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誰にも言えない二つの秘密  作者: 海橋小楢
誰にもいえない二つの秘密:高校編
31/43

口にしないと進まない ――凛子の場合

 あーあ、暇だな。決定権を持たずに暮らす日々は、とてつもなく退屈だった。

お医者さん達に頭を抱えさせているこの症状の正体を、私は知っている。精神的な原因で声が出なくなることがあるっていうアレ、たしか失声症ってやつだ。本で読んだことがある。ただこの場合に厄介なのが私の体質なんだよなぁ。ここ数日浮かびっぱなしの四択を眺めながら思う。


赤:電車が遅れちゃって…

青:ごめん、待った?

黄:なんでもういるの、早くない?

緑:お待たせっ!


何がおかしいって、まず病み上がり一番の発言の選択肢じゃないんだよね。なんなんだ電車って。シチュエーションに合わない選択肢しかないなんていうのは人生初だ。選択肢がおかしいはストーリーも進まないわで、買い切りゲームなら返金案件、ソシャゲなら詫び石案件とでもいうか。私の人生の場合、どこにバグ報告すればいいのかもわかんないんだけどさ。


四択が出た場合には選ぶまで他の行動ができない。四択を選ぶためには声を発する必要があるのに、今は声が出ない。というわけで、完全に詰んでしまった。差し出された物を受け取るとか、言われた通りに指示に従うとか、普段からやってることを繰り返す(着替えとか食事とかお手洗いとか)のはできるんだけど、それ以外はダメ。今まで声が出なくなることなんかなかったから知らなかったし、できれば一生知りたくなかった。まあ、ゲームとかだと選択肢選ぶまで時が進んでなさそうだし、それに比べれば多少まし……なのかな。


 さて、暇なので最近の私の日常をご紹介しよう。まず、朝の7時に起床。すごいよ、寝坊することもなく、毎日ピッタリ7時に目が覚めるの。服を着替えて(ここは入院用の服とかないみたい)からは、8時に朝食が来るまで椅子に座ってぼーっとする。何もできないんだもん、仕方ないじゃん。朝食が終わったら、スタッフさんが渡してくれたものを最初から最後まで読む。渡されるのは、教科書だったり小説だったり優斗が置いていったノートだったり。あれだね、授業を受けずにノートだけ読んでもよくわからなくて、復帰しても授業に追いつける気が全くしない。読み終わっても次の一冊に切り替えることはできないから、読み終わってるのにスタッフさんが気づくまではそのままぼーっとする。お昼を食べてからも似たような感じ。放課後になるとジョナサンと優斗がやってきて、夕飯時までずっといる。そのあとは、夕飯食べてお風呂に入って9時半に就寝。延々その繰り返しで、嫌になっちゃう。


 ああそうそう、よくわからないのが優斗とジョナサンの行動。ずっといるけど優斗のバイトはどうなってるのか…とか、そんなのどうでも良くなるぐらいには変なんだよね。今日の分のノートのコピーをくれたり会ったことを話してくれたりするのはいいんだけど、そのあと優斗は何故か寝る。入院中の女の子の部屋で昼寝をするという神経が理解できないし、それを放置するこの病院も病院だ。一方のジョナサンはといえば、時々写真を撮りながら延々ゲームしてるし。見ていても退屈しないようにとかそういう感じでもなく、ただただ爆速でクリアを目指してる感じ。起きてる時は、優斗も一緒になってゲームの画面を眺めているし、何がなんやら。優斗はずっとゲームになんて興味なかったし、どういう心境の変化があったのかもさっぱり。

 

 あー、質問したい、でも喋れない。もどかしいな。

ちなみに凛子が失声症を知ったのはこの短編からです→https://ncode.syosetu.com/n7355ga/

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