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第6話 マリヤと彼女の不安

ニュースを見るマリヤは、身近なことから不安を増大させていく――


 とある日、基地の共有スペースで、マリヤはのんびりとお茶を飲みながらニュースを見ていた。

 ニュースでは、誰もが知っているスターがなくなったと報じられていた。

「あの人……死んじゃったのか……」

 マリヤはぽつりと呟いた。

「死ぬのは、いやだなぁ……」

 続けて、そう呟くと後ろからぬっとブラッドが顔をだした。

「何だ貴様、不死者でもなりたいのか」

「あびゃぁ?!」

 驚きのあまり椅子ごと後ろに倒れ込んだ。

 派手な音がしたが、マリヤは後頭部を打つことなく、寸前でブラッドに抱き抱えられ難を逃れた。

「何をやってる」

「す……すみません」

 ブラッドは呆れ顔のまま、マリヤをその場に立たせるように解放する。

 マリヤは困り顔のまま申し訳なさそうにしていた。

「別にそういうのになりたいわけじゃないんです、でも、怖いなぁって……死にたくないなって……」

 その言葉を聞いたブラッドは、いつもとは違うまじめな顔で口を開いた。

「それは当然だ、ほとんどの生物は死への恐怖と戦っている、だからそれは悪いことではない、な」

 そう答えてから、マリヤの頭をぽんと撫でた。

「貴様はそのままでいろ、それが一番好ましい」

「は、はい。ブラッド様」

 ブラッドがその場から居なくなると、マリヤはため息をついて椅子を立たせて、そして座った。

「マリヤ、どうしたんだ? またあのバカが変なことでも言ってきたのか?」

 部屋に入ってきてその様子をみたレアが声をかけてきた。

 マリヤはその問いかけには首をふると、ふうとため息をついた。

「ちょっと、色々考えてしまったんです。今はまだ死にたくないなとか、色々と……」

「ああ、ニュースを見てか。考えてしまうのはわかるがむやみに自分を不安にさせるのはよくない」

 レアはそう言ってマリヤの頭を撫でた。

「マリヤ、君は今悪い方向に考えやすくなっている。だからニュースとかも見るのは結構だが、悪い方向にとりこみやすいのを理解した上でみた方がいい、どんどん気持ちが陰鬱としてしまうだろう? 不安をむやみに増大させてはいけないよ」

「……はい」

 マリヤは少しだけしょげた表情で頷いた。

「言い方がきつくなってしまったね、君を責めてるんじゃない。正直君はもっと静養すべきなんだがあのバカが働かせすぎだ、いっぺん締めよう」

 レアがそういって立ち上がろうとすると、マリヤは慌てたような顔をして彼女を止めた。

「あ、あの!! それは結構です!! 私、ブラッド様にお仕事いただけてすごく嬉しいんです、今までやりたかったけど出来ないことが出来るようになったんです!! だからその――」

 マリヤが必死に言うと、レアは一瞬きょとんとした表情をしてから苦笑した。

「わかった、君が言うならやめておこう」

 そういって再度頭を撫でて、椅子に座った。

 マリヤは安堵のため息をついて、その場に突っ伏した。



 マリヤは研究室に戻ると、設計図などを開いてふうとため息をついた。

「……本当、お役にたててるのかな」

「またぶつくさ言ってるな」

「あびゃぁ?!」

 再び背後から声をかけられ、マリヤは奇声を上げて尻餅をついた。

「あいたたた……」

「貴様、そればっかりだな。ワンパターンすぎるぞ」

 呆れ顔のブラッドがそこに立っていた。

 ブラッドはマリヤの手をつかみ、彼女を立たせる。

「貴様は余計なことばかり考えるな……」

「も、申し訳ございません」

「いや、それをわかってて私は貴様を雇っている。その上で貴様にこの場所を与えているのだ」

「……はい」

 マリヤはこくりと頷いた。

「余計なことを考えるなとはいわんが、一人で抱え込むのはやめろ。私はそれを貴様に求めはしない」

「え……」

 ブラッドの言葉に、マリヤは驚いたような顔をした。

「私に言いにくいならレアに言うこともできるだろう、彼奴は貴様の主治医だ、喜んで相談に乗るだろう。彼奴はそういう人間だ」

「え……ブラッド様にお話をしても、よろしいのですか?」

「当たり前だ!! ……そうか、貴様私との立場考えて相談できないと思っていたな、馬鹿め、貴様の相談ぐらい幾らでものってやる!!」

 ブラッドがそういうと、マリヤはうろたえたような表情をした。

 予想していない答えと言葉だったのだろう。

 それを見て、ブラッドは盛大にため息をついた。

「貴様を雇うとき言ったはずだ、一人で抱え込むなと」

「は、はい……」

「わかったら私かレアに相談するよう心がけろ、いいな」

 ブラッドはそういうと研究室の椅子にどかっと座った。

「貴様の行動少し観察しようと思ってただけだが、気が変わった、今日は貴様をじっくり観察してやる」

「ええ?!」

「仕事をしすぎたら容赦なくどつくから覚悟しろ」

 ブラッドが邪悪に笑うと、マリヤは青ざめた顔をして何度も頷いた。

 その日、ブラッドが言ったとおり、なんどもこづかれて休憩させられるマリヤの姿があったことは言うまでもない。


 翌日、マリヤは少しげっそりした表情をして研究室にいた。

「……不安で寝れないなんて情けない」

「何が情けないだ」

「あんぎゃあ?!」

 マリヤは前日同様尻餅をつく羽目になった。

「貴様、本当行動がワンパターンだな」

 ブラッドはため息をついて、前日同様彼女の手を掴んで立たせた。

「だ、だってブラッド様音もなくでてくるんですもの」

「まぁ、私はどこにでも行けるからな!! 鍵なんぞ意味はない」

「ぷ、プライバシーの侵害すぎる……」

 マリヤがげんなりした表情で言うと、ブラッドは彼女の頬をひっぱった。

「不安で寝れないとため息をついたのは誰だ」

「わ、わたひれしゅ……」

「貴様を心配してやってるのだ、感謝しろ」

「ぇえー!?」

 ブラッドは頬をひっぱるのをやめると、マリヤの頭を鷲掴んだ。

「というわけだ、寝ろ」

「え、なに………」

 すると、マリヤの顔がとろんとした表情になり、そのままブラッドの腕に倒れ込んだ。

「全く、薬が出てるのに飲まないからだ、気にするなといってるのに」

 ブラッドはそう言うと、マリヤを彼女の自室へと運んでいった。

 そして、ベッドに寝かせて布団をかける。

「貴様はもっと私達をたよれ、いいな……」

 ブラッドはそういうと部屋から姿を消した。

 部屋には、マリヤの小さな寝息だけが静かに聞こえていた――





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