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本当の強さ

「ふぅ」


 俺はシロが作った朝ごはんを食べながら、シロが入れてくれた紅茶を飲み一息ついていた。

 結局昨日はメロに何を聞いても、神の使いだからと言われ素性はほとんど何も分からなかったのでそのまま寝ることにした。

 俺の隣にタマ、正面にシロその隣にメロというかんじで座って朝食を取っていた。

 メイドというだけあってシロの料理や紅茶はとても美味しかった。

 普通なら誰もが羨む朝だろう。そのはずなのだが…


「私は朝はご飯派なのですが」


「文句言うならあんたのだけ作らないっすよ。自分で作ればいいんすよ、あっ不器用だから料理できないんすよねプププ」


「バカにしないで、おにぎり位なら作れるから!」


「むしろおにぎり作れないやつなんていないっすよ、それ自慢して恥ずかしくないんすか?」


 二人の間にジジジと飛び交う火花、そんなことは気にせず紅茶をすするメロ。

 あぁ誰か俺に平和な日常を返して


 俺が部屋に戻りベッドでゴロゴロしていると、猫舌のため朝ごはんを食べ終わるのが遅くなったタマが俺の部屋に来た。


「さぁ、行きましょう!」


「は?どこに?」


「あれ説明してませんでしたっけ?私今学校行ってるんですけど、あらた君の手伝いのためにやめようと思うのでついてきてください」


「…そんなことで学校やめちゃっていいの?」


「確かに学校やめるのはもったいないですが、あらた君の方が大事なので」


 そう言って少し微笑んだタマが俺に手を差しのべてくる。

 タマが学校をやめてまで俺の手伝いをしてくれるのは凄く嬉しが少し気が引ける。が、俺の方が大事とか言われたら断れる訳がない。

 俺はタマの手を取り学校へ行くことにした。


 この世界には五つの大国マーズ、マーキュリー、ジュピター、ウラヌス、ネプチューンと無数の小国からなっている。俺達が住んでいるこの国は五大大国の内の一つマーキュリーだ。

 このマーキュリーの中でも一番大きな魔法学校、メルクリウス魔法学校がタマの行っている学校だ。超難関校に入学しているあたりはさすがタマとしかいいようがない。

 家をでて二十分ほど歩いたあたりにあるメルクリウス魔法学校はいかにもお金がかかってそうな大きなきれいな学校だ。

 校庭では実習をしている生徒が何やら魔法を使っている。

 広い廊下を通り俺とタマは個室に入れられ、ソファーで座っていると、ヨボヨボの老人と眼鏡をしたいかにも真面目そうな中年の先生が入ってきた。


「校長先生と教頭先生ですよ」


 タマがこっそり教えてくれた。

 校長先生と教頭先生は俺達の正面に座ると真面目な顔で話を始めた。

 最初は挨拶などをしていたが本題に入っていく雰囲気となった。


「私達がお聞きした話よると、タマさんが学校をやめたがっているということですが?」


 ほとんど喋らないヨボヨボの校長先生の代わりに教頭先生が俺達と話している。


「そうです。私は学校をやめてあらた君の手伝いをしたいんです!」 


 タマは臆することなく教頭先生に自分の意見を言う。その顔に迷いはなく本気なのが伝わってくる。


「それであらたさんはどうお考えで?」


「そうですね…僕は正直こんなにもいい学校からタマをやめさせるのはもったいないとは思います。…でも、タマがやめたいと思うなら僕はその意見を尊重します」


 いかにもらしいことを俺は保護者という立場から述べる。

 やめさせるのはもったいないとは思うがタマが母さんを探すのを手伝ってくれるならすごく効率が上がると思う。ただ俺の勝手では決められないため、タマの意見に従おうと思う。


「…タマさんは成績も成績以外のこともとても優秀です。正直学校側としてはやめさせたくはありません」


「そんな!私は学校をやめたいです!」


「このままでは話が平行線になるでしょう。それでこんな案があるのですが」


 嫌な予感しかしない。

 こっちの世界にきてからというもの良いことがあったためしがない。絶対これも俺が巻き込まれるパターンだよ。


「あらたさんとうちの学校の職員でタマさんをかけて決闘するというのはどうでしょう」


 ほら見ろ!だと思ったよ!何だよ決闘って、いつの時代だよ!

