屈みに俺の顔をのぞいてくる。

 それによって良く育った胸部が強調される。


「い、いや、何でもないよっ!」

「ふふ、お兄様は可愛いですね」


 カレンは再び優雅に微笑んだ。


「そそそそんな! カ、カレンの方が可愛いよ!」

「えっ!? お、お兄様!?」


 俺達二人は兄妹揃って慌て始めた。

 カレンは俺と比べて、兄妹とは思えないくらい可愛い。

 でも……こういう所は似ていると思う。


 しかし慌てる時間はそれ程長くなく、


「カレンちゃん、おはよう」


 背後から声が掛けられた。


「だ、誰!?」「だ、誰ですか!?」


 それに対し俺達は同時に振り返った。


「ひうっ!」


 小さな悲鳴を上げるのは茶色の髪をした少女。

 三つ編みのお下げに、眼鏡をかけた大人しそうな子だ。

 この子は……っ!


「君は図書館にいた子!」

「あっ、何であなたがここにっ!?」


 彼女は俺が昨日、オリヴィアと行った図書館の受付にいた子だ。


「俺はカレンの兄だから一緒に登校しているだけだよ。それより君は?」

「私はカレンちゃんの友達で、その、たまたまカレンちゃんの姿が見えたから声をかけたんです……」


 え!?

 カレンの友達だったのか……。


「お兄様、クラーラさんと知り合いだったのですか」

「うん、まぁ……」


 一応、俺達は知り合いなのかな?

 あんまり良い出会い方だったとは思えないけど……。


「……もしかして、またセクハラでもしたんですか?」


 カレンがジト目で問い詰めてくる。


「いいい、いや! あれは事故っていうか……その、ねっ違うよね!」


 俺はだらだらと汗を流しながら、クラーラさんへと助けを求めた。


「助けてくれたのはありがたいんですが……間違いなくセクハラですね」

「ええ!? ほら、でも不可抗力じゃん!」

「そ、その、あまり言いたくはないですが……私の足を見てましたよね」

「んんん!?」


 クラーラさんの言っている事はすべて正しい。

 落ちてくるクラーラさんを受け止める前、確かに俺はクラーラさんの綺麗な足を凝視していた。

 ……しかもオリヴィアと比べて吟味する、とかいう最低な行為までしていた。


「ははは……カレン、許してくれ」


 言い逃れは出来ない。

 俺はまた怒られる事を覚悟した。


「はぁ……もういいですよ。お兄様はどうやらそういう星の元に生まれた方のようですしね」


 しかし、カレンはため息をつきながらも許してくれた。


「……ごめんね」

「……私はそういう目で見てくれないのに……」

「ん? 何か言った?」

「何でもありませんっ!」


 カレンはそっぽを向いてしまった。

 可愛いけど、結局なんて言ったのかは聞き取れなかった。


「その、カレンちゃんのお兄さん」


 俺とカレンの会話の合間を縫うようにクラーラさんが話し掛けてきた。


「ん、何? あっ、あとアベルでいいよ」

「はい、アベル先輩っ。そ、その、言いそびれてましたが、ありがとうございましたっ」


 クラーラさんは丁寧に頭を下げてくれた。


「あぁ、うん。どういたしまして」

「昨日はあの後お礼も言えずに下校時間になってしまったので……」

「まぁ仕方ないよ。それよりもクラーラさんが無事で良かったよ」

「は、はい……ん?」


 急にクラーラさんの会話の歯切れが悪くなった。

 しかもどこかをちらちら見ている。


「クラーラさん、どうかしたの?」

「あ、あそこの男の人、ずっとこちらを見てませんか?」

「え?」


 俺はクラーラさんの視線の方へと振り返ってみた。


 そこにいたのは、横目でこちらをちらちらと見ている男。

 背は低めで小太りだ。

 おかっぱの髪に、そのいやらしい表情には見覚えがある。

 ……昨日俺の家の前にいた男だ。


「おい、そこのお前!」


 俺は大声出して呼びかけた。


「うっ! ……チッ!」


 おかっぱの男は舌打ちをして、また足早に逃げていく。

 それを追いかけたいが、筋肉痛がじんじんする。

 くそ……まぁ今日のとこは許してやろう。


「あの方は……」

「知ってる人なの、カレン?」

「確信はありませんが……おそらく、隣のクラスの子ですね」

「そうか……」


 あいつがどういう奴なのか、だんだん見えてきたな。

 おそらくカレンに何かしらの感情を抱いているのだろう。

 それが好意なのか悪意なのか。

 いずれにせよ、カレンに迷惑をかけないといいけど……。


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