人の意識にゃムラがある ーー優斗の場合
俺には二つ、誰にも言ったことがない秘密がある。一つ目は、幼稚園来の幼馴染にもう十年以上恋心を抱き続けていること。もう一つは、俺にはいろんなステータスが見えるということだ。まあ前者は既に約1名にバレているわけだが、自分から言ったわけではないから「言ったことがない」という言葉に問題はないはずだ。
そんなことはさておき、最近おかしなことがが起きている。初めは気のせいかとも思ったが、どうやら違うようだ。ああ、いくらなんでも多すぎる。今週に入って2回目だぞ? それも普通に考えてあり得ない場所ばかりだ。凜子の借りた図書室の本が学級文庫の中に紛れ込んでいるのを発見し、俺は眉根をひそめていた。
前回はコンディションが悪かったが、今回は違う。本日のステータス表示は俺がひそかに探偵モードと呼んでいる物だ。いろんな情報が目に入るし、あからさまな強調がつくから必要な情報を見逃すこともない。「図書室の本:凜子が昨日借りた本。ビニールのカバーには、黄色いチョークの粉がわずかに付着している」「黒板:昼休み前の授業で生徒が書いた解答が残ったままだ。ひとつだけある黄色い解答が目立っている」「学習机:佐藤が使っている机。置かれている筆箱には、黄色い粉末が指の形に付着している」、これで本をそこに置いた人間を当てろというのは、もし推理小説だったらあまりにもお粗末だ。
とにかく、これは佐藤に話を聞かなくてはならない。幸い、佐藤は部屋の隅で他の連中と駄弁っている。俺は本を抜き取ると、チョークの粉を落とさないよう注意しながら佐藤の方へ向かった。
「なあ佐藤。凛…伴田が図書館から昨日借りたはずの本を本棚に入れたのはお前だな?」
背後から声をかけられた佐藤と取り巻き達は、揃ってびくりとしてこちらを向いた。
「なんでバレたんだ?」
取り巻きの1人の発言は、肯定の答えと受けとって良さそうだ。俺は「藤風学園南図書館所蔵」と書かれたバーコードの上に指を滑らせ、指のあとが綺麗に残った本を無言で差し出した。佐藤たちは、諦念と怯えが混ざったような表情でこちらを見上げてきた。
「理解したみたいだな。で、これを本棚に入れたのはどんな理由があってのことだ?」
「そりゃ、本が落ちてたからだな、本棚に戻したんだよ。何かおかしいか?」
頭上には、「何かをごまかそうとしているのか、目が泳いでいる」の文字。ほほう、つまりこれは嘘なんだな。わざと凜子の本を隠したらしいという俺の予測は正しかったことになる。
「誤魔化そうとするな。本当のことを言え。」
ゴクリと唾を飲み込む佐藤達。俺はついに核心に迫る一言を口にした。
「佐藤、お前まさかとは思うが、伴田に好意を持っていたりするのか?」
「…いや、特には。急に何の話だ?」
帰ってきたのは、心底訳が分からないといった声音の返事だった。いや、なに、俺にはよくわからない心理だが、世の中には「好きな子には意地悪をしたい」という輩がいると聞く。佐藤がもしそういうアレならばマークしておかないとまずいと思ったのだが、どうやら杞憂だったらしい。ああ、良かった。ジョナサン出現以来、どうも過敏になっているようだ。
「もういい、わかった。邪魔したな。あ、でも伴田に迷惑をかけるようなことは2度とするなよ。」
「ああ、それはもう、そうするさ。なぁ?」
明らかに挙動不審ではあるが、何もステータス表示は出ないので、これは心の底からの同意らしい。よく考えてみれば、能力のことを明かしていない以上、俺は凜子の借りた本を毎日把握しているヤバい奴である。佐藤が引くのも当然だ、挙動不審にもなるだろう。
動機を確認し忘れていたことに気づいたのは、しばらく経ってからだった。まあいい、凜子にちょっかいを出さないという現地は取れたし、そのセリフに裏もないようだった。とりあえず、一件落着としておこう。