 タマがこっちを真剣な眼差しで見つめている。

 そんな顔されちゃ断れねぇよ…


 俺はその後学校の広大な敷地の中にある闘技場に案内されていた。どうやって噂が広まったのか、観客席は超満員。みんな口々にタマちゃんをとらないで!とか、タマさんの保護者ずらするな!とか叫んでいる。


「どんだけタマ人気なんだよ…」


 見たとこ完全なアウェーで俺の味方はタマの一人だけらしい。

 対戦相手はまだ来ていない。しかも俺は何も言われることなくここに連れてこられたため相手の情報が皆無だ。


 そんなことを思っていると俺の反対側の扉が開き、対戦相手と思われる人が入ってきた。

 会場中が一気にざわめく。ざわめきの中から聞こえてきた情報を整理すると、相手はアルファ、元王国軍の団長らしい。先月に年を理由に引退したが実力は本物だということだ。 

 おかしくない?俺なんか昨日魔法の使い方を知ったんだぜ?新人潰しにもほどがあるだろ。


「おい若造、逃げるなら今のうちだぜ」


 ムキムキの元団長さんがこっちに近づいて来て俺にそう言ってくる。


「雑魚キャラ臭が漂うセリフだな、元団長さん」


「お前、俺をなめてんのか!俺は火、水、風、土の四つの属性に適正がある天才だぞ!」


「自分で天才とか言ってていたいし、脅しが街の路地裏にいるチンピラ並だわ」


 フンッと鼻をならすと元団長さんは向こうへ帰っていった。

 元団長さんが向こうへつくと放送が流れてきた。


「ルールは相手を倒す、それだけ!それでは開始!」


 いきなりすぎるだろ!


 両者まずは相手の出方を伺う。

 先に動いたのは元団長だった。

 火の魔法で狼を三体ほど作り、こちらに突進させてくる。

 とっさに俺は水の魔法を使う。が、イメージが細かくできなくて、三体の火の狼を消すだけのつもりが津波を起こしてしまった。

 このままでは自分の魔法で溺れ死ぬというめちゃくちゃダサい死に方をしてしまうので、風の魔法を使い空を飛びこれを回避する。


 幸い津波は観客席にまで行くことはなく、自殺者にも人殺しにもならずにすんだ。

 元団長さんの方を見ると土魔法で足場を作って津波を回避していた。


「少しはやるようだな」


 それ負けるフラグだから。

 また、先に動いたのは元団長さんだった。

 風魔法で空気を圧縮して弾を作り、それを俺を打ち落とそうと撃ち込んできた。

 俺は風魔法で強風を吹かせて、その弾を押し返す。つもりだったのだが、風の威力が強すぎて弾を押し返した風がさっき俺が出した水を派手にぶっ飛ばして観客席がずぶ濡れになる。

 飛び交うブーイング。

 まぁそりゃそうだわな。俺が観客でも言うわ。


「そんな雑な戦い方をするお前に俺が負けるはずないだろう!」


「だからそれフラグだって!」


 思わず声に出して言ってしまった。

 またまた団長さんが先に仕掛けてきた。

 俺はこれも使えると言わんばかりに土魔法で石の塊を作り、それを俺にぶつけてくる。

 俺も石の塊を作りそれをぶつけ相殺させる。つもりだったのだが、俺が作った塊は一つひとつがモアイ像ぐらいの大きさがあり、元団長さんが作った塊を軽く潰して水の影響でぬかるんでいた地面に突き刺さっていく。

 その時に泥が飛び散り俺はまたブーイングを受けた。

 俺って、バカなのか?


