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誰にも言えない二つの秘密  作者: 海橋小楢
誰にもいえない二つの秘密:高校編
12/43

約束通りの転校生 ーー凛子の場合

「さて諸君、今日は朝礼の前に伝えなくてはならないことがある。」

担任の言葉を待つまでもなく、転校生が来ることにはみんな気づいてた。そりゃそうだ、昨日までなかった机が私の隣に増えてるんだから。「どんな子だろう」「男?女?」なんてクラスメイト達は盛り上がってるけど、私はその答えをもう知っていた。また選択肢の恩恵だろうって? うーん、そうと言えばそうだし、違うと言えば違う。


事の始まりは今朝のこと。いつも通りにおきて、いつも通りに着替えて、テレビニュースを聞き流しながらご飯を食べて、遅刻の心配がない時間帯にいつも通りに家を出……たかったんだけど。ここで選択肢の奴がしゃしゃり出てきた。


赤: じゃ、今日もいつもの道から行きますか。

青:今日は、気分転換に回り道しちゃおうっと。

黄:そういえば、そろそろひまわりの季節だし、あの道を通ってみようかな。

緑:うーん、気乗りしないし今日は休もうかな……。


 全く悩んでないことについて選択肢が出るときは、だいたい厄介ごとが起こる。選択肢にアタリとハズレがあるのは一緒なんだけど、こういう場合はアタリハズレのレベルが段違いだ。商店街に行く選択肢を選べばクジでハワイ1週間の旅を当て、家族旅行の行き先を決めれば崖崩れで帰れなくなってレスキュー隊に助けられる。ほかにも強盗に遭遇したり、お忍びデート中の有名人と喫茶店で遭遇してマスコミにもみくちゃにされたりと、まあ、20年にも満たない人生の中で、いろいろあったわけよ。ぶっちゃけ、アタリを引いても気分はハズレというか、私はもっと穏やかに生活を送りたいんだよね。こんな、ゲームとか漫画の主人公みたいなイベント遭遇確立は、全然うれしくない。

 だからなんとかアタリでもハズレでもないものを選びたいところ。こういう時は、どういうアタリとハズレがあり得るかを考えて行動するのがベターだ。大したイベントが起こりそうにないものを選べば、被害を抑えられるからね。

登校中に起こるイベントって何があるかな。逃走中の犯罪者に遭遇するとか? 少なくとも、朝のニュースでも特に気になる事件はなかった。地震で壁が崩れて下敷きになるとかなら黄色が怪しい。交通事故なら赤かな。緑の場合は、そうだな……。今日は長期休暇明けの確認テストだから、休むと放課後の部活を犠牲に再テストを受ける羽目になる。これだな、ハズレ。大した被害じゃないと言えばそうなんだけど、皆勤賞を目指しているし再テストも面倒だ。残る三択のどれかがアタリなんだけど、これはもう予想のしようがない。芸能人と遭遇するとか、大金を拾ってしまうとか、どの道で発生するのかわからないじゃん? どれかの道に限って起こりそうなイベントと言えば、「満開のヒマワリを見られてラッキー」くらいかな。これに期待して、ヒマワリの花壇のそばを通ることにしよう。


 とまあ、そういう考えのもとでヒマワリの花壇を通って登校したんだけど。曲がり角で鼻の高い金髪少年にぶつかられて、ああ選択ミスったなぁと早々に後悔することになった。うちの制服だよね? 今行ったらギリギリ開門したくらいの時間だよ? なんで走ってるの? 見た瞬間から、この人は絶対うちのクラスに転校してくるのがわかった。なんなら賭けたっていい。こんなベッタベタな展開で何もなかったら逆に怪しすぎる。

「ごめんなさいです、怪我ナイですか?」

展開に呆れて天を仰いでいた私に、少年は手を差し出そうとして、途中で引っ込めた。手がおにぎりで塞がってたからね。なんでそこはおにぎりなの? 下手にオリジナリティ出さずに食パンでよかったんじゃないの?

「ああ、うん、まあ平気。時間に余裕あるし、ゆっくり行けばいいんじゃない?」

スカートをパタパタはたいて立ち上がる。少年は慌てて残りのおにぎりを口に突っ込み両手を空けて、カバンからまっさらなハンカチを取り出した。ごくんとご飯を飲み込んでから続ける。

「これ、使うが良いです。」

「え、別に良いって。砂はだいたい落ちたし。」

「ンー、これはプレゼント、お詫びに貰ってくださいです。失礼するです。」

微妙に拙い日本語のわりに、言うことがやけに日本人的だ。ぶつかったことに対してお詫びとか、律儀な人なぁと思っていたのに、最後にこいつはぶっこんできた。

「どこ見て歩いテンダ!」

そして「言ってやったぜ」みたいな達成感溢れる顔で学校に向かって猛ダッシュ。詫びる内容はこれか……。その時はっきりわかった、彼は完全に日本のラブコメに触発された確信犯だ。転校初日にやりたかったんだろうなぁとは思うけど、利用された身としては釈然としなかった。


で、今に至る。朝礼に現れたのは、案の定さっきの少年だった。「あ、お前は今朝の!」みたいなことを言いたそうだったけど、私の表情を見てやめたあたり、空気は読めるタイプらしい。


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