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第14話 剣術

 ガラッ。

 と演習室の扉を開いた。


 すると中には、既に席に着く何人かの生徒。

 しかしその数はかなり少ない。

 更に、学院の1クラスの人数は30人なのだが、この教室には20人分ほどの席しか用意されていない。


「……あそこでいいかな?」


 俺はそんな中、手頃な席を見つけてそこに腰掛けた。

 そしてしばらく待つと――


 ――ガラガラッッ!!


 と勢いよく扉が開かれた。


「よく来た青少年共オオォォ!!」


 演習室に入って来たのは藍色の魔術衣装に身を包んだ190cmを越す大男。

 一目見た感想としては――限りなくオーガに近い人間。

 まぁもっと良い言い方をすれば……男らしさの塊、ってとこかな。


 その腕の太さは、俺の腰ぐらいある。

 短い金の髪も、薄っすらと生える髭も、実に男らしい。

 正直言って、俺の真反対に位置する人間だ。

 なぜこんな人物が演習室に入って来たかというと――


「お前達はこの魔術学院において、俺に剣術を学ぼうとするゥ志しの高い存在だアアァァ!!」


 ……そういう事だ。


 この授業は6限目、今日最後の授業だ。

 そして2年次から始まる選択授業の最初の授業でもある。


 俺はその選択授業で剣術を選んだ。

 俺は魔術の素養がこの学院の生徒にしては低いから、他の生徒のように火魔術応用や水魔術等応用を選択授業に選べば、絶対に置いていかれる事だろう。

 だが、今は『遅緩時間(スローモーション)』が使えるこの『絶対真眼』があるし、カインとの一件でもこっちの方が向いていると思った。

 剣術なら最悪でも下の下の内には収まりきる……と信じたい。


「君たちが何の為にこの授業を選んだのかは存ぜぬが、必ずやドラゴンとも戦える強さを身に着けてやろうウウゥゥ!!」


 ……流石にドラゴンは無理だろ。


「俺はドラゴンの中ではワイバーンが好きだアァ! 何故なら銀色の鱗がかっこいいからなアァ!! ハッハッハッハ!!」


 来てほんの少しで分かったが、この先生の頭はおかしい。

 もはや体育会系とかいうレベルじゃない。

 いうなれば"対威苦魁系"だ。

 ……俺は何を考えているのだろうか?

 もう既に先生に影響されてるな……。


「……あ、あのー先生。自己紹介してもらっていいですか?」


 悦に入って自分語りを始めた先生に、体格の良い男子生徒が正論をぶつけた。


「おぉ!! すまないな、ハッハッハ!! 俺の名前はブレイヴ・グレインバーグ、気軽にブレイヴ先生と呼んでくれ!」


 名前まで強そうだな。


「前置きはこのくらいで終わりだアァ! 早速グラウンドを走ってから素振りだアアァァ!!」

「「「え……?」」」


 全員ぽかん、としてしまう。


 いくらなんでも早すぎないか?

 素振りの基礎的な説明とか、この授業で教える内容の説明とかが先じゃないのか……?

 いや、ブレイヴ先生にとっては自己紹介があっただけ遅いのかもな……はは。


「何事も体力が基本! 魔力が無ければ魔術も使えないだろう!」


 ブレイヴ先生はその言葉を言うなり扉を開け、教室から出ていった。

 俺達は仕方なくその後を追い、グラウンドへと向かった。

 そうして俺達20人の、地獄の一時間が始まった――


 グラウンドに着いてまず、俺達は30分間ひたすら走らされた。

 それも全力で、だ。

 もしも走る速度を緩めれば、


「おいそこのお前エェ! 足が止まってるぞオォ!」


 という風にブレイヴ先生の怒号が飛んでくる。

 だから全く気が休まらない。

 ただただ疲れる一方だ。


 そして30分が過ぎた頃に、二本足で立てていたのは、生徒19人中たった4人だけだった。


「ハァハァ……ふぅぅ……ハァハァ……」

「はぁ……もーむりー。はぁはぁ……うちの足、絶対動かへんわー」

「……うえっぷ。やべ、吐きそう……」


 周りの生徒達は座り込んだり、大の字になって荒い呼吸を繰り返す。

 かくいう俺も、


「はぁはぁ……死ぬ……」


 グラウンドに横になっていた。


 ……マジで、死ぬ。

 これはもう無理だ。

 残り授業時間20分が、こんなにも憎らしく思えた事は無い……。


「おい、お前!」

「はぁ……はぁ……」

「お前だアァ!!」

「うおおぉぉ!!」


 急に服の襟を持って持ち上げられた。


「聞いておるのか、お前を呼んでいたのだアアァァ!!」

「す、すいませんっ!」


 俺は空中に持ち上げられたまま謝った。

 ……すごい情けない状況だ。

 てか、何で怒られてるのかもわからない。

 頑張って走ったのに……。


 しかし予想に反し――


「お前は良く走ったアァ!」


 俺は褒められた。


「……え?」

「足は決して速くなかったが、手は絶対に抜かなかった! 俺はお前の事が好きだアアァァ!!」


 ――きゅん。


 なんてなる訳ない。


 でも俺の努力を認めてくれた事は素直に嬉しい。

 俺の中での、ブレイヴ先生の好感度はかなり上がった。

 あくまでもライクの範疇で、の話だが。


「……ありがとうございます」

「良い返事だアァ! ならばその意気で次の素振りも精進せいイイィィ!!」


 そう言うなり先生は俺を地面に下ろし、グラウンドの隅へと向かった。


 ……そうだった。

 まだ終わりじゃないんだったな、ははは。

 そして先生はすぐに、両脇一杯に木剣を抱え戻ってきた。


「残りの時間は素振りだアァ! この中から、好きなのを選べエェ!」


 先生は木剣をグラウンドに並べる。

 俺は小鹿のような両足に必死に力を入れ、木剣を取りに行った。


 剣は全部、片手用だな。

 長さはそれ程長くないし、その分重くも無いだろう。

 まぁ初心者用って感じか。


「……これでいいか」

「全員取ったな、よし! ではここから基礎を教えようウゥ!」


 そう言い先生は剣を高速で振った――


「は……?」

「今、振ったのか?」


 明らかに人の動体視力を超えた斬撃。

 周囲の生徒はその速さに驚愕している。


 だが俺の紅い眼には全てが見えた

 今の一瞬、先生の斬撃は上下、左右に斜め。

 その合計八回。

 ……尋常じゃない速さだ。


「では腰を落として、右半身に構えろオォ! これより基礎となる八方向からの斬撃を教えるウウゥゥ!!」


 ブレイヴ先生は強い。

 ついて行くのは難しいだろう。

 だが必死に食らい付けば――必ず強くなれる!

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