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その先にあるもの

「あー…何でこうなったんだろう…」


 俺は確かアサルトの親父さんにアサルトと一緒に住むのを認めてもらうためにこのださい名前の道場に来たはずだ。

 それなのに目の前にいるのはノリノリで準備運動をしているアサルトと道場の隅でこちらを見ている親父さんだ。


「…あのー親父さん。これって俺が勝てばアサルトと住むことを認めてもらえるんですかね?」


「ふっ、何を言っとる。ワシはいくら才能があろうと剣を初めて数日のお主がワシが子供のころからみっちり仕込んだアサルトと勝負になるとすら思っておらん。せいぜい頑張って気持ちと言うものを見せてくれ」


 もしこのおじさんが全く関係ない人なら粉々に刻んでぶっ殺していたかもしれない。

 それほどに今の言葉はムカついた。

 確かに俺の才能はあんまりだとか言ったり、アサルトのことを持ち上げたりしてたけどさ、そんなにストレートに言わなくてもいいじゃん!

 しかもアサルトと本気で勝負するのは初めてだからまだ分かんないしー!


「あらたー、準備できたかー?」


 完全に道場に来た目的に忘れて、のんきにアサルトが尋ねてくる。

 

 俺はこいつは凄いやつだと思っている。

 剣の腕も教える才能もある(語彙力がないので伝わらない場合があるが)と思う。

 今までに助けられたことだってある。


 でもこいつは、アサルトはどこか抜けている!それが残念で仕方ない。

 まぁ俺も自分で自分のこと抜けてるなーとか思うことはあるぜ?でもアサルトは自覚症状ないじゃん!

 しかし、文句を言っていても仕方がない。

 アサルトに勝てばいいだけの話なんだ。逆に分かりやすくて助かったかもしれない。


 俺はこの勝負でリジルは使わない。

 リジルは普通の剣ではない。それは切れ味がどうとかそういう意味ではなく、意思を持っているということだ。

 俺は、人間よりはるかに身体能力が優れているゴリラなどの動物が人間におりに入れられているのは人間より知能がおとっているからだと思う。

 つまり知能というのは身体能力を上回る力になるのだ。


 つまり何の専門知識もない俺が偉そうに何が言いたいかと言うと、知能があるリジルはチートアイテムだ。ということだ。

 剣と触れ合ってきた時間を考えるとそれぐらいのハンデは良いかもしれないが、やっぱ男と男の勝負は公平にそして本気でやりたい。

  

「悪いな、今回も持ってくるだけ持ってきて使わないなんて」


《別にいいわよ。私あんたと出掛けるの好きだし》


 リジルのツンデレキャラが崩壊してきて、ただのかわいいキャラになっている気がする。

 

「なんだ、リジルは使わないのか?宝剣の凄さを味わってみたかったんだが」


 挑発なのか本心なのか分からないがアサルトが残念そうな顔をしている。


「俺はお前と剣の腕で勝負したいからな。リジルに手伝ってもらっちゃそれは俺の力じゃない」


「いいぜあらた、やっぱり俺はお前らといてーよ」


 俺は道場にあった剣を一本借りて、アサルトと向かい合う形で相対する。

 何故だか分からないが顔がにやついてしまう。それはアサルトも同じようだった。

 当たり前だがこれに勝てば勝者で負ければ敗者だ。そしてそれのどっちの方が格好いいかは誰でもわかる。


 負けたくない

 

 両者の心の中は共に同じだった。

 師匠として、弟子として、そして男としてこいつには負けてはいけない。俺の、いや俺たちの直感がそう告げていた。


「それでは双方用意はいいか?」


 対人戦において最も大事なことは、


「それでは…始め!」


 キィィンという甲高い金属音が聞こえたかと思えば、ギリギリと金属同士がこすれ合う音がする。


「対人戦において最も大事なことは、先手必勝。教えを守ってるみたいじゃねーか」

 

「お前と違って俺は真面目だからな」


 アサルトに対して返事をしたが、実際のところ俺はちっとも余裕がない。

 見た目は互角につばぜり合っているように見えるかもしれないが、ほんの少しずつ俺が押されている。

 

 早くなにか手を打たないとこのままだと押しきられる!

