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誰にも言えない二つの秘密  作者: 海橋小楢
誰にもいえない二つの秘密:高校編
14/43

私とあいつと転校生 ――凛子の場合

「ユート!」

昼食の終わった昼休み、いつもより人口密度が高い教室の中で、私は選択肢を間違えた結果を死んだような目で眺めている。女子を中心にクラスの内外から人が集まって転校生にあれこれ話しかけ、転校生がそれに対して律儀に全部答えようとしている風景を、教室の外からね。トイレに行って帰ってきたら、私の席は野次馬たちにすっかり占領されていた。優斗に愚痴の1つでも聞いて欲しいところだけど、やつは転校生の補佐で忙しく、私の相手ができる状況じゃない。

あーあ、担任が転校生を助ける役を探しているときに、率先して名乗り出るんだった。絡まれるのめんどくさそうだからって「みんな浮かれちゃって…」なんて独り言で済ませるんじゃなかった。おかげさまで、優斗を完全に転校生に取られちゃったワケ。世話役が私ならまだ「英語がわからない!」って口実で優斗を巻き込めたのに。私の語学力じゃ逆パターンは無理だ……まあ、転校生は日本語のリスニングに問題なさそうだから、どのみちダメだった気もするけどさ。

「ユート、どうしたですか? 」

私の恨みを一身に受けている転校生はというと、優斗の目の前で手をヒラヒラと振っている。転校生よ、気付け。彼は君のせいで疲れているのだよ。さっきから周囲の話しかけに答えつつ、しょっちゅう優斗にキラーパスを放り投げてるでしょ? 「それはワタシも好きです! どのキャラがユートは好きですか?」とか、「Umm…“the vengeful villains one by one get to be taken aback by the hero”は、日本語でなんて言うですか?」とか。私に英語がわからないように、ゲームも漫画も、優斗にはさっぱりわからないんだからな! 多分だけど、子供っぽいと思ってるんじゃないかな。おかげで私は好きなゲームとマンガの話をずっと出来ずにここまできたっていうのに、お前、よくも先を越してくれたな…! どうせなら優斗に二次元の魅力を教えてやってほしい気もちょっとするけど、今の感じじゃ無理だろう。

「朝の…girl! 助けるください!」

そんなことを考えていたら、転校生が私に声をかけてきた。優斗が「え、知り合いなのかよ…」と力なく呟くのが聞こえる。

「助けるって…大げさな。日本語もわかってるみたいだし、なにが困ってるの?」

「ユート元気ないですから、楽しいな話をしたです。でも、ユートはワタシの話、楽しくないに見える、ですから…」

話す声が、だんだんとしょんぼりとトーンダウンしていく。順番が逆の気がしないでもないけど、優斗の様子を心配してくれているようだ。やっぱり、悪いやつではないんだろう。

「ワタシはユートに保健室行くか聞いたですけど、彼は行かない言いました。ので、ワタシはなにするがいいか教えてほしいです。」

上目遣いで様子を伺ってくる転校生と、疲れた表情で「本当にいいから」と彼をどかす優斗。そこに周りの女子たちからの視線も加わって、居心地が悪いったらありゃしない。どうすりゃいいってのよ。こういう時こそ選択肢の出番だ。


赤: あんた、自分のせいで疲れさせてるってわかんないかな?

青:大丈夫大丈夫、慣れないことして疲れただけだって。君、日本のアニメとか好きなの?

黄:でも本当にしんどそうだし、先生に言った方がいいんじゃない?

緑: 人のこと気遣えるなんて優しいじゃん。


周囲の連中に対処をぶん投げたいところだけど、そういう選択肢は残念ながらなかった。赤と緑はすごく刺々しい言い方になりそうだから却下。黄色は…優斗抜きで転校生の相手をするのは気乗りがしない。青から会話を広げて他の人を会話に引きずり込んで、こっそり抜け出す作戦でいこう。


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