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意地悪な神様

「それじゃあ改めて新しく一緒に住むことになった仲間を紹介するぞ」


 皆でテーブルを囲んで晩御飯を食べているときに俺は急に立ち上がってそう告げた。

 アサルトは俺のとなりに座っていたか皆どこかよそよそしくあまり会話はできていなかった。


「こいつが今日から一緒に住むアサルトだ。まぁ一応俺の師匠だ。変なやつだけど皆よろしく頼む」


 アサルトがペコリと一礼。

 そしてよろしく、とあの笑顔を見せた。


「「やっと…」」


「ん?」


「「やっとあらた君が男を連れてきた~」」


 普段はいがみ合っているタマとシロだが、何故か時々息が合う。

 

「アサルトさんあらた君と仲良くなってくれてありがとうっす」


「これからあらた君に変な女が寄り付かないように見張っててください」


 お前らは俺の親か?

 しかも変な女が寄り付かないようにって何だよ。今まで変な女が寄り付いてきたことないだろ。


 アサルトとタマとシロがわいわい俺の話で盛り上がっているなか、メロはお茶を飲んでいる。

 一人増えたけどいつも通りの日常が戻ってきた。


「ちょっとあらた!昨日から私のこと忘れてるんじゃないの!」

 

 刀身に包帯を巻いて椅子に立て掛けておいた宝剣が突如として喋りだして光だした。

 次の瞬間俺の横にいたのは真っ赤な髪に真っ黒なドレスの女の子。

 年はメロと同じぐらいのように見える。

 腕を組んで少し偉そうな態度でふんっと鼻を鳴らしている少女はテーブルに座っている一同を見回して


「あんたらがあらたと住んでるやつら?ふーん、ダメダメね」


 さらっと爆弾を投下した。


「あらた君?誰ですかこの、いかにも私ツンデレです。みたいな女の子は」


「あらた君、やっぱり女の子を連れてきたんっすか」


「ちょっと、ツンデレって何?意味分からないこと言ってないでまずはよろしくお願いしますぐらい言えないの?」


「止めてくれ!それ以上は何も言うな!」


 ここで止めなかったら何を言い出すか分からない。

 まぁリジルが俺の言うことを聞くわけもなく、もうすでにタマとシロと言い合いが始まっている。

 一気に倍以上賑やかになった気分だ。


「ってかあらた!あんた昨日から私のこと忘れてたでしょ!もうあんたの剣やめるわよ!」


 何故かこっちに向いた矛先を対処しているといつの間にか三十分ほどたっていた。

 疲れた。


「えっとまぁそういうわけで、リジルは搭にあった宝剣だってことだ」

 

 必死にリジルについて説明していた。

 最初は、あらた君頭おかしくなったんすか?

 とか

 剣だろうが関係ありません。女の子は女の子です。

 とか色々言われたけど、皆なんとか納得してくれたみたいだ。

 ちなみに三人はみんな意地を張っているみたいだ。


「さっきから皆と何も話してないけど、メロもアサルトとリジルと仲良くしてやってくれな?」


 相変わらずお茶をすすっているメロ。

 そのメロが急に立ち上がって、いつもは無表情な顔を真剣モードに変えた。


「…呼んでる」


「ん?誰も呼んでないぞ?」


「…呼んでる。アテナ様が呼んでる」


 今までメロは自分が神の使いだと言っていた。しかしそれは小さい子供が言う冗談の様なものだろうとタマもシロもそして俺も思っていた。

 なのにこの言葉はそんな冗談のたぐいではないことが何となく分かった。

 それは俺だけではなく皆も同じのようだ。


「アテナってあれか?パルテノン神殿にいるって言われてるあのアテナか?」

 アサルトが真剣な顔で尋ねると、メロはそうだと頷いた。 

「けどあそこは入り口が開いてないだろ?名もなき搭とパルテノン神殿と無の祠の三大開かずの扉って言われてるじゃないか」

 この世界の常識であろう初耳情報を言ったアサルトが半信半疑でまた尋ねる。

「…パルテノン神殿、私はそこから来た」

 ある意味これが一番の爆弾発言かもしれない。

 今まで誰も中を見たことがない建物から来た少女。

 本当に神の使いなのかもしれない。俺はそう感じ始めていた。

 メロは不思議な感じだったけどまさかここまでの重大事実を抱えているとは。


「んで、呼んでるってのはどういう意味だ?」


「…アテナ様が来いって、そう言ってる」


「目的は分かるのか?」


「…分からない。来いって言ってるだけ」


 これはまたまた厄介事の臭いがプンプンしますぞなもし。

 俺アテナさんになんかしたかな?

