第10話 絶対真眼
……。
……生きてる、のか?
ここは……?
取り合えず、眼を開けよう。
「うぅ……」
白い……。
天井も、壁も。
それに……何も無いな。
見覚えがある。
ここに来るのは二回目だ。
「目覚めましたか? アベル・マミヤ」
後方から呼び掛け。
俺は優しい声のした方を振り向く。
すると瞳に映るのは4枚の羽根を広げる白い女性。
その灰色の髪に、汚れ一つない白い肌、間違いない――天使だ。
「……あぁ、おかげさまでな」
「それは良かった」
「で、今度は何の用だ?」
「おそらく、スキルについて知りたい事があると思って、ここに呼びました」
……流石、神々の御使いなだけはあるな。
俺もスキルをくれた張本人たちに、ちょっとばかし聞きたい事があった。
「なら単刀直入に聞くぞ。俺のスキルは何だ?」
俺が現在確認出来たスキルは、物体の動きをゆっくりと捉える『遅緩時間』と、魔術を根本から『崩壊』させる『絶対真眼』。
神々からの贈り物とはいえ、いきなり『二重能力』なんて都合が良すぎる。
「……ならこちらも単純明快に答えましょう。あなたに与えたスキルは『絶対真眼』のみです」
ん?
どういう事だ?
実際に俺のスキルは二つあるぞ。
「……もう少し詳しく説明してくれ」
「はい。あなたが別個のスキルだと思っている『遅緩時間』、それは『絶対真眼』の隠された能力の一つにすぎません」
「なッ!」
つまりスキル『絶対真眼』の中に、能力『崩壊』と能力『遅緩時間』があるという事か。
俺はどうやら初めから勘違いをしていたようだな……。
「……って事は、他の能力も存在するのか?」
「はい。その紅い瞳は無限の可能性を秘めています。数多もの能力の中から、あなたがたまたまその二つを覚醒させた、というだけです」
「そうだったのか……」
「理解してくださりましたか?」
「あぁ」
「それでは、お別れですね――」
天使は両手を広げる。
それに伴い淡い光が辺りを包み込んでいく。
その光は俺の身体にも纏わりつき、俺を現世へ返そうとする。
「なぁ、最後に一つ聞いてもいいか?」
俺は光を纏いながらも、天使に話しかけた。
「えぇ、構いませんよ」
「あんたの名前はなんて言うんだ?」
「私に名はありません。正確には……捨てた、といった方が正しいでしょう」
天使は、悲しそうに笑う。
……少し、悪い事を聞いたな。
「ごめん」
俺は素直に謝った。
「ふふ……やはりあなたは優しい人です。その優しさがあればきっと他の能力も手にする事が出来るはずです、頑張ってくださいね――」
そこで、俺の意識は再度途絶えた――
◇◇◇
ん……。
あれからどうなったんだ?
見えるのは……白い天井?
寝ているところは、柔らかいな……ベッドか。
「お兄様!!」
突如、横からすごい勢いで抱き着かれた。
呼び方からも察せられるが、おそらくはカレンだ。
いつもなら嬉しい。
だがそれも"いつもなら"だ。
今抱き着かれると――
「っうぐ、うおぉ!」
めちゃくちゃ痛い!!
「カレンその辺にしておくんじゃ。仮にもそやつは怪我人じゃぞ」
「え!? あっ! ごめんなさいお兄様、嬉しくてつい……」
ハイトウッド先生……ありがたい。
柔肌の感触より痛みの方が、圧倒的に強かったからな……。
「うぅ……いいんだよカレン。ところで、ここは?」
「ここは医務室です。お兄様が魔術戦で大怪我して運ばれて来たんですよ!」
カレン、なんか妙に怒ってるな。
……まぁ魔術戦することも隠してたし、こんな大怪我までしたらそりゃ怒るか。
「まぁまぁカレン。怒る気持ちも分かるが、それは回復しきってからにするべきじゃ」
「……でも、心配したんですから……ひっく……ぐす……」
カレンは俺のベッドに頭をうずめた。
「……ごめん」
俺はその頭を優しく撫でるしかなかった。
◇◇◇
「ところでアベル」
しばらくして、カレンが泣き疲れ眠った頃に、ハイトウッド先生に話しかけられた。
「何ですか?」
「お主を運んできたオリヴィアという……」
オリヴィア……?
そうだ!
「オリヴィア! 先生、あの子は無事ですか!?」
「落ち着くのじゃアベル。もちろん無事じゃ、ただ事後説明の為に学院長室におるがの」
「よかったぁ……」
取り合えずオリヴィアは無事か。
それが聞けただけでも一安心だな。
「そう、それでその子から聞いたのじゃが。あのカインとかいう男、魔族だったそうじゃな」
魔族復活に関しては、ベルナール先生から口止めされてたけど……まぁ知られてるならしょうがないか。
「はい。……意外でしたね」
ずっとカインの事は人間だと思っていた。
だが、戦いの時に出した2枚の黒い翼に杖無しの魔術。
……あいつは魔族だったんだ。
「その事に関して聞きたい事が一つあるのじゃ」
「なんですか?」
「あやつは果たして、最初から魔族だったのか?」
「え? それってどういう……」
最初から魔族……?
どういう意味だ?
「わしはあの男が後天的に魔族になったのではないか、と考えているのじゃ」
「……そんな事が可能なんですか?」
「それはわしにも分からん。ただ今までの魔術戦の順位を見るに、急激に強くなった気がしての」
「……確かに」
元々カインはそこまで成績のいい生徒じゃない。
それは前にカインと戦った俺には分かっている。
あの時は下位魔術の『石弾』で、小さな石の弾丸を一つ放って来ただけだったし、カインをそれ程脅威には感じなかった。
しかし今日のカインはどうだった?
正直……今まで見てきた魔術師の中でも最高峰に強かったな。
確かに、これが同じ人物の実力とは思えない。
じゃあ、いつ魔族になったんだ?
あの後俺はすぐに帰ったし、オリヴィアもすぐ帰っただろう。
そして翌日の魔術戦申し込み用紙にはオリヴィア曰く、魔族の魔術が使われていた。
……その間。
その間にカインは魔族になったのか……。
「……先生。カインは今、どうなっているんですか?」
確かめなくちゃいけない。
だが――
「カインなら死んだのじゃ」
「そう……ですか」
…………。
そうか。
俺がこの手で、殺めてしまったのか……。
敵とはいえ……罪悪感を覚えるな。
「アベル。おそらくじゃが……わしらも知らん様な計画が、この王都で行われておる」
「……はい。俺もそんな気がします」
「気をつけるんじゃぞ」
そう言うと先生は丸椅子から立ち上がった。
「それとアベル」
「何ですか?」
「聖杖の勇者は初めから強かった訳では無い。覚えておくとよい」
そう言い残し、先生は医務室から出ていった。
「……俺のスキルの事、オリヴィアから聞いたのかな?」
俺はこの時、これから先に何が待ち受けているかを全く知らなかった―――
――――――—————
◆アベル・マミヤ
◇スキル『絶対真眼』
・『崩壊』
・『遅緩時間』
◇????
・『神殺槍』




