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第12話 新たなる始まり

「……それで、昨日サラさんが同じことを二回も言ったんだよ」

「うふふ、そうなんですか。あの方もそういう所があったんですね」


 火曜日の朝、登校中。

 天気はすごく良い、

 それにカレンの機嫌もすごく良い。


 カインとの一件がクラスでどう伝わっているか分からないけど、それは登校してみないとわからないし、深くは考えていない。

 それよりもオリヴィアの様子や、俺の順位の方が気になる。


「おはよー二人とも!」


 後ろから声を快活な掛けられた。

 一度足を止めて振り返ってみると、短いの青髪の少女が、朝から元気に走って来る。

 カレンの友人のアメリアだ。


「おはようございます。アメリアさん」

「おはよう、アメリア」

「へへ、二人とも朝から仲いいね~」


 アメリアは会うなりいきなりニヤニヤし始めた。


「うふふ、ありがとうございます」


 カレンは何故か嬉しそうだ。

 まぁ仲がいいのは事実だしな。


「アベル、カレンちゃん。おはよう」


 今度は横から声を掛けられた。

 次は誰だ?


 声のした方に顔を向けると、そこにいたのは長く、燃える様な赤い髪の女子生徒。

 オリヴィアだ。


「おはようございます。オリヴィアさん」


 そう挨拶をするカレンはなんだか余裕そうだ。


「あれ? 先輩、誰ですかこの方は?」

「オリヴィアっていう俺のクラスメイトだよ」


 そうか、アメリアはオリヴィアの事を知らないのか……。


「アメリアって言います。よろしくお願いしますオリヴィア先輩」

「よろしくね、アメリアちゃん」


 頭を下げるアメリアはどこかニヤついている。


「……ところで先輩方は付き合ってるんですか?」


「「「ぶっ!!!!!!」」」


 三人とも、突然の爆弾に吹き出してしまった。


「ちちち、違いますよねお兄様!」

「た、ただのクラスメイトだよっ」

「本当ですよね!?」


 カレンが俺の身体をすごい勢いで揺さぶってくる。

 やばいくらい頭がぶんぶんなっている。

 病み上がりとはいったい……?


「そ、そうだよ。オリヴィアもなんか言ってやってくれ」

「……うん。ただのクラスメイトだよ。」


 そうだ。

 ちゃんとそう言ってくれないと、俺がシェイクになってしまう。


「……えっちなお願いしなきゃいけないけど……」


 ……ッ!!!

 そうだ!

 忘れていた!!

 俺にはそんな最高の権利があったのだ!!!

 しかし――


「……お兄様。これはどういうことでしょうか?」


 やばい。

 カレンが明らかにやばい。

 ……目に見えない黒い障気が、何故か見える気がする。


 だが目に見えないものだけならともかく、

 ――ピキピキ。

 とカレンの周囲が凍っていく――


「違うんだ! オリヴィア、何とか言ってくれ!」


 俺はオリヴィアに助けを求める。

 しかし!

 こんな時に限ってオリヴィアは、顔を真っ赤にして下を向いている……。


「お兄様。これはどう違うのでしょうか?」


 カレンから伸びた氷は俺の靴に触れた。

 そして、離れる暇も与えずに俺の足元を完全に凍りつけた。


 ……ははは。

 グッバイ俺。

 やっぱりいつの時代も権利を得るには、大きな代償が必要だったようだ――


 ◇◇◇


「……まだ体調が優れず遅刻、ですか。はぁ……」


 俺は職員室でベルナール先生に遅刻を申し出に行っていた。

 あの後カレンに相当怒られ、遅刻する羽目になったのだ。


 オリヴィアとアメリアはちゃっかり抜け出していたけど……。

 しかし怒られて遅刻しました、なんてとても言えず、もちろん体調のせいにしていた。


「すいません」


 俺は頭を下げた。

 まぁ、そもそも遅刻の申し出なんてしなくてもいいのだが……これは一応、俺なりの礼儀だ。


「でもアベル君に伝えたい事があったので、手間が省けてよかったです」

「俺に、伝えたい事……ですか?」


 何だろうか?

 カインの事だろうか?


