第10.5話 病院への訪問
暇だなー。
すげー暇だなー。
あの後、俺は学院付属の病院に移された。
傷そのものは医務室の先生が治してくれていたけど、お腹を貫かれたのだ「大した事ない怪我だ! 帰ってオーケー!」で済むはずが無い。
よって俺は病院できちんとした検診を受け、結果として入院する事になったのだ。
それ自体はしょうがないと思うし、有難い。
だけど――暇だ。
今日は日曜日。
明日の昼には帰れるらしいけど……だからと言ってこの退屈さが変わるわけじゃない。
カレンは昨日一日ずーっといてくれたけど、今日は友達と親睦会みたいなものがあるようで、当然そちらを優先させた。
……説得するのがとても大変だった。
オリヴィアは事後説明が忙しいらしく、来れないみたいだ。
仕方ないな。
ハイトウッド先生に関しては、来てくれてもいないし、何一つ情報を聞いて無い……。
うぅ……薄情だ。
「はぁ……」
本当暇だ……。
せめて病院内で魔術を使えたらいいのに……。
そんなことを考えていたら――
コンコン。
とドアがノックされた。
「どうぞ! 是非入ってください」
嬉しい!
今日一日めちゃくちゃ暇だったからな!
もうオークとかゴブリンでさえ来て欲しいくらいだ。
「失礼するわねぇ」
しかし、入ってきたのはオークでもゴブリンでもない。
波のようにウェーブした美しい金の髪。
そして病院内だというのに露出の覆い服装。
そう、見眼麗しいナイスバディな美女――サラスティーナさんだった。
オークやゴブリンとの対比は失礼だったな……。
「元気?」
声をかけられて我に戻る。
「もちろんです! この通り!」
「あらぁ、本当にいつもより元気ねぇ」
確かに俺は元気だ。
まぁ暇だったから、人に会えて嬉しいっていう理由なんですけど……。
「にしてもサラスティーナさん、私服までそんな感じなんですね……」
病院内でまさかのスリット入りスカート。
普通に考えれば、有り得ない服のチョイスだ。
「う~ん。こういう服しか持ってなくてぇ」
……まぁ確かに、露出が少ないサラスティーナさんなんて見た事ないな。
バイトの時もいつ……。
そうだ!
「あっ! それより、バイト行けてなくてすみません」
思い出した。
バイトの事伝えるのを完全に忘れてた!
「いいのよ。妹さんから事情は聞いてるし、今は休みなさい」
はぁ……良かった。
本当にありがとう、カレン。
「戻ったら、頑張りますね」
「えぇ、そうしてくれると嬉しいわ」
サラスティーナさんは妖艶に微笑む。
……明らかに昼間の病院で放てるようなエロさじゃない。
「あっ、そうだったわ。そんなことよりぃ、暇してると思ってぇ、色々買ってきたの」
サラスティーナさんは手にした袋の中を物色し始めた。
こういう気配りが出来る人って、本当にありがたい。
やっぱり、サラスティーナさんは大人の女性だな!
「はい、どうぞ」
袋から出てきたのは、リンゴにお菓子と――
エロ本。
「……え?」
思考が固まる。
ん?
俺の見間違いか?
いや、何度見てもエロ本だ。
絶対にエロ本だ。
「たまってると思って。必要でしょ、こういうのぉ」
はは、やっぱりサラスティーナさんは大人の女性だな……。
しかし、そんな事を考える余裕もなく―――
「いいいいや、あああの!」
俺は完全にてんぱっていた。
「あらぁ、いらないの?迷惑だった?」
「……いえ、その……ありがとうございます……」
顔が熱い。
正直に答えるのは恥ずかしい……。
「うふふ、そうでしょ」
楽しそうに笑っている。
……確信犯だろうな。
「じゃあそろそろ、帰るわね」
「え、早くないですか?」
「今すぐにでもぉ、一人になりたいでしょ」
蠱惑的な笑みを浮かべたままサラスティーナさんは病室を後にした。
そして俺はその後、暫くの間暇ではなくなった。




