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第97話 気になる

「お兄様どうですか、この服?」


 カレンが魔術服の裾をつまみあげ、くるりと一回転する。


 その魔術服は制服の青いものとは違い、落ち着いた黒色。

 それに赤色が織り交ぜれれ、明るい色合いをはっきりと目立たせている。

 カレンにとても似合っているし、すごく可愛いとは思う。

 だが……眠い。


「お兄様、起きてますか?」

「……ん? あぁ、ごめんごめん」


 昨日は宮殿の図書館に忍び込んで、寝る時間が遅くなった。

 そのせいで本当に……眠い。


「昨日寝付けなくてね、はは」

「心配ですよ、やっぱり同じ部屋の方が……」

「大丈夫、大丈夫!」

「冗談ですよ、ふふ」


 ははは、あんまり冗談に聞こえないや。


「……おい、オリヴィア。どこに行くんじゃ?」


 カレンと話していたら、横からグルミニアの声が聞こえてきた。


 そちらを見てみれば、オリヴィアが何かを追いかけるように、店から出て行っていた。

 ……どうしたんだろうか?


「オリヴィア、まっ……」


 追いかけようとしたグルミニアだが、オリヴィアはすぐに人混みにまぎれてしまった。

 だから、見失ってしまったようだ。


「グルミニア、オリヴィアは?」

「わからぬ。変な男に話かけられて、そのまま行ってしまったのじゃ」

「どんな服の奴だったんだ?」


 俺はそうグルミニアに聞いた。

 もしかしたら、もしかしたらだけど……。

 一つの可能性はある。


「宮廷魔術師の魔術服を着ておった」

「そうか……」


 ……何か嫌な予感がして来たな。


「とりあえずアベル、カレンとアマネを頼んだぞ」


 グルミニアはそう言って俺に背を向けた。

 俺もついていこうかとも思ったが、俺の後ろには、何も分かっていないカレンと、眠たそうにふらふらしているアマネ。

 ……二人を置いてはいけないな。


「……わかった、気をつけろよ」


 俺は人混みに消えていくグルミニアの背中をそっと見送った。


 ◇◇◇


「なかなか帰って来ませんね……」


 ベッドの上で物憂げに座っているカレンが呟く。


「……確かに」


 アマネは本を読みながらそう答えた。


 二人が言うように、本当にオリヴィアとグルミニアの帰りは遅い。

 結局全然帰ってこないから、俺達は一度宿に帰って、二人の帰りを待っている。


「結構心配になってきますね……」


 カレンは立ち上がり、ゆっくりとカーテンを開く。

 それによって窓から入ってくる光は既に暗い。

 もう夕方のようだ。


 最初はグルミニアがオリヴィアを連れて帰ってくる事を期待していた。

 だが、こんな時間になってしまっては、それも怪しくなってくるな。

 なら……


「……探しに行くべきだな」

「お兄様、それなら私も!」


 カレンは同行を申し出てくれる。


 ……だが連れていくべきだろうか?

 もし、危ない事があったらカレンを守り切れるだろうか?

 そんな"もしも"の事を考えれば、


「カレン、危ないし俺一人で行くよ」

「そんな! お兄様、私も連れて行ってください」


 カレンは一気に俺の元へと詰め寄って来た。

 俺との身体が触れ合うほどの距離──

 そんな近くまで来るなんて、どうしてカレンはそこまで必死なんだ。


「……アベル。……連れていって、あげるべき」


 アマネは本から目を逸らさず、そう口を挟んだ。


「でも、危険だし……」

「……カレンの気持ち、考えた事……ある?」


 あるさ。

 もちろんあるけど、危ない事には巻き込みたくない……!

 だから一人で行くべきなんだ……っ。


「……お兄様、私はもう取り残されたくないのです」


 アマネに向き合う俺の袖を、カレンが引く。


「1年前も、この間も、お兄様は私に何も言ってくれませんでした……それで、どれだけ心配した事か、お兄様は分かりますか!?」

「そ、それは、カレンの安全を想って……」


「もう心配して待つだけなんて、嫌なんです!!」


 カレンの叫びが俺の胸を貫いた。


 カレンは俺の事を一番に思ってくれているのだろう。

 だからいつも俺を助けてくれるし、俺に尽くしてくれる。


 そんなカレンは、俺にとって一番大切な存在だ。

 だから危険な目に合わせたくない。


 でも、もし俺達の立場が逆だったら……?

 俺もカレンと同じ事をしていただろう。

 そしてカレンも俺と同じ事をしていただろう。


 そう考えれば……俺も考えなしだな。

 カレンの事を思っての行動が、逆にカレンの心を締め付けてたなんて。


 袖を引くカレンの力は強い。

 振りほどく事は、今の俺の力では出来ないな。

 なら──


「カレン、今まで気づけなくて……ごめん!」


 俺は頭を下げた。

 そして、


「……今さらで悪いかもしれないが、こんな俺に付いて来てくれるか?」

「……もちろんですよ」


 そう微笑むカレンの表情は、今までで一番綺麗だったかもしれない。

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