第96話 情報収集
「さて、どうするか」
俺とアマネが忍び込もうとしている宮殿の入り口には、こんな夜中だというのに2人の衛兵が立っている。
倒すのは簡単だが「殺さずに気付かれないようにする」となればそう上手くはいかないだろう。
「……上、から行こ」
「上? そこからどうやって入るんだ?」
「……破壊」
「そんな事したらバレ……」
そうだった。
アマネはミスリルを作ることが出来るくらいの魔術師だ。
宮殿の素材が石なのか大理石なのかは分からないが、アマネなら問題ないだろう。
「分かった。ならそれで行こう」
俺とアマネは入り口を避けて、その近くの壁へと向かった。
普通ならこんな垂直の壁、どうする事も出来ないかもしれないが、
「『成長』」
俺は足元の草を長く、そして頑丈に成長させ、その先を宮殿の屋上まで伸ばした。
「アマネ、おんぶ」
俺はそのまま腰を下ろして、アマネに背中を見せる。
「……うん」
そしてアマネは俺の背中に乗った。
アマネ一人でも登れるだろうけど、こっちの方が早いし、安全だ。
「っと」
そして、俺はアマネをおんぶして、その草を登り始めた。
あまり気にしない方が良いとは思うが、背中の感触が……固い。
アマネはやせてるし、今俺達は密着しているから仕方ないのかもしれない。
しかし……それにしても、固い。
最近はカレンの良く育った身体に抱き着かれているから、余計アマネの固さが気になる。
……本人には絶対黙っておくけど。
「……よし、着いたよアマネ」
そして宮殿の屋上へと登り切った俺は、アマネを背中から下ろした。
「……いつでも」
「わかった。『魔剣』」
俺は漆黒の剣を右手に形成する。
そして、その漆黒の剣で円状に斬り、宮殿の屋上に大きな穴を開けた。
「……さすが」
「はは、ありがとね。じゃあ頼むよ」
俺はアマネを連れて下の階へと侵入した。
その後アマネを肩車して、落ちた屋上のパーツを渡した。
「……任せて」
アマネをそれを穴の開いた屋上にくっ付け、謎の光を出しながら屋上を修復していく。
そして、その作業が終わった頃、屋上は傷一つないきれいな姿になっていた。
「こっちの方が流石、じゃないか?」
そんな事をつぶやきながらも、宮殿に侵入した俺達はとある場所へと向かい始めた。
運が良い事に、その道中で衛兵や魔術師とすれ違う事は無く、目的地へとたどりつくことが出来た。
「着いたな」
「……うん。……図書館」
そう、俺は図書館に来ていた。
理由は簡単だ。
図書館なら魔術師達の記録がたくさん残っているだろうし、宮殿の魔術師達に聞くよりも早い。
昔、宮殿に来た事あるから、なんとなく図書館の位置も分かったしな。
俺はそーっと扉を開き、中を確認した。
何万冊という本が並べられた本棚、圧倒的なその部屋の広さ。
流石、宮殿の図書館だ。
しかし、人は誰もいない。
すごく助かるな。
「さ、アマネ。オリヴィアについての記述がある物を探そう」
「……おっけー」
図書館の中に入った俺達は、二手に分かれて本を探し始めた。
◇◇◇
「これとかか?」
本を探す図書館の中、俺は一冊の本が目に入った。
タイトルは『宮廷魔術師』。
おそらくこの宮殿の魔術師に関した本だろう。
俺はそのページをめくってみた。
中身は宮殿の魔術師達の歴史についてだった。
最初はどうという事も無かった内容だったが、とあるところで俺の動きは止まってしまった。
それは200年前の記述だった。
それまで宮殿の魔術師は魔術を高めあう賢者達だったのだが、この頃から魔族狩りの専門機関になったようだ。
……新魔王の後だろうな。
その後のページもぺらぺらとめくってみるけど、最近に至るまでちらほらと魔族との戦いの記録が残されている。