 だが俺は実践経験が少なく、すぐにはいい案が思い付かない。


「惜しいなあらた。剣の勝負ってのはな、剣が全てじゃないんだぜ」

 

 直後俺は自分に何が起こったのか分からなかった。

 いつの間にか俺の体は道場の壁に強く激突していた。

 俺がアサルトの蹴りをくらったと気付くまでに数秒かかった。それほどまでに俺にとっては今のは意外な一手だった。

 アサルトなら体術なんて邪道だと言いそうだからだ。


 アサルトの蹴りは路地裏にいるチンピラの蹴りよりも重く、レベルが上がる前の俺の体なら内蔵が破裂して死んでいたかもしれない。

 それほどまでにアサルトの蹴りは剣同様、洗礼されていた。


 俺は口から流れている血なんか気にせずにもう一度アサルトのところへ突っ込む。

 水平切り、回転切り、突き。

 様々なアサルトから教わった技を仕掛けるが、アサルトはこれら全てをことごとくいなす。

 その顔にはまだ余裕が見える。

 当たり前と言えば当たり前だ。俺の技はアサルトから教わったのだから。


「相手が俺じゃなかったら大抵のやつはもう倒せてるんじゃねーか?やっぱお前すげーよ」


「そりゃどーも。そんなすごい俺の攻撃を余裕で捌くお前が言うと、嫌味にしか聞こえたかと無いけどな!」


 俺が何度目かも分からない振り下ろし攻撃をいなされたあと二回目の蹴りをくらった。

 俺の背中が再び道場の壁に強く打ち付けられる。

 鋭い痛みが俺の背中とお腹を襲う。


 やはりこのままではダメだ。 

 アサルトから教えられた技は対処法を知られているし、そもそもモーションで行動がよまれてしまう。

 

 アサルトに攻撃をくらわすためには何かアサルトが思い付かないような手段を考えなければいけない。


 俺は今思い付いた攻撃を試すためにアサルトに突っ込んでいく。


「おいおいあらた、同じ様に突っ込んで来て、さすがにワンパターン過ぎないか?」


「それはどうかな!」


 金属と金属がぶつかった甲高い金属音が鳴り響いた一瞬後に今度はアサルトの体が強く道場の壁に激突した。


「やるじゃねぇか。剣を投げる何て教えた覚えはないぜ?」


「俺は今反抗期真っ盛りなんでな」

 

 そう俺は剣をアサルトに向かい放り投げて、アサルトがそれを弾いている間に回し蹴りをアサルトの腹にぶちこんだ。

 普通の剣術を教える道場なら絶対に教わらない戦術だ。だからこそアサルトには効果覿面だった。


 でもまだ一発やり返しをしただけだ。

 アサルトに勝つためにはこのような攻撃を何度も何度もしなければならない。


 できるのか?


 いや、やるしかない!


 

 もう一度俺とアサルトは技の繰り出し合いをし始めた。

 さっきの攻撃をする余裕も作戦もなく、俺はまた防戦一方だった。

 頬や腕にできる切り傷がだんだん増えていく。このままだとやられてしまう。

 そう感じ取った俺は一度距離をとる。


「随分と逃げ腰じゃないか?そんなに負けたくないか?」


「戦略的撤退ってやつだ。お前こそ負けたときの言い訳でも考えてろ」


 とは言っても俺がアサルトにかつ手段が思い付かない。

 やっぱりまだ修行が足りてないのか?

 いや例え修行が足りてなかったとしても俺は勝たなくてはならない。

 どこかの神様からも強くなれみたいなこと言われたしな。

 何より両親のためだし。


 何かないか?アサルトに攻撃を直接与えるまでもいかなくても隙を作るような何かは。

 考えろ、考えろ、考えるんだ。


《何やってんのよのろま!何であれぐらいの敵がさっさと倒せないの!?》


 多分俺の心の中に直接語りかけてきているであろう女の子の声が聞こえた。

 その女の子がしっかりしなさいと俺に怒りをぶつけてくる。

 最近優しいと思っていたがやっぱりリジルはリジルだなと改めて思った。


《だいたいあんたたちの動きは無駄が多すぎるのよ。思い出しなさい。私を使って初めて戦ったあの戦いを》


 影の搭。その高くそびえる十階で俺は新しい家族の宝剣と出会った。

 俺と宝剣は出会ってすぐに手を取り合ってと言っていいかは分からないが協力してボスを倒した。

 

 俺が出会った新しい家族の少女はアサルトよりスパルタだった。俺が少し動く度に今のは違う!そっちじゃない!と言ってくれた。

 時にはアサルトから教わった動きも無駄が多いとバッサリと切り捨てた。

 

