to tell or not to tell ーー凛子の場合
あー、これはやってしまったかもしれない。筆箱が4回、水筒が1回、図書館で借りた本が2回、明らかに私以外の人間によって机の上に置かれていたという現状を踏まえるに、ジョナサンとの密談はどうやら犯人にバレたらしい。机の上に戻ってきているのは、本人から聞いたわけじゃないけどまず間違いなく優斗の仕業だ。どうせ私のうっかりだと思っているに違いないけど、おかげで物の紛失では今のところ困ったことがない。美術で使う色鉛筆の芯あらかた折れてたのはかなりタイムロスだったけど、せいぜいその程度。犯人は、どうやら言い逃れできそうな範囲内でしか嫌がらせをしない主義らしい。
密談がバレたかもしれないとは言ったけど、可能性としてはもう一つある。ジョナサンに内緒で、こっそり物の紛失推定時刻とクラスメイトのアリバイをメモしてたんだよね。もちろん見られるようなへまはしていないはずだけど、万一ばれてたら目の敵にされるのも当然というか。優斗ほど鈍くもなければジョナサンのような受け止め方もできないから、精神的にちょっときつい。何人かの仲がいい女の子たち(あ、念のため言っておくけど、この子たちはアリバイがあるからシロね)には「ジョナサンと仲良くしてるとミーハーな子らに恨まれない?大丈夫?」と心配して貰っているんだけど、なまじ物が返ってきてしまうせいで、察知されないし相談もしづらい。優斗とジョナサンは、まあ、相談相手として不適切なので端から考慮に入れてない。馬鹿真面目に報告されるか、嬉々として反撃方法を考えられるのがオチだ。絶対穏便に済まない。
そんな感じでアンニュイな気持ちでこの一週間をやり過ごすつもりだったんだけど、どうもそうは問屋が下ろさないらしい。なぜって? 朝礼の最中、「何か連絡はありませんか?」という担任の言葉の直後に出やがったに四択のせいに決まってるでしょ。ああ、もう、空気読まないんだから。ジョナサンにぶつかった日の件といい、喋る気のないときに出る四択は厄介の元だ。
赤: 先生、話しておきたいことがあります。
青:あーあ…早く終わんないかな。
黄:優斗が何か見せるものがあるって言ってたけど、なんだろ。
緑: はい!何もないです!
赤は却下、だから穏便に済ませたいんだっての。黄色は確かに気になるけど、口に出して誰かに聞かれると何かイベントが発生する可能性が高いから避けたい。緑はアホっぽいし、やっぱり無難に青かな。こういう時に即断即決するのはもはや癖だ。四択を選ばないと自由意志での行動が取れないし、タイミングを逃すと発言内容が浮くからさ。誰もいなくなってから緑を選択でもしてみろ、錯乱したのかと心配されてしまう。
ぼそっと「あーあ…早く終わんないかな。」と呟いた直後、佐藤がスッと手を上げた。なんだ、自首か? 佐藤と愉快な仲間達は、一度もアリバイがないという限りなく黒に近いグレーゾーンで、今回の件の犯人の線が濃い。バラされる前に自分から謝っておくというのは、怒られるのを避ける方法としては有効だ。でも、わざわざこんなクラスメイトの勢揃いした中でするか? それも、自分が疑われているという確証もない状況で。
「どうした佐藤。」
「ローリング君の無くし物や忘れ物が多すぎると思いませんか?」
「確かに多いが…慣れない日本だし、仕方がないんじゃないか。」
「僕はそうは思いません。何者かに虐められているのでは?」
おっ、雲行きが怪しいな。私が勘違いしているんじゃなければ、これは誰かに罪をなすりつけようとしている。でも、佐藤達以外クラスメイトにはアリバイがあるんだよね。仲間割れってこと?
「俺も佐藤に賛成です。見たんです、ローリングの教科書を持った小山内が昇降口にいるところ。」
ふむ、基本的に一緒に行動している人間なら、物を隠すのも簡単だというわけか。持ってたってのも多分事実だろう、毎回優斗が回収しているんだから。突然名前を出された優斗はというと、話が読めずにキョトンとしている。
「そりゃ、まあ、見つけたら回収するだろ。」
「ユートはなくした物を見つけるが上手です。隠してるは違うです…違うます?」
何を当然のことをといった様子の優斗と違い、ジョナサンのセリフは尻すぼみだ。正しい日本語を意識したせいなんだろうけど、佐藤達は別の捉え方をしたらしい。
「心当たりはあるんだな? そうだよな、そんなあちこちに隠された物を毎回見つけてくるなんておかしいもんな!」
あちこちに隠されているなんて誰も言っていないのに、語るに落ちたな佐藤。そんなことを知っているのは、隠した本人か発見者だけだ。隠された物を見つけることについても、できるやつにはできるんだとしか言いようがない。私も何回も見つけてるしね、四択の力を使ってだけど。探し物系に関しては、選択肢さえ出ようもんならその4箇所全部回れば100%見つかるんだもん、ちょろいもんよ。とはいえ、「世の中には物探しに使える類の超能力者がいるんだ」なんてことは口が裂けても言えないので、きちんと論理的なフォローを入れておく。
「ゆ…小山内は美化委員だから、落ちてるものとかに普段から気を配ってます。何かあったら気づくのは当たり前だと思うんですけど。ほら、あいつ馬鹿みたいに真面目だし。」
「まじそれな。」
周りを見れば、クラスの半分くらいが深く頷いている。メダカの水槽が汚れてきたらしれっと洗ってたり、知らない間に入れ替わっていた上靴を指摘したり、上階から落として日除けに引っかかった物を取り外すのに良さげな道具をすぐ持ってきたりと、優斗の観察力に関してはみんなもよく知るところだ。「あいつに隠し事とか陰謀とかぜってー無理だって佐藤。」「そういう類はてんでポンコツだからなアレ。」なんて呆れた顔で声をかけている男子も1人や2人ではない。日頃の行いが物を言っているようで…何よりだよ…。
クラス全体が優斗擁護の空気になったせいで、佐藤達もそれ以上は何も言えず、何かモゴモゴ言いながらすごすごと席についた。まだ続ける気ならさっき掘ってた墓穴を指摘するつもりだったけど、今のところはやめておいてやろう。