やはり魔族は絶滅していないのだな。
イスカリオーテもそうだが、地下でひっそりと生き延びているのだろう。
本を見て、嬉しいのか嬉しくないのか、自分でもよくわからない感情になった。
しかし、結局この本にはオリヴィアについての記述は無く、そっと本棚にしまった。
「ふぅ……アマネ、そっちはあった?」
俺はアマネの方を見た。
「……これ」
アマネは古い本を片手にこちらに近づいてきた。
そして、そのままとあるページを開き、俺に見せてきた。
内容はおそらく、主な魔術師達の家系図。
かなり古い人物名から、最近の人物までの名簿が書かれてあった。
そして、その名簿の最後のページ。
そこにはオーデという名と"オリヴィア"と言う名が刻まれていた。
「あったな……」
「……うん」
さらにオリヴィアの家系をさかのぼれば、とある人物にたどり着いた。
「……ロッキンジー、か」
「……」
200年前の宮殿の魔術師達のトップだった人物。
俺とアマネの最も嫌いな人物だろう。
アマネに関しては露骨に嫌そうな表情だ。
先祖がどのような人でもオリヴィアに関係がないのは分かるが、これは仕方ない反応だ。
「アマネ、大丈夫か?」
「……うん。……少し、イラっと、した」
「オリヴィアはロッキンジーには……」
「……うん。……わかってる、関係ない」
今俺達がいるのは敵陣の中だ、これ以上はやめておこう。
そして、俺達がその本をしまった瞬間、
ガラガラッ!!
と図書館の扉が開かれた。
「……ッ!」
俺はとっさにアマネを抱え、入り口から見えないように本棚に隠れた。
「あ~巡回もだるいな~」
「大事な事だからしっかりしろよ」
隙間から見てみたら、中に入って来たのは二人の魔術師。
おそらく深夜の巡回だろう。
「いないだろー」
「まぁまぁ、いるかもしれないだろ」
「確かにオリヴィア様派閥の人ならありえるな、へへ」
巡回の魔術師の一人はそんな事をいって軽く笑う。
オリヴィア派閥……?
何なんだそれは。
この前のオーデが宮廷長だのなんだのがあったけど、その関係かな?
「おい、気をつけろ、オリヴィア様派閥の人がいたら怒られるぞ」
「おーこわいこわい」
「お前、いつかへまをやらかすぞ」
「オーデ様がなんとかしてくれますよ、へへ」
そんな事を話しつつ、二人の魔術師は図書館から去って行った。
「……ふー。緊張したー」
「……ドキドキ」
「じゃあ、そろそろとんずらしとくか」
俺は本棚の陰から出た瞬間。
「おおっと」
俺の指先が触れ、ドサッと一冊の本が本棚から落ちた。
その本は落ちる際に中が開かれ、とあるページの内容が目に入る。
――――――――――
私は会食の場で一目惚れをしてしまった。
相手は精緻に作られた人形のように端正な顔に、透き通るような美しい金の髪をした無口な少女。
後でロッキンジー様から伺った所、彼女はどうやら旧魔王の家系であるホーエンドルフ家の者のようだ。
しかし彼女は聖杖の勇者、そしてグリーンウッドのドルイドから、"アマネ"と呼ばれていた。
ホーエンドルフ家では有り得ない名付け方だ。
アマネという名は偽名だろう。
でも本名は私も知らない。
会食後に忽然と消えた彼女の本名が知りたい。
私は彼女の名が知りたい。
彼女の名が知りたい。
――――――――――
「……完全にアマネの事だな。モテてるぞ」
「……燃やす?」
アマネは小さな炎を出現させる。
「待て待て待て! 流石に本を燃やしたら後でバレる!」
「……仕方ない。……早く、帰ろ」
「……だな、もう俺も眠いし」
様々な情報を手に入れた俺達は、バレないように再度屋上へと向かい、ひっそりと宮殿から脱出した。




