クラス1の美女から告白されたけど僕は罪悪感で死にそうです
「す、好きです!付き合って下さい!」
目の前の彼女が頭を下げ、一陣の風が吹き、一拍置いてからやっと状況が理解できた。
「す、好き?ぼ、僕のことが?」
「はい!」
僕は確かにブサイクというわけじゃ無いけど勉強も顔面偏差値も常に真ん中あたりだ。対して僕に告白してくれた彼女、渡辺 優香さんはクラス1……それこそ街中で見ればアイドルかと見間違えるほどの美女。しかも学年一位の頭の良さ。
釣り合うはずが無い。しかも僕、彼女とは小中高一緒の学校だが一回も喋ったことが無い。
普段恋愛系の小説を読んでいる僕は何かあるのではと思うが、彼女の真摯な目はそうは思わせない。
な、なんでだ?いや、本当に僕のことが好きなのか?
「え、ええと……いつ!いつから?こういうのもあれだけど僕達話した事無いよね?」
「その……小学校の卒業式の時から……です」
小学校?え?わ、わからない。なにが分からないって小学校の頃はこの子はあんまり目立っていなかった。同じ小学校だって知った時はこっちがびっくりしたくらいだ。
「ええと、ごめんよく覚えていないんだけど……よければ。よければでいいから具体的に教えてくれると嬉しいかな」
「クッキー、です」
「クッキー?」
あ、今記憶の扉が開きそうな気がする。
「小学校の卒業式の時、クッキーが渡されたじゃ無いですか。けどその時実は人数分足りなくて……私は渡されなかったんですけど、言い出せなくて困っていたらなにも言わずにクッキー渡してくれて……」
あ。
あああああああああああ!!!!
おも、思い出したああああ!!!
そうだ。あれは小学校の卒業式。
お別れ会をやった後に袋詰めされたクッキーを先生が生徒に渡す。
そんなハッピーで終わる筈だったお別れ会。
しかし俺は一回トイレに行って戻る最中に空き教室に袋詰めされたクッキーを見つけてしまった。魔がさした俺はそれを一つ開けてクッキーを一口だけ食べようとして……結果全部食った。
焦った俺は袋をポケットに詰めて教室に戻って……最後にクッキーを渡す時に俺に来るなと願ったけど来ちゃって、やばいって思ってクッキー持ってなさそうな地味な子を見つけて押し付けたんだった!
つまり、この子はマッチポンプ紛いの事を美談として受け止めちゃった?
こ、これどうする?付き合ったら俺最低な男だぞ?けど真実を伝えても傷付けるだろうし、断るしか無いか?
「あー、えっと……」
「だめ……ですか?」
上目遣い!! ??
「……よ……よろしくお願いします」
「ありがとうございます!」
やってしまった……
目の前では太陽みたいに輝く笑顔を見せる彼女。
対する俺は罪悪感で心が死にそう。
……長く持ちそうに無い。こうなったら俺のダメなとこを見せて彼女から別れの言葉を言ってもらうしか……いやいや!ダメだろうそれは!俺が引き起こした事だぞ!俺が本当の事を話すんだ。彼女がより傷つく前に!
「えっと、渡辺さん」
「優香って言ってください」
ガハァ!!
や、やめてくれ!そのピュアハートを僕にぶつけないでくれ!
「えええと……じ、実は……」
「一緒に帰りましょう?」
「はい!」
僕は即答した。こんなに可愛いこと付き合えるんだしいいじゃん!僕も彼女もみんなハッピーだよ!
帰宅中
あああああああああああ!!!!心が!バキバキいってる!一緒に歩くだけで冷や汗かくし!一歩一歩ゲボ吐きそう!
つ、付き合うってこんなに大変だったんだな。
誰がハッピーだこの野郎!
そして優香さんはなんでチラチラこっちを見てくるの!頑張って歩幅合わせてるから歩きやすいよね?まさか本当はクッキーの事を知っていて、その事を言わない僕をあざ笑っているの?!
「ゆ、優香さん?どうしたの?」
「ええと……手……手を繋いでもいいですか?」
手ええええええええええええええ!!!!!
手?手?手ってあの手の?人間に二つ付いてるやつ?いやちょ、ちょっと待って?今僕の手めっちゃ汗だくだよ?手汗が半端ないよ?
