休んでるような暇はない ーー優斗の場合
俺に誰にも言ったことのない秘密があったのは、今となっては過去のこと。狂ったように送りつけられてくるゲームの画面写真と説明で頭がクラクラしてきたので、しばし回想にふけるくらいは許されるだろう。
家にある動かせるありとあらゆるものの重さを当てさせられることも覚悟していたが、ジョナサンは呆気ないくらいにすんなり俺の能力を信じた。いわく、「ワタシだってワタシの重さをkgで知らないですから、人に教わるはできないですから」だそうで、ヤードポンド法に感謝だ。とはいえ、ゲームやら小説やらでその類の話に親しみがあったという土壌による部分も大きいに違いない。ゲームも小説も全く知らない俺とは正反対だ。その点については、ステータスの話をした時にジョナサンからひどく不思議がられた。
「ステータス見えるのに、意味を知ろうとしないでしたか?」
その答えは、No…そう、英語式のNo、つまり自ら進んで知らないことを貫いたということになる。なぜかって? レパートリーを増やさないためが半分、知りたくないことが読めるようになってしまわないためが半分といったところか。
ステータス表示には、意味もわからないのに表示されるパターンもあるが、知識を得たことで新たに表示されるようになったものや、より情報密度の上がったものというのが結構ある。例えば、サーモグラフィー式の温度表示は知った翌日から出るようになったし、凛子のキウイアレルギーを知って以降はアレルギー表示の項目にキウイが増えた。この辺りはまあ毒にも薬にもならない変化だからいいんだが、知るはずのないことを知ってしまうというのはリスクになりうる。脱出ゲームをプレイして以来施錠状態が触れずに分かるモードが増えてしまった身としては、迂闊な情報を入れるわけにはいけないとシャットダウンしてきた次第だ。
「とはいえ、だ。これが凛子の治療か犯人探しに役立つなら、四の五の言…文句をつけ…あー、そうだな…後がどうなっても問題ない、だ。」
ジョナサンに伝わるように言葉を選びつつ、俺はきっぱりと言い切った。恍惚とした表情でこちらを見てくるジョナサンの視線が少し痛い。無論、逃げる気はない、逃げる気はないが、万が一の場合の話として、もしこれがきっかけで追われる身になっても、精度の上がった能力で何とかなりそうな気がするという点については伏せておこう。
「で、今まで避けてきた関係で、俺には俺に見えているものに関する情報が圧倒的に足りない。協力してもらえないか?」
俺の台詞が終わるよりも先に、ジョナサンは力強く頷いた。続いて、カバンから筆記用具を取り出し、わかっていることを全て話せと要求。なんと頼りになることか。ステータス表示の形式は自分でコントロールできないこと、2時間前後の睡眠によるリセットのこと、今までに見えたことのある表示のこと。俺は自分の能力について、知っていることの全てを話した。さすがというかなんというか、ジョナサンは矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。どれもこれも能力の制限や限界を把握するためには知っておくべきことばかりだ。
「ユートのスーパーパワーはつかえますが、ユートは使えないですね。」
ひとしきりの質問に全て「わからない」「考えたこともなかった」と返答したあと、奴はそう宣った。ああ、返す言葉もないよ。
で、差し当たり課されたのが、面会時間中での2時間超えの昼寝と、起床時に見えるステータス表示形式の模写。それと並行して、今までに見えたことのあるステータス表示も記憶を頼りになるべく書き出しせとのお達しだった。情報収集とその共有ってことだな。その間、ジョナサンはひたすら病状回復や犯人探しに使えるステータス表示がありそうなゲームをやりまくる。
こっちはいたって真剣なんだが、側から見れば意味不明だろう。胡散臭げな視線は甘んじて受ける、だからどうか、何か有意義な手がかりを。しょぼつく目を目薬で誤魔化し、俺はまたモニターに向かった。




