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第98話 宮廷長の座

「おそらく、ここだろうな」


 俺とカレンはとある建物の前で歩みを止めた。


 金に輝く装飾が、空に浮かぶ月明かりに反射し、そのシルエットをやんわりと映し出す。

 まぎれもない、俺達が来たのはシェルブール宮殿だ。


「お兄様、何故こんな所にオリヴィア先輩がいるのでしょう?」

「昨日忍び込んだ時、この宮殿とオリヴィアが何かしらの関係がある事がわかったんだ」


 俺は昨日あったことを正直にカレンに伝えた。

 さっきの事もあったし、何故か今は隠し事が出来ない気分でいた。


「それで昼間は眠たそうだったんですね、ふふ」


 カレンは何で嬉しそうにしているんだ?

 別に喜ぶようなことは言っていないけど……。


「その……カレン、何で嬉しそうなんだ?」

「お兄様がやっと正直になってくれたからですよっ」


 そう言ってカレンははにかんでいる。


 ちょっと異様な俺達の会話。

 これは俺達が互いに成長した証拠だと、俺はとらえる事にした。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 俺達は宮殿の入口へと歩いて行った。

 すると見えてくるのは二人の衛兵……のはずだった。

 しかし実際にいたのは"草に拘束された"二人の男性だった。


「……これは、どういうことなんだ?」


 よく見てみれば、拘束されているのは衛兵だ。

 誰かが侵入しようとして拘束したのだろうか?


「ハイトウッド先生、でしょうか?」

「そう……だろうな」

「それならこの先にハイトウッド先生が……?」

「だろうな。先を急ごう」


 俺達は難なく宮殿の入り口に入り、そのまま奥を目指して走り始めた。


 それにしても、何が起こっているんだ?

 消えたオリヴィア。

 それを追いかけたグルミニア。

 そして、オーデという名前。

 何が何だか分からない。

 でも、それも着いてみれば分かるはずだ!


「……ここか」


 そして俺達は一つの扉に辿り着いた。

 奥からは話し声が聞こえてくるし、誰かがいる気配が扉越しでも強く伝わってくる。

 もしオリヴィアとグルミニアがいるとすれば、確実にここだろうな。


 俺は杖を引き抜き、カレンの方を見た。


「行くぞカレン、準備は良いか?」

「もちろんです」


 俺はそれを聞き、勢いよく扉を開いた!


