佐藤 錦、ウィスタリアに発つ
長らくお待たせいたしました。続編です。宜しくお願い致します。
錦は遂に現世からウィスタリアへの出発の時を迎えた。栄養ドリンクのようなものを口にした。これによって現世の身体ではなく、膜に覆われてウィスタリアのアバターに変化するらしい。どうやらこのバスによってウィスタリアに向かうようだ。
「本日はウィスタリアへの編入、誠に有難う御座います。これからは皆さんと共に仲良くしていきたいと思いますが、ご存知の通り覇権争いが起こっております。」バスガイドが言う。
「何とも恐ろしい話だ。この中で別れるんだからな。」バスの中の人はみんなそう言っていた。
「今現在、ウィスタリアは取り敢えず5つに分かれております。国土の4割を占めている佐藤大公国。そして3割を占める藤原政権。あとは1割ずつ、工業地帯で不戦不干渉主義を貫く技術力の工藤国、藤原政権を密かに取り入れようとする新藤藩、そして方面軍領です。ではこれより異世界への旅に参ります。」
一通りこの地方を周った。これは異世界に旅立つものを讃える閲兵式のようなものである。そうこう回っているうちに眠くなってしまった。麻酔薬でもはいっていたのではないだろうか。
目が醒めるとそこは異世界であった。
「あぁ。ここはどこだ?」
「ここは藤原政権の治める土地であります。我々は藤原國の領民であります。何なりとお申し付け下さい。」
「ありがとう。俺は佐藤錦です。貴方は?」
「はい。佐藤家秘書。今井市之助です。」その同じくらいの歳の秘書は比較的声が高い方であった。
「頼んだぜ。市之助。早速何か予定されていることはないか?」
「今日は午後から任命式が行われます。藤原國の主要な役職が決められますゆえ、錦様もご出席なされるよう。」
「承知した。わしは腹が減った。朝食を食べるとするか。」
「では早速手配させるゆえ、少々お待ちください。」
「市之助。構わん。俺が作る。台所まで案内せよ。」
「畏まりました。」市之助の案内で台所まで向かう。丁度桜の花びらが優雅に舞っていた。
「ここが台所か。綺麗だな台所よ。ところで市之助。お主、腹は空いていないか?」
「えっ?まぁ、それなりに空いてはおりますが。」
「しばし待っておれ。良いものを作ってやる。」
「殿。忝のう御座います。」
台所を調べると乾麺と思しき中華麺を見つけた。
「丁度良い。これを使うとしよう。」
鍋に湯を沸かし、そこに乾麺を入れ茹でていく。もう片方ではフライパンに野菜と肉を入れて軽く炒めていく。なんとも良い匂いだ。
そして炒めたものをいったん取り出し、水に魚介の混合出汁を入れて煮出していく。
「そろそろ頃合いか。よし、野菜と肉を入れよう。」良い加減に麺が茹だったので湯切りをして深皿に盛る。スープに醤油、ごま油を少々加えて麺にかけていく。
「市之助。出来たぞ。彦根ちゃんぽん風タンメンだ。ささっ!冷めないうちに。」
「ありがとう御座います。殿。」市之助は満面の笑みでこちらを見つめる。そこまで嬉しそうだと料理人冥利につきるな。
「殿。美味しいです。こんなに美味いものは初めて食べます。今まで料理なんてこんなに美味しいものだとは知りませんでした。いつも生きる為に仕方なく取るものだと思っていたので。」
おいおい、ここは昔のイギリスのようなところなのか?食事は美味くてなんぼや。
「嬉しいな。これからは美味しいものを市之助に作ってやる。専属料理人にも料理の作り方を教えてやる。」
さて一年の任期の中で俺はこの国の食文化を発展させることが出来るだろうか。料理の美味さが士気を高めるということもあるだろう。そんなことを考えていた。