「まぁいいか、次はこっちからいきますよ」


 やっぱり最後はド派手に終わらせたい。そう思った俺は風、水、雷魔法でハリケーンを作り、その中に土魔法で作った岩を入れて元団長さんにぶつける。

 もちろんこれも加減ができているはずもなく、ハリケーンは天を突くほどの高さになった。

 十秒ほど元団長さんをハリケーンの中に閉じ込めたあと魔法を解除すると、さすがに防げなかったらしい元団長さんが倒れていた。

 いつまでたっても起き上がらない元団長さん。

 自分でしたことが自分で怖くなってきた。


「アルファさんは死んじゃったんだ、この人殺し!」


 ふいにそんな声が聞こえてきた。その声は徐々に広がっていき、気付けば会場全体で俺のことを人殺しと罵っていた。

 俺は自分が怖くなった。人を殺してしまった。そう、つまり俺は人殺しになってしまったのだ。自分が自分じゃなくなる感覚。別の人間に変わってしまったようた気がする。


「はやく、アルファさんをどうにかしないと!」


 アルファさんに近寄ると、息はなく、脈も止まっていた。

 俺はとっさに治癒魔法で蘇生するイメージをする。 

 攻撃魔法はゲームなどからイメージが用意に練れるが、治癒魔法は別だ。俺は人を生き返らせたことというより治療したことがない。それだけに蘇生のイメージを練ることはとても難しいことだった。


「君、今すぐ病院にその人を運ぶからどきなさい!」


 担架を担いだ他の教員であろう人が俺に半分怒鳴ったように言ってくる。

 しかし、今から病院へ運んでいては絶対に手遅れになる。つまり俺がここで蘇生するしかないのだ。


「うるせぇ!黙って見てろ!」


 骨はバラバラ、内臓は破裂し、体は穴だらけ。

 俺の中のありったけの魔力をつぎ込と、

 折れた骨が繋がる。破裂した内臓が元に戻り正常に動き出す。穴が開いた体が塞がっていく。


 「あとは雷の魔法で刺激を与えて心臓を動かす。」


 小さな電流をイメージし、アルファさんの体に流す。

 アルファさんの体がビクンと動いたあと、息が吹き返す。


「あぁ、良かっ…た…」


 この人殺しが。

 殺人者、何で生きてんだよ。


「ちっ、違うっ!あれはわざとじゃないんだ!」


 わざとじゃなきゃ人を殺していいと思っているのか、さすがは狂人だな。

 言い訳すんなよ人殺し。

人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し、人殺し


「違うんだ!」


 起きたら俺はベッドの上にいた。見知らぬ部屋だが見知った匂い。

 多分メルクリウス魔法学校の保健室だと思われる。


「目が覚めましたか?あらた君」


 隣にいたタマがこちらを心配そうに見つめている。


「あっ、まだ動かないで下さい。魔法の使いすぎで倒れただけなので命に別状はありませんが、魔力が回復するまでは安静にしないとダメです。そもそも蘇生魔法なんて何十人も集まらないとできない魔法なんですからそれを一人でするなんて無茶してホントにあらた君は。この前だって…どうかしましたか?」


「お前は、タマは俺が怖くないのか?」


「怖いって、なぜです?」


「俺は、俺は人を殺した殺人者なんだぞ?」

 自分で言ってて胸がいたくなる。 

 テレビとかで殺人のニュースを見る時はとても腹立たしい気分になる。

 しかしもう俺にそんな権利はなしい罪を償わなければならない。

 だって俺は、人殺し、なのだから。


「わざとじゃないんですよね?なら次から気を付ければいいんですよ。それにアルファさんは今もしっかり生きてます、それはあらた君が頑張って治療したおかげですよ。だからいいんです」


