いつも通りがわからない ーー優斗の場合
俺には二つ、誰にも言ったことがない秘密がある。一つ目は、幼稚園来の幼馴染にもう十年以上恋心を抱き続けていること。もう一つは、俺にはいろんなステータスが見えるということだ。ステータスが見えるとはいえ、所詮感覚器官の延長のような物でしかないわけで、役立てられる知識やスキルがなければただただ視界の邪魔なだけだ。現に今、戦力外通告を受けて一人作戦会議を追い出されている。なんとも切ない。
さて、いつも通りにしろとは言われたものの、出来ることは限られている。普段していることなんて、授業・勉強・バイト・凜子と遊びに行くのヘビーローテーションだ。バイトのシフトはそんな急には変えられないし、勉強にも身が入りそうにない。言わずもがな凛子はジョナサンと作戦会議中である。仕方がない、次に遊びに行くための算段でもつけておくとしよう。
考えてみれば、ジョナサンの転校以来、バタバタしていてどこにも遊びに行けていない。俺としては二人きりで行きたいのところだが、今の感じだとジョナサンを誘わないのは不自然か? 分からん。まあ、ジョナサンに事前に一言言っておけば、適当に理由をつけて断って貰えば問題ない。協力すると言っていた以上、それくらいはやってくれるだろう。とすると、何かしらジョナサンにも礼をした方がいいわけで、その場合あいつは何を喜ぶんだ? 日本っぽい物でもあてがえば良さそうな気はするんだが、なまじ学校が典型的和風建築なもので無駄にハードルが高い。回転寿司とか面白がるだろうか。
まあ、いくら悩んだところでないものは買えない。どうせ暇なので、俺はふらふらと近所の金券ショップに足を運ぶ。「貰った」と言い張るためには、こういうところで招待券やら優待券やらを入手するのが一番説得力がある。いい加減言い訳をやめて普通に買うべきだというのは、行き先の選択肢の少なさからも思っちゃいるんだが…なかなか踏ん切りはつかないままだ。
「おっ、いつもの兄ちゃん。遊園地の招待券を入荷してるよ! 有効期間開始がちょっと先なんだけど、どうだい?」
店先につくなり、いつもの店員がこちらを見つけて声をかけてきた。通い続けること数年、しかもバイトが解禁されて以降はほぼ毎週顔を出しているんだから、すっかり常連である。貰ったと言い張れる範囲でデートっぽいところに行けるものが欲しいというこちらの要望はとうの昔に伝わっているので、場合によっては「今日は売るもんがねぇ、帰んな」とものの五秒で用がすむことさえあるくらいだ。
「じゃあ、それ下さい。」
「はいよ。」
値段や支払い方法の確認などすっ飛ばし、IC乗車券を使った支払いはサクサク進む。俺には招待券上部に値段が見えているからだが、向こうは俺の予算や支払い方法なんかを覚えている訳で、頭の下がる思いだ。そんな事を考えている間に、俺の手元には購入した招待券が封筒に入った状態で差し出される。3名までOKの遊園地の招待券、何人でいくことになるかは今後の俺の努力次第だ。
「ありがとうございました。」
「また来いよ兄ちゃん。おっ、いらっしゃい、今日は若い子が多いね!」
店員のそんな声を聞きながら、俺は気もそぞろにその場を後にした。