 …うん、何にもしてないね。まず会ったことすらないね。


「…行かなきゃだめかな?」


「…ダメでしょうね、多分」


「…夜なのに?」


「夜なのにっすね、多分」


 外は曇りで月明かりも出てなく明かりが無いと出歩けない。

 パルテノン神殿がどこにあるかも分からない俺は行くかどうかを迷っていたのだが


「…あらた、早く行かないと」


 メロのその一言に従うことにした。


 パルテノン神殿はそこまで遠い場所にはあらず、俺が光魔法を使いながら歩いて三十分もかからなかった。

 最初は俺がリジルを持ってメロと行くつもりだったのだが、まぁいつも通りの展開で全員ついてくることになった。


 その建物は元の世界にある同名の建物と同じ様な雰囲気だった。

 違うところは、建物を囲んでいる柱と柱の間にはよく分からない模様が描かれた壁でふさがっているところだ。


 このパルテノン神殿は名もなき搭と無の祠と共に三大開かずの扉と言われているはずなのだが


「ねぇ、三大開かずの扉、普通に開いてるんだけど?」


 開かずの扉はご丁寧に俺達を迎えているようにパカッと全開していた。 

 本当に扉が今まで開いていなかったのか疑わしくなる。


「俺も今まで何回もここを調査しに来たんだが…なんかガックリきちまうな」


 まぁその気持ちは分かる。めちゃくちゃ複雑に考えてたものが簡単に解けたらガックリ来るよな~。ちょっと違う気もするな。


「それじゃあ早速俺が一番乗りだ!」


 トレジャーハンターの血が騒ぐのかずっとウズウズしていたアサルトが他の皆を置いて走って向かっていく。


「ついに未開の領域へ、とつげぐふっ」


 あれだけ勢いよく走っていたアサルトが急停止する。というより何かにぶつかったような止まりかたをした。


「お、おい何だこれ!見えない壁があって前に進めないぞ!」


 アサルトが振り下ろした手は普通なら空を切るはずなのだが、その手は途中で止まりその瞬間にバンっと何かを叩いたような音がする。

 その光景は何度も何度も続いていたのだが、アサルトがもうお手上げだという風に顔をしかめる。


「なぁメロ、何か入れないみたいだぞ?」


 メロは何も返事をしてくれず、スタスタと神殿の入り口の方へ歩いていき、そしてアサルトが叩いていた見えない壁のあたりを何も無いように普通に通る。


「…普通に通れる…よ?」



 どうやらこの見えない壁を通れるのはメロ、俺、リジルだけらしい。

 他の皆が通ろうとしても絶対に見えない壁に阻まれる。

 

「じゃじゃあちょっと言ってくるわ」


「ずるいっすよあらた君だけ!」


「そうですよ、私も行きたかったです!」


「俺もだぜ!」


 いやそんなこと言われても困るんだけど。

 ってか逆にそっちの方が面倒事に巻き込まれそうもなくて羨ましいんだけど。 

 何故俺はこういつもいつも問題に巻き込まれていくのかな。

 こんなのまるで俺はアニメの主人公じゃないか!


