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誰にも言えない二つの秘密  作者: 海橋小楢
誰にもいえない二つの秘密:高校編
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衝動的に飛び出して ーー凛子の場合

涙っていうのは厄介なもので、止んで欲しい時に限ってとめどなく溢れてくる。その気持ちが伝播したのか、ついには雨まで降り出した。昇降口を出たときはまだ降ってなかったのに。カバンも学校に置いてきちゃったから、傘も財布も持ってないのに。はは、泣きっ面に雨だって感じ?笑えない。


雨で頭が冷えたのか、家に着く頃には多少ものを考えられるようになっていた。今の感情を比率にすれば、嬉しさ1、後悔4、悲しさ5ってところ。嬉しいのは、どうやら両思いだったらしいとわかったから。後悔は、今の行動のせいでそれが終わってしまいそうだから。悲しいのは、うーん…? こういう言葉にならない想いをぶつけたい時、チャットツールを全く使いやがらないローテク野郎に気持ちを伝えるのは難しい。口頭だと四択に邪魔されるしね。無意識のうちに便箋を引っ張り出して文字にするのは、長年のうちに染み付いてしまった習慣だ。現代社会に生きるのには向いてない。この責任はぜひとも優斗にとってもらいたかったのに、このままだとそれは無理かもしれない。うっ、また涙が出てきた、手紙の端で手を切ったせいだ、そういうことにしとこう。この便箋セット、切れ味がすごく良くて困る。

ところで、幼馴染みとしての優斗との付き合いは長い。どれくらい長いかっていうと、小学生の時にハンムラビ法典を知って以来、いいことも悪いことも全て同量返すのを心掛けているのも知ってるくらいだ。ついでに言うと、お花畑な感性しかもってないせいで、実質人に親切にしてるだけなのもよく知っている。そんな優斗マイスターの私が断言しよう、タダで貰ったと嘘をついて人を遊びに誘うっていうのは、「自分の楽しみに付き合ってもらう以上、その対価は自分が払って当然」って発想によるものだ。

優斗の奴は、自分の誘いなら、どんな条件でも私がホイホイついて行くと思ってたの? そんなわけないのに。私は、相手が幼馴染だろうが好きなやつだろうが、文句があれば言うし断るときは断るのに。誘ってもらうたびにどれだけ嬉しいか、一緒に遊んでいる時にどれだけ楽しいか、あいつには全然伝わってなかった。なんやかんやで自惚れてたんだ、ずっと一緒にいたんだから、さすがにわかってくれてるだろうって。そんなことなかった。全然相手のことなんてわかってなかったんだ、私も、優斗も。そのことが、今はたまらなく悲しかった。


そんなことを書きなぐった手紙を封筒に入れた時、私は気づいた。この長ったらしく支離滅裂な手紙を投函しに行ったとして、そこで本人に会ってみろ。気まずいにもほどがあるぞ。しかもカバンを学校においてきてるから、家にいたって多分あいつは会いに来る。どうしよう。


赤:仕方ない、優斗の家に行くか。

青:……この手紙は出せないな、うん。

黄:郵便で出すかな、あいつに絶対会いたくないし。

緑:よし、ジョナサンに愚痴を聞いてもらおう!


独り言を強要されるのも気にくわないけど、考えがまとまらない時には四択は便利だ。赤は論外、この感じだと確実に本人に出くわす。この選択肢が不正解なら、さらに関係性が悪化することになるだろう。それは困る。もし正解だとしても、優斗の気持ちを聞いて仲直りさせられることになる。生憎、私は恋愛ゲームの主人公じゃない。そんな短時間じゃ気持ちの整理をつけられないんだ。もちろんいずれは仲直りしたいよ、でも、今はもう少しこのまま悩んでいたい気がする。よってどっちにせよ赤は却下。

緑は正解の可能性もあるけど、今誰かとまともに話せる自信がないんだよなぁ。それにもし不正解だった場合、優斗に誤解されて関係性が修復不能になるリスクがある。青でもいいけど、それだと殴り書かれた上に使われない手紙に対して申し訳ない。

切手代はかかるけど、郵便を使うってのはアリかもしれない。丁度お金を使いたい気分だしね。

「郵便で出すかな、あいつに絶対会いたくないし。」

玄関を開けた時にお母さんが何か言っていたけど、無視してそのまま玄関を飛び出す。酷いやつ当たりだ、後で謝らなくっちゃ。

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