「いいわけないだろ!俺は人を殺したんだ!そうだよ俺は元からクズだった。お前らと暮らす資格なんかなかったんだよ!だから!だから…」

 俺が悪いくせに逆ギレまでしている俺は最低だ。

 そんな最低な俺をタマが優しく俺を抱き締める。母の様な安心感が俺を包む。


「約束…覚えてますよね?もう自分を責めないで下さい」


 俺の頬に液体が流れる。雨かと一瞬考えたがここは屋内それはあり得ない。

 じゃあどこからこの液体が。

 その答えはタマがそっと手を当ててくれた俺の目だった。


「ぁぁぅあ、あ?」


 俺は泣いていた。ボロボロと落ちる涙と鼻水は滝の様だった。言葉すら上手く喋れず、ただただ泣いていた。

 汚い、みっともない

 俺は自分でそう思ったがタマは何も言うことなく俺を撫でてくれた。

 女の子の胸の中で大泣きする男の子に、それを撫でる女の子。はたから見ればカオス、男の子からしたら憧れなその状況はしばらく続いた。



「ヘヘヘ、あらた君のせいでビショビショです」


「意味深な言い方しないでよろしい!」


 結局俺が泣き止むのに十分ほどかかった。その間タマは何も言わずに俺を撫でてくれた。

 タマは絶対に将来いい奥さんになる。それを改めて確認した。


「それにしてもあらた君相当溜まってたんですね。こんなに出しちゃって」


「だから意味深な言い方すんなよ!…でも、ありがとな」

 タマが「はい!」という顔でにこりと微笑んでいる。



「そういえばさ、結局勝負はどうなったの?」 


「あらた君の勝ちですよ。私のために本当にありがとうございました」


「でも本当にいいのかな、俺みたいな人殺しが勝ちになって」


「お前は人殺しではないぞ若造」


 そう言ってこの部屋に入ってきたのはアルファさんだ。

 頭や手足に包帯を巻いているものの、歩けているし命に別状はないようだ。


「でも俺はあなたを殺してしまった人殺しです。それは変わりません」


 自分の魔法の制御が下手だったせいで起こってしまった事故、いや俺が殺したから事故とは言わない。あれはれっきとした殺人だ。


「もう一度言うぞ、お前は人殺しではない」


 俺は自分の耳を疑ったが、聞こえたのは幻聴じゃないらしい。

 俺が殺した本人からお前は人殺しではないと言われた。まぁ正直意味が分からない。


「人殺しとは故意的に人を殺すやつのことだ。そして殺しが楽しみに変わればそいつはもう人間じゃない。お前は俺を自分が魔力不足になっても助けてくれた心優しい少年だ。だからあらた、お前は人殺しじゃない」

 

「アルファ…さん」


「いやぁ~しかしあんなにぼろ負けしたのは何十年ぶりかな、ガハハ。俺も一応元王国軍なのだがな」


 この時俺はある決断をしていた。

 今の俺の立場はもう養ってもらう側じゃない。家にはタマ、シロ、メロがいる。俺が養って生活していかなければならない。

 しかし俺にはバイトの経験などが全くないため、今から働いていても四人分のお金を手に入れるのは何年もかかるだろう。 

 だから俺は


「アルファさん、俺を王国軍に入れてくれませんか」


「本気か?」


「本気です」


 王国軍は俺の魔法がいかせるうってつけの仕事だと思う。更に実践経験を積めばもう二度と今日みたいなことは起こらない。

 タマ、シロ、メロという家族の為に、そして自分への戒めの為に俺は王国軍に入ることを決断した。

 だが、


「ダメだ。今のお前は軍には入れない」


 答えとして俺にかけられた言葉はそんな冷たいものだった。


「なぜですか!?自分で言うのもあれですが俺は魔法の才能は他の人よりずっと優れていると思います!」


「あぁ確かにお前の魔法の才能はすごいよ、才能だけなら王国トップ3には入っているかもな」


「ならどうして!」


「魔法戦だけが戦いだと思ってんのか?体を見れば分かる。お前接近戦できないだろ」


 確かに体つきも体格も人並み。武道などはしたこともなかった。そんな男が接近戦で勝てるわけがない。

 それでも、俺は軍に入ることを諦めれなかった。どうしても入りたい。そんな気持ちがわきあげてくる。


「二週間、二週間待ってください。それまでにあなたを唸らせるほどの接近戦の戦士になります」


「…いいだろう。ただし二週間以上は絶対に待たんぞ。まずは師でも見つけることだな」


 この世界には母さんを探す為にきた。そのために強くならなくてはならない。


「待ってろよ、絶対にギャフンと言わせてやるぜ!」


 そう叫びながら歩いているのは朝通ったのと同じ帰り道。

 朝も通ったはずなのになぜか帰りには全く違う道に見えた。

 今にも沈もうとしている夕日の赤色はまるで俺の心の情熱だった。師を見つけ接近戦をマスターする。その目標に向かって歩き出したのだった。


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