「ひとつはカイン君のことです」


 やっぱりな。

 でも一つ……ってことはまだあるのか。


「カイン君に関しては自主退学という形を取らせて頂きました。そしてこの件の詳細に関しては学院長とハイトウッド先生と私、そしてオリヴィア・アルタキエラさん以外知りません。もちろん他言無用です」

「カレンは……妹は知ってるんですか?」

「ハイトウッド先生が言うには、知らないそうですね」

「はぁ、そうですか」

「理解が速くて助かります」

「……ところでもう一つは?」


 もう一つの伝えたい事とはなんだろうか?

 それが何なのか、俺には分からない。


「もう一つは、あなたに学院ダンジョンの攻略許可が学院長から下りました」


 学院ダンジョン――

 それはこのバルザール魔術学院の地下に存在するダンジョンだ。

 元はどうやら高名な魔術師の工房であったらしいが、その防衛機構とモンスターが住み着いている事によって、ダンジョンとなったらしい。


 だが攻略許可は、教師と一部の成績優秀な生徒にしか与えられないはず。

 何故俺なんだ?

 しかも、また学園長の名が出てきた。

 どういう事だ?


「それは……本当ですか?」

「はい本当です」

「うーん、そうですか……」


 何か腑に落ちない所もあるけど、まぁいいか。


「何か気になる点などはありますか?」

「ダンジョン攻略は、俺一人でしか出来ないのですか?」

「いえ、許可はあなたに下りましたが、多少のサポートは構いませんよ」


 おぉ!

 それは良かった。

 俺一人じゃ、攻略なんてとても出来ないからな。


「他に聞いておきたい事はありますか?」


 他に聞いておきたい事か……。

 ダンジョンの情報とかもっと知っておきたいけど、それをベルナール先生に聞いてもしょうがない気がするしな……。


「うーん。特には無いですかね……」

「なら、伝える事は以上です。今日からも勉学に勤しんでくださいね」

「うぅ……分かりました」


 嫌みか?

 俺は最下位だぞ。

 いや……待てよ。

 カインに勝ったからもう最下位じゃないのか!

 いえーい!!


「あと、最後に一つ。次からはもっとましな嘘をついてくださいね」

「あ……はい」


 どうやらバレていたようだ。

 まぁ確かに、これだけ元気で体調不良とか無理があるな……。


「はは……では、失礼しました」


 俺は何度も頭を下げながら職員室から出て行った。

 そして職員室のある中央本館を出て、2年の校舎へと向かった。

 そして校舎に入ったところで――


 ――キーン、コーン。


 やべ。

 一限の終わりの鐘だ。

 もうそんな時間かよ!


 俺はダッシュで階段を駆け上がる。

 そして教室から出てくる先生と入れ替わる形で、教室に入った。


「でさー、この前公爵様に会えたのよー」

「すごいじゃん!」

「公爵様ってどんな人……あっ、アベル! ……はは、おはよ」


 友達と会話してたオリヴィアに1、2時間ぶりの挨拶をされた。

 しかしオリヴィアは目を合わせてくれない。

 それもそうだ。

 カレンと俺の、熱い家族会議からこっそりと逃げていたからな……。


「……おはようオリヴィア」


 ま、オリヴィアの友達もいるし、追及するのはよしておこう。


 俺は大人しく自分の席へと向かった。

 そして教科書を机の中に入れて入れていると、


「おい、バカベルぅ~」


 ガラの悪い男に話し掛けられた。

 染めた金髪に焼いた色黒な肌。

 俺をいつも馬鹿にしてくる――ヴェヘイルだ。


「……何の用?」

「カインの奴がぁ、自主退学したらしいがぁ、全く顔を見せねぇんだぁ~。明らかにおかしいと思ってなぁ、何か知らねぇのかぁ?」


 ……知っている。

 カインなら死んだ。

 だが先生に他言無用と言われたし……


「知らないな」

「……そうかぁ。じゃあなバカベルぅ~」


 ……え?

 珍しく、煽りもせずに引き下がったな。

 というか、かなり心配そうな表情をしていた……。

 ……ヴェヘイルも仲間想いな所があるんだな。


「席に着けー」


 そんな事を考えている間に、教師が教室に入って来た。

 授業が始まる。


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