初恋ショコラbitter
「大丈夫か?」
「うん。熱はちゃんと引いたよ」
「そうだな。でも、昼はちゃんと昼寝するからな」
「分かった。ちゃんと言う事は聞くって」
「うん、いい子だ」
お盆の最中に熱を出してしまった私は、皆が帰ってからの二日間をベッドの中で過ごしていた。
その間のよっちゃんはベッドの後ろにある私の机で課題のレポートを作成していた。
三日ぶりにベッドから出ようと思ってゆっくりと立ち上がる。けれども落ちた体力のせいか、立っているのがやっとな状態な自分に驚く。
「な?流石に無理だろう?」
「でもね、流石にパジャマは嫌なの」
「そうだよな。じゃあ、シャワーを浴びて着替えたらどうだ?」
よっちゃんに言われて、箪笥から着替えを探す。その時に私は気が付いてしまった。そういえば寝込んでいた時の私の洗濯物はどこに行ってしまったのだろう?私は恐る恐るよっちゃんに聞く。
「あの……あのね、寝ていた時の私の洗濯物はどこにあるの?」
「それは、俺の家で洗っているから。俺は傍にいたけど、流石に洗うのもどうかと思ったし、食事の事もあったからお袋にやって貰った」
てっきりよっちゃんが洗ったのかと思っていたから、ちょっとだけ……本当はかなり気になった事が合って……その事を聞いてもいい事なのか悩みながら、私はよっちゃんを見つめる。
「悪い……お前の着替え……俺がした」
って事は、下着も見られたって事……だよねぇ。
「安心しろ。ちゃんと健全な反応したぞ。だからって襲ってもいないけど」
「私、そんな事を聞きたい訳じゃないよ」
咄嗟に私は言い返すが、逆によっちゃんは逆に真面目な顔で続けた。
「そこは今じゃないけど、俺達には重要な事だろう?」
「えっ?」
「お前は俺との家族が欲しいんだろう?」
私がずっと欲しいものは家族。私のその希望を叶えるためによっちゃんは私が18歳になったら学校に許可を貰ってから入籍する予定だ。不順異性交遊が当然のように校則違反とされている学校で、私達が望んでいる交渉は絶対にスムースにいくとは思っていないけど、そこは弁護士さんと相談しながら話を進める事にしている。
「うん。でも……そういう事は……」
「俺なりに、そこのところは誰よりも分かっているつもりだぞ」
「よっちゃん」
「ちいは、ちゃんと検査をして、治療が必要なら治療したいんだろ?」
よっちゃんに話したことない事を指摘された。今の私の体では彼と家族を作り上げることは不可能だ。
「原因を特定できるか分からないけど、そっちを先にしようぜ。俺はお前となら若いパパとママでもいいなって今は思っているし」
来年入籍すると二人で決めてから、少しずつ将来の話を決めている。一人だけの未来じゃなくて彼と一緒に歩く未来と描きたかったから。
今分かっている事は、高校卒業後私は専門学校に進学して、私の専門学校卒業と彼の高専の卒業が同じころになること。高専を卒業した後のよっちゃんは都内の工業大学への編入学を希望している。
私は高校卒業と同時に家を出る予定だったけど、よっちゃんの卒業までは自宅にいることにした。
その事で叔母が何か文句を言おうものなら、土地は借地として建物は買い取って貰う予定で考えている。そのお金等で都内で物件を探してもいいかなと思っている。
「なあ、お前が気にしている……ここ……形成手術するか?」
よっちゃんは私のお腹にある傷痕にそっと触れる。今まで触らせた事がなかった私はその事に驚く。
どうして、その痕がついてしまったかも今のよっちゃんは十分な程知っている。その事が私自身の足枷になっていることも嫌って程に分かっている。
「そこは……気持ち悪いかなって思っていた。相当大きく切られちゃっているし。でも……私の着替えを見た時に平気だったのよね?」
「ああ、逆に俺はその傷に感謝だ。お前死にかけたの忘れたのか?あの日があったから、俺はお前への気持ちを嫌って程に自覚したんだからな。こいつは責任重大だと思わないか?」
そう言って、パジャマ越しに傷痕をピンポイントに触れて来る。くすぐったいより変な感じだ。
そして彼に初めて聞かされた本音に更に私は驚かされる。
「驚いたか?そりゃそうだよな。俺も始めて言ったんだから」
そう言って、机から移動してベッドに腰掛けて私の膝の上に乗せた。
「そりゃ、男としては今すぐお前が欲しいよ。でもさ……これからもずっと一緒にいるって決めているお前だから……ゆっくりで時間をかけてもいいと思ってる」
「うん。でも……いいの?」
「だったらさ、来年の誕生日にお前を頂戴よ。それまでは……ちょっと悪戯はするだろうけど、絶対に最後まではしないから」
「うん。分かった」
「それにさ……お前の人生って今までは辛いものだったろ?これからは俺が甘やかすから……覚悟しとけよ」
いきなりの宣告に今日何度目か数えるのを忘れてしまったが、また驚く事になる。
「嫌か?」
「何が?」
「俺は俺のものって事。俺が全部貰ってやる。だから……俺の全部も貰えよな」
腰に巻きついていた腕に力を入れられて引き寄せられる。よっちゃんの体温が心地よくて、その鼓動は私以上に早く刻んでいる。よっちゃんの顔を見たいけど、今見たら拗ねることは分かっているからそんな事はしない。私は額をよっちゃんの胸元に押し付けた。
「そうね……貰ってもいいなら、貰う」
「控え目なお前も好きだけど……上を向けよ」
彼に見上げる様にって言われて顔を上げると、軽い音を立てて額にキスが落された。
そんな時、ラジカセからラジオCMが聞こえてくる。
『大人の初恋始めました。初恋ショコラbitter。君と甘さの先が知りたい』
「なあ、俺と大人の初恋……してみたくない?」
「耳元が弱い私の事を十分に分かった上で耳元で囁く。
「お手柔らかにお願いします。ケーキは?」
「それはだな……体調が完全に戻るまでのお預け。直ったら買ってやるから、今はこれで我慢しろ」
そう言うと、いつもよりちょっと荒くて激しいキスをする。
その後に、今までした事のない大人のキスをよっちゃんと暫く続けたのでした。