 神殿の中は赤い絨毯がひかれた長い長い一本道だった。

 左右には石の剣を持った石像がずらりと並んでおり、どこかの城を彷彿させる内装だ。


 メロが先頭を歩いており、その後ろに俺がついていっている状態だ。

 やけに静かなリジルは剣の形でいる。心なしかプルプルと震えている気がするがまぁ問題ないだろう。


「…あの部屋にアテナ様がいる」


 神殿の入り口とは違い静かに閉じたままでこちらを見つめているその大きな扉はシンプルなデザインだ。

 色は他の壁が白だったのに対して赤い。

 飾り付けや模様は何もなく、ただただ扉であった。


 メロは何の躊躇もなく、まるでそこに住んでいるかのように扉を開けた。

 メロの力が強いのか、扉が見た目に反して軽いのか、扉は音をださずに静かにゆっくりと開いた。


 扉が開かれるとそこにあったのはとても大きなホールだった。

 今まで道に合わせて細長かった絨毯が一気に広がり、そのとても大きな部屋に敷き詰められてした。

 天井を見ると部屋の大きさに合わせたシャンデリアが爛々と輝いていた。


 そして、部屋の中央に置かれた豪華な椅子に座っていたのは、メロと同じ緑髪を腰辺りまで伸ばし、純白のドレスを着て、中心に赤い宝石を埋め込まれた銀のティアラを被っている美しい女性だった。


「やぁ、ご苦労だったね。やっぱり僕の使いちゃんはいい仕事をしてくれるよ」


 椅子に頬杖をついてにっこりと微笑みながらそう言った。

 その声は透き通った美声の中に何か企んでいそうなそんな声だった。



 そしてアテナはこっちの方を向いてよりいっそう深く笑う。

 そして


「久しぶりだね?あらた君」 


 っ!

 久しぶりってことは俺はアテナに会ったことがあるのか?

 いやそんなことはあり得ない。こっちの世界に来てからさっきまでパルテノン神殿のことすら知らなかったのに、アテナに会っているなんてあるはずがない。


「それにしても成長とは早いものだね、前に会ったときは小さな赤ん坊だったのに」


 どーゆうことだ!?俺が赤ちゃんの時に会っている?

 ……?

 あぁダメだ、衝撃すぎて全然飲み込めないわ。

 今日の爆弾発言の量は半端ないな。これを受け止めれる容量を持ってるのは人間じゃないと思うぜ。


「やっぱり君は僕に会ったことは覚えてなさそうだね。悲しいよ、僕は君も君の母親もしっかり覚えているというのに」


 待ってくれ、頼むから待ってくれ。 

 母さんもアテナに会ったことがある?

 もう分けが分からないぞ。


「それとリリスにも久しぶりと言っておこうかな」


「何が言っておこうかな、よ。私を封印したくせに」


 普段ならもっと声を大きくして怒鳴り散らすリジルだが、今は静かにただアテナを睨み付けている。

 その目には怒りや執念といった感情が浮かんでいる。


「あの時の君は危険だった。自分でもわかるだろう?」


「そっちこそあの時私はああするしかなかったことぐらい分かるでしょ?」


 いつもの数倍険悪な雰囲気で睨むリジルに余裕の表情のアテナ。

 その間に挟まれた俺まで何やら不穏な心持ちになる。

 

 俺はリジルについて何も知らなかった。

 アテナは今、リジルの事をリリスと呼んだ。リジルがそれを否定しなかったということはリリスというのが本当の名前なのだろう。

 更にアテナはリジルを封印したと言っていた。

 何があったのか気になるがここでそれを聞き出す勇気を俺は持っていない。


「それで何で神様ともあろう方が俺を呼んだんですか?」


 様々な疑問があるが俺が今一番聞きたいことはこれだ。

 やはり何度考えても俺がアテナに呼ばれるようなことをした覚えはない。

 アテナ曰く俺はアテナに会ったことはあるらしいが、俺が赤ちゃんだった時のため全く記憶はない。


「なぁにそんな大したことじゃないさ。ちょっと世間話をしようと思ってね」


「神様と俺が一緒な世間の話をできるかは分からないけどな」


「ふふ、そうだね。じゃあ…君のお母さんの話とかはどうかな?」


 俺がこの世界に来た目的。その目的の手がかりをこのアテナが持ってるかもしれない。

 俺はこのアテナは信用してはいけないやつだと思っている。

 どこか余裕があるあの笑顔は絶対に裏がある。それは何となくだが分かる。 

 でも、でも俺はそれを聞かずにはいられなかった。


「僕のお話に付き合ってくれるようで嬉しいよ」


「あらた、やめときなさい。こう見えてこいつは意外と切れるやつよ。いつの間にか危険に巻き込まれていてもおかしくないわ」

 

