第99話 赤き兄妹
「予定の時間よ、オーデ」
「よく逃げなかったなオリヴィア。それは褒めてやろう」
再びオリヴィアとオーデは大広間の中央で向き合う。
二人共、上等な杖を手に持ち、紫色の魔術服に身を包んでいる。
俺達や魔術師達は広間の端の方で、そんな二人の様子を見守っている。
「敗北した方は宮廷魔術師の座を追われる。文句はない?」
「あぁ無い。敗北するのはお前だしな」
オーデは自信たっぷりにそう答える。
オリヴィアは相当に強い魔術師だ。
これだけ自信満々に答えられるという事は、オーデ本人も一流の魔術師なのだろう。
「じゃあ、始めるわよ」
「あぁ、いつでもかかってこい」
二人は互いに互いをにらみ合い、精神を集中させていく。
二人が黙った事によって周りの魔術師達も静まり、辺り一帯は静寂に包まれる。
それによって、たった数秒の事が永遠の事のように思えてくる。
そして、二人はにらみ合った末、
「『吹荒……」
先に魔術を発動しようとしたのはオーデ……のはずだった。
「え……?」
ふと、急に部屋の明かりが全て消えてしまった。
壁についてある照明や、屋上のシャンデリアもその全てが光を失った。
そして突然――
バリン、バリン、バリン、バリン!!
と窓が割れ、外から漆黒の槍が大量に室内へと降り注いで来た。
「「「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
急な襲撃に周囲の魔術師達も血飛沫と悲鳴を上げ、大広間は混乱に包まれてしまった。
「カレン、グルミニア!!」
俺はとっさに、二人の身体を包み込むように抱きしめ、槍の降り注ぐ窓に背中を向けた。
槍は貫くのに特化した形だ。
急ごしらえの防御魔術では突破されるかもしれないし、この暗闇の中では俺の『絶対真眼』を発動できない。
だからこうして二人を守り、後はひたすら祈るしかなかった。
「ぎゃあぁ!! ぐわあぁっ!」
「助けてくれ! 誰か!!」
「『光……うわああぁぁ!」
背後からはいつくもの悲鳴が耳に届く。
でも、彼らを助ける事は出来ない……ッ!
頼む、当たらないでくれ!
当たらないでくれっ!!
────。
そして気付けば再び静寂が訪れた。
槍の雨が降り止み、悲鳴も既に上がってこない。
「助かった、のか……?」
俺は周りの様子を確認するために顔を上げた。
……いや、上げてしまった。
周囲には積み重なる魔術師達の死体の山。
床は赤く磨かれ、それに滑ったかのように魔術師達はだらしなく倒れている。
その惨状に生き残ったものでさえも声を出せずにいた。
……酷いな。
俺はこの暗闇に目が慣れた事を後悔していた。
「……オリヴィア。どこだ、オリヴィア……」
俺はゆっくりと立ち上がり、オリヴィアを探して大広間の中央へと歩き出す。
暗闇の中。
完全に目が見えていた訳では無かったので、慎重に歩いていたのだが……
「……うわっ!」
血に滑ってしまった。
それによって頬や服は赤黒く染められ、もうなんだか……泣きそうだ。
そして倒れた俺は、情けない姿のまま前を見た。
視線の先は丁度、大広間の中央。
そこでオリヴィアは、動かなくなったオーデを抱き締め、静かに泣いていた──




