病室にて――優斗の場合
「ユート! リンコ、起きてるそうです! 会いに行きましょう!」
病院の待合室で腕を組んでいた俺に駆け寄ってきたのは、目に涙を浮かべたジョナサンだ。万が一のことがあった場合を考えると俺にはとても容態を直接確認することなんてできなかったので、先に大まかな状況だけ確認に行かせていたんだ。
「ほんとか!」
返事も待たずに俺の手を引いて走り出すジョナサンに、安堵で力の入らない足を酷使して必死でついていく。
病室に入った俺達を見て、凛子はすぐに嬉しそうな顔をした。直後、時計にちらりと目をやって表情を曇らせる。あー、まあ、学校サボって見舞いに来ているからな。そういう反応もうなずける。別にけなされようが怒られようが構わない、一声聞ければそれだけで安心できるんだ。だが、何も発言はない。おかしいな、いつもなら絶対なにか言ってくるのに。
「優斗くんが来ても何も話さないなんて…。」
凛子の母親の表情も晴れない。凛子の父親に問い詰められている医師の表情からも、何が何だか分からないといった困惑が見て取れる。
「非常にお伝えするのが難しいのですが……。」
困り果てた表情の医師は、それでもなんとか言葉を紡ぎだした。
「娘さんの傷はそれなりに深くはありましたが、通報が早かったのと刺さった角度の関係でダメージは少なく、後遺症もありません。倒れた際に頭を打った形跡はありましたが、検査した限りでは大きな問題もなさそうです。ご覧の通り意識はありますし、視覚も聴覚もはっきりしたご様子です。検査のためのこちらの指示にも、発声以外はすべて応えてくださいました。ただ、自発的な行動やyes/noを超えた自己決定となると全く見られません。このような前例は他になく、もっと詳しい調査をしないと何もはっきりしたことを言えないというのが現状です。」
内容を理解できていないジョナサンを除き、皆どんなリアクションをとっていいのかわからないようだった。怪我は大事なく、意識もしっかりしているのは喜ばしい。その一方で、原因不明の症状が出ていて、意思の疎通は測れないし回復の目処も立たない。医師を責めても仕方がないのはみんな理解しているから、このやるせなさをどこにもぶつけられず、ただただ途方に暮れるばかりだ。その場に居続けるのがしんどくて、「ジョナサンにさっきの内容を説明してくる」と言い訳をして、俺は逃げるように病室を出た。