 リジルが言っている切れるやつというのは本当のことだろう。いつの間にか危険に巻き込まれているというのも十分にあり得ると思う。

 しかし、


「すまないリジル、俺は危険に巻き込まれようが何をされようが、母さんを助けたいんだ」


 俺は多分まともな判断はできていないだろう。

 言ってみればこれは悪魔に魂を売るようなものだ。

 でも何より俺は母さんに会いたい。ただそれだけのために死にもしたんだ。悪魔にだって魂を売ってやる。


「まずは君を安心させてあげよう。君がこっちの世界に来たことは正しかった。確かに君の母親はこの世界にいるし、生きてもいる」


「それで今母さんはどこにいるんだ!?」


「君は進むべき道が分かっているゲームをして楽しいかい?それは自分で考えて悩んで手に入れる答えだ」


「何言ってんだ!ふざけるな!俺の半分は父さん、そしてもう半分は母さんでできているんだ!これはゲームじゃない!」


「いや、これはゲームさ。そしてここで君に答えを言ってしまうとレベルが低いままラスボスに挑むことになる。それじゃあ君も君の母さんも僕も困る。だからこれ以上は言えないな」


 こいつは人の大切なものをゲームとしか思っていない最低なやつだ。

 しかし、どういうことかこいつの言うことの方が良い気がしてならない。


「……俺が何を言おうとお前は何も言わないだろうからこれ以上はやめておく」


「おや、意外と物わかりがいいんだね、僕はそういう賢い子が大好きだよ」


「こんな綺麗な人に好かれて嬉しいよ」


「あはは、全くそう思ってないみたいだね」


 少しの沈黙が訪れたあとに相変わらずの余裕の笑顔でアテナが言う。


「せっかくだからヒントぐらいはあげようかな」


「どうした急に気前がよくなったじゃねぇか。逆に怪しいぞ」


「どうやら僕は相当信用をなくしたようだね」


 当たり前だ、人の大切なものをゲームと言うやつに信用なんかあるわけがないだろ、という言葉は声にならなかった。

 実際のところ俺のアテナに対する信用はゼロに近かった。 

 しかし、アテナは俺のことも母さんのことも知っている。だから無下に扱うわけにはいかないのだ。


「あらた君、君はもっと強くなることが必要だ。母さんや父さんに会いたいのならね」


「おいおい、ちょっと待てよ。何でここで父さんが出てくるんだよ!父さんは死んだんだ!母さんと違って死体だってあった!ふざけるのもいい加減にしろよ!」


「すまないが僕が言えるのは本当にここまでだ。それじゃあ僕はもう行くよ、こう見えても結構忙しいのでね。あぁ、あと、メロを頼んだよ」


「おい!待て、行くな!」

 

 そう叫んだ俺の声は俺とメロとリジルがいるだけの大きなホールに虚しく響くだけだった。

 俺の心に大きなモヤモヤを残して言ったアテナは音もなく消えていった。

 俺達はどうしたらいいのかも分からずただただ立ち尽くしていた。

 そしてそのままで少したったあと


「…あらた、帰ろ?」


 というメロの一声で神殿を出ることになった。

 

 俺の足取りは重く、剣の型に戻っていたリジルも少し重いように感じた。

 メロはいつもと変わらない無表情のままだった。


 神殿を出るといつまで待たせるんだという顔で皆が待っていた。俺達が神殿に入っている間に外は明け方ぐらいの時間になっていた。


「あらた君、暗い顔してなにかあったのですか?」


「まぁあったな。すごく、すごくあった。その辺は家に帰って説明するよ」


 俺はとてもとても重い足で家に帰ったのだった。


 超重要キャラ臭を醸し出しているアテナさんが登場したようです。


 こんな後書きをするのは僕ぐらいなんだろうなぁ…

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