「ダメ……ですか?」
「い、いやその、ちょっと緊張しちゃって手汗が……」
「気にしません!」
僕が気にするんだよおおおおおおおお!!!!す、全ては僕がいけないんだ。あの時クッキーを食べるから……すぅ……はぁ……
「じゃ、じゃあ」
手を出すと、優香さんに繋がれる。
手柔らか!!えちょ、手ぇ!!
や、やばい。ドキドキで死にそうだ!
勿論嬉しさも入ってるけどね!
「えへへ、嬉しいです。本当に、夢みたい」
「うん。僕も夢みたいだよ」
むしろ夢であってほしい。
そうして少し時間が経って商店街に差し掛かってくると、不意に泣き声が聞こえた。
「泣き声?」
「ちょっと僕行ってくるよ!」
手を解いて泣き声の方へ行くと、そこには膝を赤くして座りながら泣いてる子がいた。
「大丈夫?転んだの?」
「うん……」
僕が近付くと少し安心したのか泣き声も治った。
「君は?お母さんはいる?」
「りゅ、隆二。おがあさんは、買い物してるから待ってなさいって」
「そっか。じゃあお母さんが来るまで僕と遊ぶ?その傷も処置しなきゃね」
「しょち?」
「痛いの痛いの飛んでけーってするんだよ。じゃあ先ずは水で流そうね」
幸いにも絆創膏は持ち歩くタイプなので水で洗ってハンカチで拭いてから絆創膏を貼った。その時にはもう泣き止んでいたし、お母さんも来ていた。
「じゃあねー」
「うん!またね」
……ふう。
なんだかな。子供が泣いてると心配しちゃうんだよな。
「それにしても優香さんには悪いことしたな」
「私がどうかしましたか?」
「いやあ、子供の方優先しちゃって悪いなと思って……え?」
振り返るとそこには何か袋を持った優香さんがいた。
「大丈夫ですよ。それよりも、これ。クッキーです。とっても美味しい所のものなんですよ」
「へえ、そうなんだ」
「えへへ、クッキーは私にとって思い出のものですから!」
……そう、だよな。優香さんからしてみればクッキーは僕……運命の相手と結びあわせてくれたみたいなもんだろうから。
けど、本当にそれでいいのか?彼女に本当の事を話さなくていいのか?
……前を向くんだ。これでぶん殴られても文句は言えないし言うつもりもない。僕は、彼女の夢を壊すんだ。
でも。彼女にはもっと、僕なんかよりもいい相手がいるから……
「ごめん、優香さん。僕は、君と付き合う事は出来ない」
「……え?な、何か気に触るような事をしましたか?ごめんなさい!」
「違うんだ。僕は……あのクッキーは本当は——」
僕は本当の事を話した。自分がクッキーを食べたんだと、ただ罪悪感から君にクッキーを渡したんだと……
「——という事なんだ。僕は、君が思っているような人間じゃない。だから、僕は君と付き合えない」
殴られるだろうか、罵倒されるだろうか、でも。どんな事になっても僕はそれを受け入れる。
「……そんな事ですか」
「え?」
「たしかに、ちょっと驚きました。でも、確かにクッキーが原因であなたの事を好きになりましたが、それはきっかけです。それからあなたの事を目で追うようになって、かっこよさや優しさに気がついたんです。私が好きなのは、クッキーをくれた貴方じゃなくて、今の貴方です。だからもう一度言います。好きです。付き合って下さい 天野 清春君」
「……はい」
重荷が取れた感じがした。
打たれる覚悟だったのに、まさかまた付き合って下さいって告白してもらえるとは思ってなかった。
「清春って呼んでくれると嬉しい」
「はい!清春君!」
嬉しさがこみ上げてきて顔が真っ赤になってくる。
は、話をそらそう。
「そうだ。優しいとかカッコいいって?僕自分で言うのも何だけどかっこよくないし優しくもないよ?」
「そんな事ありません!毎日クラスの花に水をあげたりするのはすごくかっこよかったし!」
うん?
「先輩にパンをご馳走したり、いつも先生の手伝いをしてるし、わからないところがあったら友達にすぐ教えているし!」
あっあ。
「他にも——」
や、やめて!それ全部僕が自分でやった事じゃないから!ちょ、ちょっと待って!それ以上は罪悪感で僕が死ぬぅ!!
書きたくなったんだ……恋愛もの。
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