「魔術学院の者だ! 動くんじゃない!」


 俺とカレンは杖を構え、室内の魔術師達に制止を促す。

 そして開いた扉の向こう、その部屋の中身が俺の紅い瞳には見えた。


 そこは大きな広間だった。

 俺達が来た扉の他にも左右に二枚の扉があり、奥には巨大な窓があり部屋に光を落とす。


 しかし何より目を惹いたのは、大広間に所狭しと集まっている大量の魔術師達だ。

 そのほとんどがシェルブール宮殿の宮廷魔術師で、たった二人だけが異なった服装をしていた。

 それが誰なのか、パッと見ただけでも俺にはわかる。

 オリヴィアとグルミニアだ。


「オリヴィア! グルミニア!」

「アベル、どうしてここに!」

「二人を探しに来たんだ。それより何をしているんだ!」


 オリヴィアとグルミニアはどうやら口論をしていたようで、二人の目の前には相手と思わしき一人の魔術師が立っている。

 そして魔術師の人混みもその口論を反映するかのように、オリヴィアとグルミニアのサイド、そしてその魔術師のサイドに別れている。


 二人がここにいる理由、それはこの状況に関係あるはずだ。


「お前には関係の無い事だ、さっさと失せろ」


 オリヴィアと向き合う魔術師に俺はそう言われた。


 その男の背は高く、燃える様な赤い髪。

 そして端正な顔立ちをしていて、どこか俺には見覚えがある。


「関係ないわけないだろ、俺はオリヴィアの友達だ」

「……友達? 友達、か。下らないものを持ったなオリヴィア」


 男は薄ら笑いを浮かべ、蛇の様な目つきでオリヴィアをさげすんだ。

 それに対してオリヴィアは重々しく口を開いた。


「下らなくなんかないわよ、オーデ」


 オーデ──そうオリヴィアが言い放った、その名前。

 俺には聞き覚えがあった。

 最初は路地裏で聞き、そして図書館に書かれた家系図で見た名だ。


 更にその燃える様な赤い髪に、整った顔。

 よく見ればオリヴィアによく似ている。

 そう、家系図で見たから俺は知っている――オーデはオリヴィアの兄だ。


「兄を呼び捨てにするとは良い度胸だな、オリヴィア」

「妹を蹴落とそうとする人間が兄だとは思わないわ」

「正論だな。なら、俺もお前を妹ではなく敵として見る事にしよう」


 オリヴィアとオーデは、その赤い髪を輝かすように目に見えない火花を散らしている。

 それにともない、両サイドの魔術師達もがやがやとしてくる。


 一触即発――

 今にも二人の戦いは始まりそうだ。


「オーデ、宮廷長の選出は一年後。これは前宮廷長様が決めた事よ。それを破るという事は、前宮廷長様の意思を反故する行為に他ならないわ」

「あの爺さんももうろくだったという事だ」

「オーデ!」


 オリヴィアが声を荒げる。

 オーデのその発言はかなり許されない発言のようで、オリヴィアサイドの魔術師達からも声が上がる。


「五月蠅い奴らだな。実力で物を語れよ」

「あなたは実力の前に人としての心が不足しているわ。そんな人に宮廷長の座は譲れない!」

「何が人としての心だ! そんな下らないもので魔族が狩れると思うなよ」

「……どれだけ言葉で言っても無駄なようね。ならオーデ。あなたに決闘を申し込むわ」

「その言葉を待っていた」


 兄妹同士での決闘。

 それは俺には考えられない事だ。

 でも二人にとっては違う。

 あまり蚊帳の外の俺が言う事ではないかもしれないが……悲しいな。


「それでは一時間後、この場で再度集合だ。オリヴィア、逃げ出すなら今の内だぞ」

「そんな事しないわよ。あなたこそ首を洗って待つ事ね」


 そうして二人は完全に袂を分かち、そのまま別々の部屋へと入って行った。


「カレン、追いかけよう」

「はいっ」


 俺達はオリヴィアやグルミニア、そしてオリヴィアサイドの魔術師達が、入って行った扉へと向かい、それを開いた。


 彼等にとって俺達は関係の無い第三者かも知れないが、何故こうなっているのか気になるし、なによりオリヴィアが心配だ。


「何があったのかを聞かせてもらっても良いか?」


 扉を開いた先、大量にいる魔術師達へと、俺は恐れもせず尋ねた。


「お前達は誰なんだ?」


 魔術師の一人が俺とカレンに歩み寄って来た。

 しかし、


「わしの知り合いじゃ。実力は保証する」


 グルミニアがその魔術師を制止した。


「……神童様がそう仰るでしたら」


 魔術師はそれを受け、身を引いた。

 グルミニアの名声は未だにすごいんだな。


「アベル、カレン、よく来たな」

「お二人の帰りが遅かったので……」

「心配をかけたな、アマネは?」

「宿で本を読んでいるさ。それより、何故オリヴィアとオーデは対立しているんだ? 兄妹なんだろ」

「それは……」

「ハイトウッド先生、私が説明します」


 魔術師達の集団をかきわけ、俺達の前にオリヴィアが現れた。

 その目つきは険しく、いつものオリヴィアよりも……なんだか怖い。


「ざっくり言ってしまえば、あのオーデという男と宮廷長の座を争ってるの」


 先程の会話から何となく分かってはいたが、こうして当事者の言葉を聞くのが一番信用できるな。


「宮廷長という座は本来、推薦での多数決制なの。でもオーデはそれを破り、実権を支配しようとしている。私は……オーデには宮廷長を任せられない」


 オリヴィアは少し悲しそうな顔でうつむく。

 やはり家族と戦う事に少しためらいがあるのだろう。


 そして、そんなオリヴィアの言葉を補足するかのように、


「オーデ様はオリヴィア様が学院を卒業する前に宮廷長を決めるおつもりなのです」


 魔術師達の中から一人の魔術師が出て来た。


 頭ははげ上がり、白い立派な髭をたくわえたその姿は、まるで仙人のようだ。

 ……魔術師だけど。


 でも、このお爺さんが言う事も正しいだろう。

 学院に在籍している間はオリヴィアも宮殿にはそうそう来れない。

 根回しをするなり、実績を残すなり、次期宮廷長を狙うオーデからすれば好都合だ。


「前宮廷長様は次期宮廷長候補にオリヴィア様を推薦しておりました。しかし、兄のオーデ様にはそれが許せなかったのでしょう……」

「エンゲルス、それ以上は言わなくてもいいわ。オーデだって考えあっての行動だろうし」


 ……結構難しい話だな。

 こういった政争みたいなものは庶民の俺には縁がなかったし、実際これだけ説明して貰っても、完璧に理解しているとは言い難い。


 そんな俺がうかつに首をつっこんでもいいのだろうか?

 変にかき乱すよりも、今はオリヴィアを信じよう。

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