第105話 シモン宅
「……『闇形成』」
アマネは俺の足元に靴を形成していく。
ぴったりと足に纏われる精巧な魔術行使。
……流石だな。
「ありがとう。よし、じゃあ行くか」
「……うん。……身体、大丈夫?」
「もう心配ないさ」
俺は簡単な食事をとり、アマネの『生命力操作』で生命力を増幅してもらった。
そのおかげか、あれだけの傷を負ったにも関わらず、それが気にならないくらい俺はピンピンしている。
今なら魔術やスキルの行使にも問題は無いだろう。
俺は一応身体の具合を確認して、アマネと共にシモンの家へと向かい始めた。
「アマネ、おそらく奴のスキルは移動系のものだ」
「……細かく」
「その女は小さな鉄球を投げるんだ。多分その鉄球の位置にワープするんだろう」
あの女のスキルにはかなり悩まされたが、種が割れてしまえばこちらのものだ。
「……相性、悪い」
「確かにな……」
俺の『絶対真眼』やアマネの『生命力操作』は、相手の身体や行動をよく見極めないと発動は難しい。
移動系のスキルとの相性は最悪だ。
でも──
「だから二人で挑むんだろ」
「……うん」
俺達が意気込んだ時、ちょうどシモンの家に辿り着いた。
俺は玄関前に傘を置き、
「……開けるぞ」
慎重に玄関の扉を開く。
扉の奥は先程と大して変わらない。
豪華な装飾に、俺の物を加えた3足の靴。
「……」
俺達は靴も脱がず、慎重に玄関へと上がる。
そして足音を立てないように、ゆっくりと、ゆっくりとリビングへと向かっていく。
そこへ――
「キシエエエェェェ!!」
唐突。
天井から男が、俺の命を奪いに降って来た。
鬼の形相を顔に張り付け、短剣を振り下ろそうとするその様はまさに"暗殺者"。
顔を狙って振り被る短剣の光を前に俺は、蛇に睨まれた蛙だった。
……やばいッ!
リビングに意識を集中させ過ぎた……!
これは食らってしまうッ!
しかし──
「ギャアァ!!」
男は強い衝撃を受け、壁へと吹き飛ぶ。
背中を強く打ち付けて、悔しそうに舌打ちをした。
「あ、アマネ!」
よく気付いてくれた!
こんな暗闇の中。
天井に潜んでいた男に気付くとは、流石アマネだ。
「……油断、ダメ」
そう言いつつアマネは伸ばした腕の先から再度、白銀に輝く金属片を形成し──放つ。
「キシャッ!」
しかし男は、危なげながらも短剣で金属片を弾き飛ばし、態勢を整えた。
これで始めて、俺達と男は向き合う事となる。
急に現れた、先程の女とは異なる男。
肌は白く、金の髪に青の瞳をしている。
顔付きは……完全に逝かれた男の顔付き。
「……お前は誰なんだ?」
「ヤスミンにこの場を代われと言われた者だ。名は知らなくても良い」
ヤスミン……?
おそらくあの褐色の女の事か。
……という事はこいつも人工魔族か?
「……そうか。──なら容赦はしない! 『魔剣』!」
俺は男の元へと一気に駆け、右手の内に漆黒の剣を形成する。
「キシエェ! 速い!」
「っと!」
そして驚く男の脳天目がけて、高速の斬撃を繰り出す。
「キショォ!!」
白刃が奏でる甲高い金属音。
俺の攻撃は、短剣によって弾かれる。
男はその隙を見極め、短剣で俺の顔目がけて突きを放った。
しかし、俺の眼にはその軌跡が見えるッ!
当然この程度の攻撃、見切れない事は無い!
「……でも、念には念を入れさせてもらうぜ!」
俺はその短剣を避けない。
代わりに男の手を空中で掴み取るッ!
「キシャアア!?」
短剣は間合いが短い。
普通の剣に比べれば手元を掴むくらいはどうって事ない。
俺は両腕に渾身の力を籠め、男の腕をその場に固定する。
更に男の足の甲を踏みつけ──
「アマネ!」
「……『生命力操作』」
アマネが腕を伸ばす。
その先には、俺によって動きを完全に封じられた男。
必死に離れようと抵抗するが、俺の膂力には決して敵わない。
「キシェエエエエ!!!」
急速に膨れ上がる男の全身。
元々歪んでいた顔は更に歪み、骨肉が悲鳴を上げる。
そして男は断末魔を上げ──跡形もなく爆発四散した。
「ふぅ……」
危うげながらも勝利を掴んだ。
それも、ほとんどアマネのおかげで。
それ自体には俺も思う所があるし、ヤスミンと呼ばれた女の行方も気になる。
だが今はそれよりも、
「……うえ」
最悪な事に、俺は返り血によって眼以外も紅く染まり切っていた。




