どんな力を駆使しても、最適解には届かない――優斗の場合
俺には二つ、誰にも言ったことがない秘密がある。一つ目は、幼稚園来の幼馴染にもう十年以上恋心を抱き続けていること。もう一つは……こんなこというと頭のおかしいやつと思われるかもしれないけど、俺には様々なステータスが見えるということだ。訳がわからないって? そうだな、じゃあ例を見せてやろう。
例えば、今母さんは隣の部屋にいるらしい。なぜわかるかというと、壁越しにステータス画面が見えるからだ。それによると、俺への好感度が5点満点中3点、今の機嫌が25%。特殊ステータス欄には二日酔いとあり、欲しいものとして胃にやさしい食べ物が表示されている。ここはひとつ、シジミの吸い物でも作って好感度を上げておくか。
「あれ、気がきくじゃない。ありがとうね。」
ほら、これで好感度4の機嫌70%だ。この能力のおかげで、今まで人生をそれなりにソツなくこなしてきた。
ただ一人、この能力をもってしてもうまく扱えない相手がいる。伴田凛子、例の幼馴染である。幼少時からステータスの変化を見続けて来たので、何が好きなのか、どういう時に機嫌や好感度がどう変化するのかは完全にマスターした。なのに、未だにしょっちゅう機嫌を損ねてしまうのだ。
「あれ、凛子じゃん。何で資料室に?」
ステータス画面が見えるから、普通なら見えない死角での出来事も把握できる。機嫌が60%、あ、59%になった。特殊ステータスに「ミッション 資料室の段ボールの移動 難易度★★★★★」とあるから、棚から段ボールを下ろそうとして苦戦中なのも廊下から丸わかりだ。こういう時、他の連中に先んじて手助けができるのは、この能力の大いなるメリットといえるだろう。
おっと、だからといっていきなり手伝いを申し出るのは逆効果だな。こいつの場合、一方的に助けられるのを嫌うので、お互いの欠点を補うという構図を作るのが正解。あくまで何か用事があったふりをして資料室に入り、むこうが力になれそうな俺の困りごとをでっちあげなくては。
「えーっと、チョークチョーク……って、あれ、凛子じゃん。チョークの予備を持って来いって言われたんだけど、どこにあるのか知らね?」
用意周到に作戦を練り上げ、自然な流れで頼みごとをする。我ながら素晴らしい演技力だ。
「…ちょっ、わっ、私の後ろに立つなぁっ!」
なのになぜか、凛子は明らかに取り乱した様子で、どこぞの暗殺者みたいなことを口走る。そしてそのまま資料室を飛び出していった。放置される俺と段ボール。あの、俺、この段ボールをどこに移動させるべきかまでわからないんですけど?
もちろんこれは現実だから、そんなにすんなりうまくいくとは思っちゃいなかった。にしても、さすがにこれはないんじゃないか? しかも、走り去るあいつのステータスは機嫌ゲージも20%に急降下していた。なんだ。何が間違ってたんだ。俺はどうすりゃよかったんだ。