白日のもとにて
俺には二つ、誰にも言ったことがない秘密がある。一つ目は、幼稚園来の幼馴染にもう十年以上恋心を抱き続けていること。もう一つは、俺にはステータスが見えるということだ。なぜ言ったことがないか? 後者は大事な人に言って信じてもらえなかったり気味悪がられたら辛いからだ。前者はいう機会がなかったからである。あと、凜子にバレてギクシャクするのが嫌だから。決して、言えるほど仲のいい友達に恵まれなかったとかそういうのではない。
さて、「ミッション:ジョナサンが気にいる本を探そう」という吹き出しを浮かべた凜子が離れていくのを壁越しに確認してから、俺はジョナサンの方に向き直った。この転校生ーー校内を案内するからと体育館裏集合を言い渡したところ「タイイクカンウラ! 一度行ってみたいでした! バトルするところですね!」とものすごく嬉しそうな反応を返してきたーーのことが、俺にはさっぱりわからない。なぜこいつの好感度は対凜子と対俺で同じくマックスなんだ? 好かれてるのがはっきり分かっているせいで、敵意のキープが難しい。かといって、今の感じで凛子と仲良くされていると俺の精神がもたない。かくなる上は、その好意につけこんで凛子から離れていただくしかないだろう、というのが今回の呼び出し理由である。だからその、タバコの吸殻も不良の姿もないことにしょんぼりしていられると非常に困る。
「この学校は火は禁止なんだよ。ゲストが多いから不良はそもそも学校の中に入れてもらえないし。」
なるべく分かりやすそうな日本語で説明すると、悲しげな声でジョナサンは訴えた。
「魔法少女いない、忍者の子孫いないはわかってたです。でも、タイイクカン裏のバトルもないですか? 調理実習のクッキーあげるもない、フォークダンスもない、リンコ言ってたです。文化祭の後夜祭も全員参加で自由行動ないと聞きました。日本は学園物の本場じゃなかったですか…?」
そんなに俺の知らない話をされても…。なんだ、海外では日本のイメージそんな感じなのか?
「両片想いの幼なじみにも期待したですけど、きっとそういうのもないですね…。 だって、転校生の私がリンコと仲良くしてても、ユート良くしてくれるですし、そういうのとは違う、でしょう?」
本か何かから思い描いていた理想の学園生活が送れなくて残念がっているようだが…ちょっと待て今聞き捨てならないセリフが聞こえたな? 両片思いなる語は初めて聞いたが、それはその…俺が凛子を好きだとバレて、いや、好きであって欲しかったけどそうではないと思ってがっかりしている? 意味がわからない。だが少なくともそれはその、ジョナサンは俺のライバルではないということだ。それはとても嬉しい。ここで凜子が好きだと言ってしまえば、きっとこの先も対抗馬として出てこないでくれるだろう。とはいえ、そんなプライベートなことを会って間もないこいつに打ち明けるというのも…
「……違わないですか?」
安堵と照れが表情に出ていたのだろう。ジョナサンがこちらの表情を覗き込んできた。
「な、何が?」
平静を装おうとしたが、声が上ずっているのが自分でもわかる。耳が熱い。
「Really? Oh my God! 余計なことしないで応援するですよ!」
満面の笑みを浮かべるジョナサン。予定外の形でずっと黙っていた想いがバレていたたまれず、思わず俺はその場から逃げだした。ああもう、追ってくるんじゃねぇよこの…足が早いなこの野郎!
とにかく、俺の秘密一つ目は、知り合って一月も立たない英国人に知られてしまったのだった。こいつ隠し事とか下手そうだし、どうなることやら。ただ、気が気じゃないからあんまり凛子に近づかないでくれという要望はおかげですんなり通ったので、一旦よしとしよう。
余談ですが、彼らの通う学校は私立藤風学園といいます。




