歯車は回り出す ――優斗の場合
凛子が起きた後安心して気が抜けた俺は、2時間ほど意識を失っていたらしい。気がついた時には病室内の人が増えていて、凛子がペラペラ喋っていた。この光景だけでもう涙が出そうだ。俺の証言の当てにならなさが露見したとかで刑事達の視線が冷たいが、そんなことは気にもならない。
凛子の証言で発覚した、見逃された重要証拠…つまり現場に落ちていた手紙を取りに家に戻ったのはよかったが、錯乱していた俺がどこにしまったものやら見当がつかない。ステータス表示は気絶中にまた切り替わったらしく、今は物を見ると軽いアイテム説明が出るモードになっているんだが、まあこれも記憶を辿る役には立たない。考えろ、あの日俺は何をしていた?
真っ赤なバイクが走り去るのを見た後、凛子と手紙を見つけた。雨で体温が奪われるのを止めようとしているうちに駆けつけてきたジョナサンが119番通報して救急車を呼んだ。救急車に同乗して状況を俺が説明している間にジョナサンの携帯で凛子の親に連絡。凛子の両親と入れ替わりで病院から出て公園に戻り、凛子の持ち物を回収…そう、手紙を拾ったのはこの時だ。ポケットに入れたせいで出し忘れた手紙に気づいたのは、ベッドに投げ出していたコートの上に倒れ込んだ時だったはず。なんの音かと引っ張り出して封を開け、真っ赤な便箋に書かれた俺の名を見て自責の念に囚われ…そのあと片付けた覚えは、ない。
もしやと思って覗き込んだベッドの下に、案の定それはあった。血と泥と雨で奇妙なマーブル模様になった封筒は、手に取ると「鋭利で手を切りやすい紙でできている」と補足情報を浮かばせた。ひしゃげた縁には意味ありげな虫眼鏡マークが浮かんでいる。落ちた時に滑り出たと思われる便箋の色は…クリーム色? おかしい、俺の記憶と違う。頭を捻って思い出したのは、当日なぜ俺が凛子を見つけた経緯だった。そういえば視界が真っ赤になったから凛子の危機に気づいたんだった。その後もずっと視界は赤かった。なぜ忘れていたんだろう。俺はなんて証言した? 間違った情報で操作を混乱させたんじゃないか? 病院に戻る間中気が気でなかったが、色が違ったという俺の意味不明な供述はなぜかすんなり受け入れられた。1人全てを分かったような表情のジョナサンがとても腹立たしい。後で状況を説明させなければなるまい。