 あの時は完全に俺とリジルだけの世界だった。部外者が入る余地なんか全くなかった。

 あの世界に二人だけの世界で学んだことを発揮すれば勝てる可能性は十分にある。


 しかし、俺はあの時の世界で学んだ戦いは時間的な余裕がなかったためあれから全く特訓をしていない。

 トレジャーハンターに夢とまで言わせる宝剣が教えるだけあってあの動きはなかなかに高度なものだった。

 

 それでもあれができないと俺に勝ち目はもうほぼないと言っても過言ではないだろう。

 これは危険な賭けであり、勝てる可能性が唯一ある希望の賭けだ。

  

 前に公園でいたホームレスのおじさんに博打に大事なのはちょっとした勇気だけだと聞いたことがある。

 他にも必要なことがあったからホームレスなんかになってしまったのかもしれないが、今はあのおじさんの言葉を信じるしかない。

  

「なぁアサルト、俺とおまえ何対何で戦っていると思う?」

 

「何言ってんだ?そりゃ一対一だろ?」


「そうか…」


 アサルトがそう思っているなら、俺の勝ちだ!


 そう思うと俺はもう何度目かも分からないアサルトへの突進を行った。


 上からの振り下ろし攻撃は一発目はわざとずらして、二発目で仕留める!

 

 俺がリジルから教わった方法で剣を振るとアサルトは対処できずに頬に剣が少しかすった。

 俺の剣が初めてアサルトの体に傷をつけた。やはり俺とアサルトは初見の攻撃を完璧に捌かれるほどの力量差はないようだ。


 希望が見えてきた!

 そう思った瞬間アサルトの顔が変わった。

 今まではどこか余裕があるように見えていたのだが、もうその余裕はどこにもなく、真っ直ぐにこちらを見据えている。

 それはさながら獲物を狙うライオンのようだった。


 そこから始まったのはお互いほぼノーガードでの殴り合いのような戦いだった。

 攻め立てる俺に負けじと攻め立てるアサルト。両者ともに傷が増えていく一方だった。


 俺がリジルから教わった動きを実践してみると、アサルトはやはり上手くは対応できないようだった。

 アサルトの方も俺が見たことがない戦術を使ってきて対応がうまくいかない。


「俺が何でお前と一緒にいることにこだわるか分かるか?」


 ふいにアサルトが思い付いたように話しかけてくる。

 その内容は今までのものとは少し違っているように感じた。


「…宝剣があるからとか楽しいから、じゃないのか?」


「まぁそれもあるな。でもなあらた、俺はお前に…」


 俺がアサルトの表情で一番好きなあの笑顔が出てくると思った。

 しかしその笑顔はいつもの笑顔とは違いどこか寂しそうだった。

 

「俺はお前に憧れてたんだ。いや今も憧れてる」


 アサルトは俺からしたら何でもできる兄のような存在だった。 

 俺なんかより何でもできるし、逆に俺が密かに憧れているぐらいだった。


 それなのに俺に憧れてる?

 ちょっと意味が分からないや。


「お前が圧倒的なまでの才能を持っているのは一目見た時に分かったさ。それは魔法だけじゃなく剣の才能もってことだ。俺なんかあっという間に追い越してしまうことは分かった」

 

 アサルトから聞こえる言葉は俺を褒めているのか、羨んでいるのか、恨んでいるのか。

 どんな感情が込められているのかは俺には分からなかった。

 ただそれらがどれも生半可なものではなく、心の底から沸き上がっているものだということだけは分かった。


「だからこそ俺はおまえには負けられない!」


 そう叫んだアサルトの顔がよりいっそう険しいものになる。

 このアサルトと俺の勝負は才能vs気持ちのようなものだと思っていた。しかし、アサルトは俺と同じぐらいの気持ちを、俺はアサルトと同じぐらいの才能を持っていた。

 

 もうこれは才能とか気持ちとかを越えた男と男の魂の勝負だ。

 

「俺もお前には、というか誰にも負けられないんだ。そろそろこの戦いにも決着をつけないか?」


「あぁ同感だ」


 次の一撃に俺の全神経を込める。それはアサルトも同じのようで、目を瞑って集中しているように見える。

 

 今聞こえるのは俺とアサルトからこぼれ落ちる汗が床を打つ音だけだったもの。

 そして俺とアサルトの汗が同時に床を打った時俺たちは同時に動き出した。


 それは虎と龍のようであった。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 二つの大きな力がぶつかり合ってその衝撃波で道場が振動する。

 


 爆音と爆風が吹き荒れるなか、そこに立っていたものは、



一人としていなかった。


 自分文章力上がったんじゃね?とか思ってたのですが気のせいだったみたいです。

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